頓服で使用されるリスパダール内用液の効き目を検討する
リスパダールには錠剤・OD錠・内用液・筋注と用途によりさまざまな剤形があります。私は調剤薬局で勤務しているため筋注を除く3剤形をてにすることがあるのですが、内用液が頓服として処方されるケースをよく目にします(適応症として頓服の用法はありません)。そこで今回はリスパダールを頓服で使用したときの効果について検討しました。
上記の3剤形については、服用後の薬物動態について極端に大きな違いはありません(内用液が若干Tmaxが早い程度です)。3剤形はいずれも服用後、未変化体が肝臓にて代謝をうけ主活性代謝物と変化します。リスパダールの活性代謝物は未変化体に比べて力価が高く、半減期も未変化体3時間にくらべ活性代謝物20時間と変化します。つまりリスパダールは力価も作用時間も主活性代謝物となってから本領を発揮する薬といえます。
授乳婦が使用する抗精神病薬について
リスパダールの効果はセロトニン・ドパミン拮抗薬です。ハロペリドール錠のようにドパミンD2受容体に対して拮抗作用を示すことで陽性症状(幻覚・妄想)に対してすぐれた効果を示すだけでなく、セロトニン5HT2受容体拮抗作用を示すリタンセリンのように陰性症状(興味喪失・感情鈍麻)を改善する効果があります。さらにD2受容体拮抗作用の副作用である錐体外路症状を減弱させる効果も備わっており、抗精神病薬として非常に有用な薬と言えます。
リスパダール錠の主活性代謝物は半減期が20時間を超えます。
4×20時間>24時間(投与間隔)
という式を満たしていますので定常状態がある薬と言えます。
つまり薬学的に考えるのであれば、5~7日飲み続けることでリスパダールの活性代謝物濃度が定常状態に達し、製造メーカーが考える効果が期待されるわけです。
しかしリスパダール内用液は「不安時・不穏時・イライラ時」といった“頓服”として処方されるケースが多々あります。頓服薬としての適応はないものの、実際に患者さんが頓服使用することで十分な効果が出ているという事実があります。1日の最大使用量12mgを超えない程度であれば保険請求で切られた経験もありません
そこで今回はリスパダール内用液の主活性代謝物を頓服使用したときに、どの程度の効果があるかについて、薬物動態を確認することで調べてみました。
リスパダール内用液1ml(1mg)の主活性代謝物についてのデータは
Cmax:5.39ng/ml、AUC:116.54ng・hr/ml、Tmax:2.67hr、T1/2:20.91hr
となっています。今回注目する頓服としての効果を確認するため、CmaxおよびTmaxに着目してみます。
図1
内用液のグラフ(図1:白丸○)をみるとおよそ1時間程度でTmaxに近い値まで血中濃度が上がっていることがわかります。さらにその効果は8~12時間ほど継続されることがグラフより読み取れます。
では次にリスパダール錠1ml(1mg)を7日間連続投与したときの主活性代謝物の血中濃度を確認します。
図2
半減期を20~25時間と考えると、服用開始後4~6日で定常状態に達することが計算できます。リスパダール1mgを服用開始すると図2に示すように3~9ng/ml程度の血中濃度量が主活性代謝物の維持量となり定常状態に達することがわかります。
図2の左側に赤い丸で囲んだ部分があります。これが単回投与した時のリスパダール主活性代謝物の血中濃度です。図1と同じデータなのですが横軸(時間軸)が短いため異なる図のように見えます。
製薬メーカーはリスパダールについて、24時間安定した効果を発揮する量(維持量)として厚生労働省より薬の承認を得ているため、頓服使用での効果について学術に質問をしても回答を得ることができませんでした。そこで、リスパダール内用液1ml(1mg)を単回投与した時の主活性代謝物の血中濃度が、製薬メーカーが効果を保証する3ng/mlを超える時間を確認してみました(図1)。
リスパダール内用液主活性代謝物(白丸:○)では服用後1時間以内(40分くらい)で3ng/ml以上の血中濃度となっていることがわかりました。さらに、その効果は5ng/mlをピークとして8~12時間程度持続していることがわかりました。
先発医薬品であるリスパダール内用液の添付文書およびインタビューフォームには1ml(1mg)の薬物動態データしか記載がありません。しかし後発医薬品リスペリドン内用液「アメル」には2mg/2ml未変化体血中濃度のデータが記載されています。このデータを利用してリスペリドン2mgを頓服使用したときの効果について検討してみます。
リスペリドン2mg/2mg(未変化体)血中濃度データ
Cmax:12.39ng/ml、AUC:51.29ng・hr/ml、Tmax:1.04hr、T1/2:2.79hr
残念ながら後発医薬品の添付文書およびインタビューフォームには主活性代謝物の血中濃度データを記載する義務はないため、実際効果を発揮する主活性代謝物の薬物動態を確認することができませんでした。おおよその目安でしかありませんが、先発医薬品リスパダールの添付文書には未変化体および主代謝物の薬物動態が記載されていますので、そのデータを利用して比例式でリスペリドン2mg/2ml(未変化体)血中濃度から主活性代謝物のの薬物動態を推測した場合
リスペリドン2mg/2ml(主活性代謝物)血中濃度推測データ
Cmax:9.2ng/ml、AUC:171.6 ng・hr/ml、Tmax:3.43hr、T1/2:16.3hr
上記はあくまで推測データではありますが、リスペリドン内用液2mg/2mlを頓服使用した場合、服用1時間後から効果が発現し、3時間後までには9ng/ml程度まで血中濃度が上昇し、8~12時間程度持続することが予想されます(リスパダール1mgを1日1回服用し、定常状態に達する程度の力価)。あくまで予測値ではありますが、患者さんにどの程度の効果が発現するかの目安にはなるかと思います。
さらに、リスペリドン錠「アメル」の添付文書にはリスペリドン3mgを2T/2×7TD服用した時の未変化体血中濃度についても記載されています。
リスペリドン6mg/2× 7TD使用したときの未変化体血中濃度のデータは
Cmax:62.39、AUC538.94、Tmax:2.7、T1/2:11.24
となります。
リスペリドン1mg/1× 7TD使用した時の未変化体Cmax:6.94ng/mlです。
用法が2×と1×なので単純は比較はできないのですが、6mg/2×のCmaxの値は1mg/1×のCmaxおよそ9倍の血中濃度となります。
注:抗精神病薬として実感できる薬の効果は比例ではありません。効き目には個人差があるためデータで推し量ることはできません。あくまで計算上の目安でしかありませんのでご了承ください。
まとめ
リスパダール内用液の頓服使用は、製薬メーカーが規定する用法ではないものの、実際の医療現場では良く目にする用法であり、服用した患者さんへの効果も確認されている用法です。実際の血中濃度をインタビューフォームより確認したところ、リスペリドンの量にもよりますが、服用1時間後にはある程度効き目が実感できる主活性代謝物血中濃度となっていることがわかりました。また、その効果は8~12時間程度持続するものと示唆されました。