京都大学の研究チームはジプレキサ錠(オランザピン)を服用することで糖尿病が発症するメカニズムを解明したことを発表しました。
ジプレキサ錠を服用すると食欲亢進に伴う体重増加が20%程度の患者様で報告されており、それに続きインスリン抵抗性に伴う糖尿病の悪化が懸念されていましたが、場合によっては肥満を伴わずに糖尿病を誘発するケースも報告されており、そのメカニズムは不明とされていました。
ジプレキサ錠服用による糖尿病発症のメカニズム
インスリンを分泌するためには、その前駆体プロインスリンが小胞体で成熟型となる必要があるのですが、ジプレキサを投与されたマウスでは、インスリンの分泌が抑制されたことが観察されました。調査の結果、ジプレキサを投与されたマウスでは、小胞体に蓄えられたプロインスリンに顕著な構造異常が認められ、プロテアソームによって分解されていることが明らかとなりました。
ジプレキサを投与されたマウスの膵臓を解析した結果、プロインスリンの構造異常と存在量の低下が確認されました。
以上の結果を受けて、ジプレキサ錠の作用機序としては、直接膵臓β細胞に対して、プロインスリンの成熟(正しい構造形成)を妨げ、異常構造プロインスリンの合成⇒分解という作用により、正しいインスリンの合成を抑制することでインスリン分泌低下から糖尿病を発症させることが示唆されました。
この作用機序により、ジプレキサ錠内服患者においては、肥満やインスリン抵抗性に関わらず、糖尿病を発症する機序が説明できるとしています。
ジプレキサ錠(オランザピン)を飲むと1~2割程度の方が「食欲が増えた気がする(食欲亢進)」「体重が増えてきた」とおっしゃる方がおります。今回は、現在まででわかっている範囲ですが、ジプレキサを飲むことで食欲が増える理由について調べてみました。
セロトニンが脳内の「満腹中枢」を刺激すると我々はおなかがいっぱいになります。この時の「満腹中枢」にはいくつかあるのかもしれませんが、今回はセロトニン5HT2C受容体へセロトニンが作用したことを「満腹中枢が刺激された」と考えます。
セロトニン5HT2C受容体に対する作用には現在3~4種類の作用方法があると考えられています。
セロトニン5HT2C受容体に以下の作動薬がくっつくと満腹中枢が刺激されて「おなかいっぱい」と感じます
~作動薬の例~
・セロトニン
・ロルカセリン(米国FDAで肥満治療剤として使用されている薬)
・トリプタミン(いわゆる脱法ドラッグ)
デパス・リーゼ・ソラナックス・ワイパックス・レキソタンの安定剤として効き目を薬物動態から考える
作動薬よりは効き目がよわいながら、活性化させることができる成分です。上記の作動薬よりは弱いながら「満腹中枢」に対して「ちょっぴりおなかいっぱい」を感じさせる成分という印象でしょうか
~部分アゴニストの例~
・レキサルティ
セロトニン5HT2C受容体を遮断すると満腹中枢への刺激が減ります。そのため「おなかがいっぱいになりにくい」という状況になります。マウスでの実験ですが、5HT2C受容体を持たないマウス(欠損させたマウス)は過食・肥満・代謝異常が生じることが見いだされています。
~遮断薬の例~
・トラマール/トラムセット/ワントラム
・エビリファイ(試験管内のデータです)
逆作動薬とは作動薬とは反対の作用を及ぼす医薬品のことです。遮断薬は“受容体を覆ってブロックする”はたらきでしたが、逆作動薬は受容体にくっついて“作用薬と逆のはたらき”を示します。5HT2C受容体逆作動薬は「おなかいっぱいの逆=おなかすいた」状況を作ることが予想されます。
~逆作動薬の例~
・ジプレキサ
・三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬
など
5HT2C受容体逆作動薬による食欲UPに関してヒトにおける具体的な報告を見つけることができなかったのですが、ラットにおけるデータではオランザピン(逆作動薬)は遮断薬に比べて有意な体重増加を確認したという報告があがっています。(遮断薬を服用したラットにおいても体重増加は確認されておりますが、逆作動薬では体重増加が大きかったという報告です。)
上記のことから5HT2C受容体に関しては、遮断しても太る、逆作動薬を使用しても太る、作動薬を使用すると「おなかいっぱい」となることがわかりました。
日本国内ではロルカセリン(作動薬)は認可されておりませんので、ジプレキサによる過食・肥満を抑えるためにカウンターとして使用する薬はなさそうです。
頓服薬として使用したときのエビリファイ・リスパダール・ジプレキサの違いについて検討する