遅発性ジスキネジア治療薬「バルベナジン」を承認申請(田辺三菱製薬)
田辺三菱製薬は2021年4月22日、遅発性ジスキネジア治療薬「バルベナジン」(開発コード:MT-5199)について、日本国内で承認申請したことをホームページに公開しました。
(日本国内で遅発性ジスキネジアを効能効果とする治療薬はありません。)
遅発性ジスキネジアとは、抗精神病薬を長期間使用している患者様に生じる疾患で
「口をもぐもぐする」
「繰り返し唇をすぼめる」
「舌を左右に動かす」
「口を突き出す」
「歯を食いしばる」
「眼を閉じるとなかなか開かずしわを寄せる」
といった症状を呈します。
原因としては、抗精神病薬を長期間服用することで脳内のドパミン受容体感受性が増加したためと考えられています。
田辺三菱製薬が承認申請を目指している「バルベナジン」は「小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害薬」という作用機序の薬剤です。以下に「ドパミン・小胞・VMAT2・遅発性ジスキネジア」に関する情報・薬理作用を順に記します。
バルベナジンの臨床報告データ
ドパミンと呼ばれる神経伝達物質は「神経細胞」と「神経細胞」との間でやり取りされ、情報を伝達する働きがあります。通常状態で、ドパミンは神経細胞の中にある「小胞」と呼ばれる部分で保管されています。(小胞の内部にはドパミンを分解する酵素はありません)
一方で、小胞から細胞質へ排出されたドパミンは、ドパミンを分解する酵素(MAO)にさらされることになり、その量を減らすことになります。そのため、ヒトの脳内では必要時のみ小胞から必要量のドパミンを細胞質に排出し細胞室からシナプス間隙へ排出して、体の動きをコントロールしていることになります。(ドパミンを無駄に分解されないように、不必要なときは小胞でストックしています)
遅発性ジスキネジアを発症している患者様の脳内では、ドパミン受容体が増加していますので、“ドパミンが効きすぎてしまう状態”となっており、不随意運動として「口がもぐもぐする」「舌を動かす」などの意図しない症状がでてしまっている状態です。
そのため治療薬としては“「ドパミンの量」を少し減らす薬“がターゲットとなります。
バルベナジンは“小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害薬”ですので、小胞がドパミンを取り込むための“入口”を塞ぐ効果があります。
バルベナジンを投与された患者様の脳内神経細胞内では、“小胞の入り口“が開かずに「ドパミン」を取り込むことができません。すると細胞質内にドパミンがフワフラと浮遊することになります。すると細胞質内に存在するドパミン分解酵素(MAO)にドパミンが付着して分解されてしまします。
上図はイメージ図です。
左が正常状態、右がバルベナジンを使用した状態をイメージしています。
バルベナジンを服用することで、小胞外膜に設置されているドパミン取り組み口(VMAT2)がバルベナジン(赤い三角)でふさがれるため、小胞内にドパミンをストックすることができなくなってしまいます。
その結果、細胞質内で浮遊するドパミンがドパミン分解酵素につかまってしまい、分解を受ける頻度が増えてしまうというイメージを図にしました。これにより細胞内の総ドパミン量が減少し、ドパミン受容体感受性増加が原因で生じる遅発性ジスキネジアを軽減できることが示唆されます。
臨床データ
1日1回バルベナジンを40mg毎日服用し、4週目に1日1回80mgへ増量して(必要に応じて40mgへ減量)48週間(約11カ月)服用を続けた臨床報告データを以下に記します。
評価としては服用開始から48週時点における異常不随意運動評価尺度の改善割合を評価しています。163人が治験に参加し、103人が48週までの治療を継続しました。
被験者(55~85歳)
異常不随意運動評価尺度が10%以上改善した割合:97.1%
異常不随意運動評価尺度が30%以上改善した割合:95.7%
効きめ良好:88.6%
著効:44.3%(100%改善した患者(11.4%)を含む
被験者(15~84%)
異常不随意運動評価尺度が10%以上改善した割合:97%
異常不随意運動評価尺度が30%以上改善した割合:90.9%
効きめ良好:81.8%
著効:27.3%(100%改善した患者(6.1%)を含む