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ブリリンタ錠(チカグレロル)とプラビックス錠(クロピドグレル)

ブリリンタ錠(チカグレロル)とプラビックス錠(クロピドグレル)の比較について

2020年12月2日追記

ALPHEUS試験

フランスとチェコの49の病院が参加した共同研究によると、安定性冠動脈疾患を有しPCI適応患者を対象として以下の2群に振り分けて、心筋梗塞または重大心筋傷害の発生率、大出血リスクについて評価しています。

プラビックス服用群(300~600mg服用後、1日1回75mgを30日間継続服用):942例

ブリリンタ錠服用群(180mg服用後、1日2回90mgを30日間継続服用):941例

結果

48時間時点で観察された心筋梗塞または重大心筋傷害の発生率

プラビックス服用群:341/942例(36%)

ブリリンタ服用群:334/941例(35%)

2群間で有意差なし

 

48時間時点での大出血リスク

プラビックス服用群:0/942例

ブリリンタ服用群:1/941例

 

30日時点でおn小出血頻度

プラビックス服用群:71/942例(8%)

ブリリンタ服用群:105/941例(11%)

2群間で有意差があり、ブリリンタ錠服用群で小出血頻度が高かったとしています。

筆者らは上記の結果を受けて、PCI後の周術期心筋壊死の減少においては2剤における優越は見られないものの、30日時点における小出血リスクにおいてはブリリンタ群で高い傾向が示されたため、プラビックスの使用を指示するとしています。

プラビックス錠とブリリンタ錠との比較データ

2016年5月27日 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会の審査品目に抗血栓薬「ブリリンタ錠(チカグレロル)」が追加となることがわかりました。

 

ブリリンタ錠60mgはアストラゼネカが開発した急性冠症候群(P2Y12)受容体拮抗薬です。既存の類似医薬品としてはパナルジン(チクロピジン)、プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)があり、同様の作用機序となります。

エフィエント錠とブリリンタ錠の比較データ/プラビックスへの切り替えについての報告

当初、薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会の審査品目は5月13日に公開された8品目だけだったのですが、開催3日前に急きょ「ブリリンタ錠」が追加された形となりました。

そこで、今回は海外におけるブリリンタ錠の市場状況、評価、プラビックス錠との比較データについて調べてみました。

米国心臓病協会により推奨されるブリリンタ錠の詳細

海外でのブリリンタ錠の使用状況
2010年12月3日に欧州での使用が承認され、2011年7月20日に米国食品医薬品局(FDA)により承認を得ている血小板凝固阻害剤です。

注目すべき点は米国心臓病協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)ガイドライン(2014年9月)
「早期侵襲的治療および冠動脈ステント処理患者に使用するP2Y12阻害薬におけてクロピドグレル(プラビックス)よりもチカグレロル(ブリリンタ)を選択する方が妥当である」という記載です。

 

~プラビックス(クロピドグレル)とブリリンタ(チカグレロル)の薬物動態~

○プラビックス
プラビックスはプロドラッグであるため、肝臓のCYP2C19によって代謝をうけてから活性をもつという特徴があります。プラビックスの主代謝物(SR26664)の血中濃度がピークとなる服用後2時間ですので、効果発現までにある程度の時間がかかることがわかります。

またプラビックスのインタビューフォームではCYP2C19遺伝子多型が薬物動態に及ぼす影響が記載されています。プラビックスはCYP2C19により代謝をうけてから薬理活性を得る薬であるため、CYP2C19が少ない人ではプラビックスの効果が十分に得られないという報告があります。具体的にはCYP2C19の量が多い人と少ない人でプラビックスの主代謝物(SR26664)の体内量(AUC)を比較したところ40%程であるというデータが記載されています。日本人におけるCYP2C19の少ない人の割合は18~22.5%と言われていますので、約5人に1人はプラビックスは4割ほどしか効果が出ない人がいるということを意味します。

プラビックスの薬理作用はADP受容体のP2Y12に対して不可逆的に作用しますので、一度血小板に作用すると、その血小板による抗凝固作用は消失されます。血小板の寿命を7~10日とすると、プラビックスを休薬するためには7~14日が必要となります。

○ブリリンタ(チカグレロル)
ブリリンタはプロドラッグではないためプラビックスのように活性代謝を受ける必要はなく、CYPによる遺伝子多型が問題となることもありません。ブリリンタが消化管から吸収された後の生物学的利用率は36%であり、約1.5時間後にピーク濃度に到達します(服用30分後から効果発現するという報告あり)。ブリリンタ(未変化体)として体内で抗血小板作用を占める割合は60~70%、残り(30~40%)は肝臓のCYP3A4で代謝をうけます。

主代謝物(AR-C124914XX)にもブリリンタ未変化同様の薬理活性があり、服用後2.5時間ほどでピーク達します。未変化体および主代謝物は胆汁や糞便を介して排泄されます。ブリリタ錠は、受容体との結合が可逆的であるため、休薬により血小板凝固作用が素早く回復するという特徴があります。休薬後2~3日で血小板凝集能が回復するようです。
日本人では白人にくらべて濃度が40%(体重補正で20%)高くなるというデータを報告しているものもありますので、国内承認量は確認してもいいかもしれません。

~プラビックスとブリリンタとの比較データ~

ブリリンタを製造しているアステラス製薬が第Ⅲ相行群間比較試験として行ったPLATO試験が一つの指標かと思います。18624例の患者さんを対象としてプラビックス+アスピリンまたはブリリンタ+アスピリンが投与された二重盲検比較データです。

結果は12か月後の1次エンドポイント(血管死+MI+脳卒中の複合)頻度はブリリンタ群:9.8%に対してプラビックス群11.7%(HR0.84%;0.77-0.92)有意差があるデータとなっています。全死亡に関してもブリリンタ群4.5%に対してプラビックス群5.9%と抑制されたデータとなっています。大出血の有害事象に関しては有意差がでていません。

上記データはアステラス製薬が治験データとして公開してるものですが、それ以外の調査機関が公開したデータとしては2016年5月10日NEJM誌オンラインに公開されたものがあります。ブリリンタ錠またはアスピリンを投与した場合の脳卒中や心筋梗塞、脂肪発生リスクを13000例を対象として調査したもので、その結果は各疾患の発生率に両群間の有意差が認められないという内容になっています。有害事象に関しても有意差はでていません。これらのデータをどのように解釈するかはそれぞれかと思います。

ブリリンタ錠のデメリットを一つ上げるとすると1日2回服用しなければならないことです。抗血栓薬に限らず、内服薬の服用回数におけて1日1回の服用率に比べて1日2回の服用率はその割合が下がります。そのため1日1回服用のプラビックスからブリリンタへ変更する際は、その患者さんの生活スタイル、コンプライアンス、症状などを総合的に判断して有用性を検討する必要があるかと思います。

 

2017年2月ブリリンタ錠60mg/90mgが発売開始となりました。

 

ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業

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ojiyaku