夜尿症(小中学生)と薬についての自分まとめ
小中学生の夜尿症に使用される薬といって最初に思い浮かぶのは「ミニリンメルト」なんですが、先日、初回処方で「ポラキス2㎎」1日3錠という処方を目にしました。
この処方の良しあしは別として、夜尿症に関する病態や薬識を深めるべく、自分まとめを作成しました。
夜尿症
日本国内において、小中学生の6.4%が罹患する有病率の高い疾患です。 夜尿症の明確な定義は難しいですが、5歳以上の小児で夜間・睡眠中に不随意あるいは故意に尿を漏らすこと、器質的疾患が否定されたものと2000年ころに定義されました。
この場合の器質的疾患とは先天的または後天的に膀胱や脳における利尿ホルモンなどに明確な異常があることを意味しており、夜尿症ではそのような器質的な疾患が否定された症例が該当します。 頻度としては1週間に2回以上で最低でも3カ月以上、夜尿があるか、臨床的に有意な苦痛を生じたり、社会生活・学校生活で不具合が生じるものとされています。
その後、2020年に国内のガイドラインでは ・5歳以上の小児の就寝中の間欠的な尿失禁 (間欠的とは:夜尿状況がずっと続くわけではなく、しばらく止まったと思ったらまた起こるというように断続的に繰り返される状況を意味します) ・昼間尿失禁や他の下部尿路証の合併の有無は問わない ・1カ月に1回以上の夜尿が3カ月以上続く ・1週間に4回以上の夜尿を、「頻回」、3日以下の夜尿を「非頻回」 と定期さています。
夜尿症の原因
・睡眠から覚醒する能力
夜尿症患者では起こしても覚醒しにくいという報告があり、音刺激による覚醒の検討では、覚醒までの閾値が高いことが示されています。この状態は夜尿症の小児がよく眠っていることを意味するわけではなく、むしろ睡眠の質が悪いという報告があります。
眠りが浅く、頻回に大脳皮質の覚醒があるものの起きることができない状態という示唆があり、大脳皮質の覚醒は不安定な膀胱の収縮に関与していると報告されています。
また、夜尿は主としてノンレム睡眠(眠りが深い睡眠)の時期に見られるとの報告もあります。
・夜間の膀胱の畜尿能力(膀胱容量の減少)
夜尿症の小児では、排尿筋の抑制について日内リズムに欠陥があるという報告があり、睡眠中の尿流動検査において、夜尿の西院膀胱の収縮頻度が増えていることが判明しています。骨盤底筋の活動が亢進せずに夜尿を来してしまう状態です。
・夜間の尿の生成(夜間多尿)
睡眠中の抗利尿ホルモンの分泌低下、尿中へのカルシウム排泄量の増加、飲水過剰、塩分やタンパク質の摂取過多などの関与も報告されています。
・発達の遅れ
夜尿症の小児では中枢神経の発達の点で相違が見られ、膀胱機能の検査と脳波検査から発達の遅れが報告されています。発達とともに睡眠中に膀胱内への尿の充満の認知・膀胱の収縮の抑制に関する改善が見られるとしています。
・遺伝的要因
両親のいずれかが夜尿の既往があると、その幼児は、そうでない両親の幼児と比較して5~7倍、夜尿になりやすいと報告があります。また、両親ともに夜尿の既往があると11倍、夜尿になりやすいという報告もあります。
その他の要因
心理的異常や行動異常は夜尿症に起因する症状とかんがえられ、夜尿の原因をおもに精神的な問題とする明らかなエビデンスは乏しいとされています。
治療薬
ミニリンメルトOD錠(デスモプレシン)
抗利尿ホルモンの類似構造をもつ合成ペプチドであり、腎臓における尿の再吸収を促進させる作用により、膀胱への尿の流入量を低下させる作用が期待されます。
夜尿症の適応としては錠剤と、点鼻薬があります。
原則として6歳以上の小児に処方され、寝る前に使用します。効果持続時間は服用量にもよりますが5~7時間程度
臨床データ
年齢範囲6~11歳の患児を対象として2週間、寝る前にミニリンメルトを服用した場合の比較試験が行われました。
寝る前にミニリンメルトを飲んだ群と飲まなかった群を比較した場合
飲んだ群:2週間の夜尿回数:12.2日→8.9日
飲まなかった群:2週間の夜尿の回数:12.4日→10.9日
ということで、飲んだほうが2週間という期間における夜尿の回数が減少していることが報告されています。
トリプタノール/トフラニール/アナフラニール/
三環系抗うつ薬という分類の医薬品にトリプタノール・トフラニール・アナフラニールという医薬品があります。
これらの薬には脳内のセロトニン・ノルアドレナリンといった神経伝達物質の脳内濃度を高める作用が期待されます。
これらの医薬品には、抗うつ効果に加えて、抗コリン作用、睡眠と覚醒の調整・抗利尿ホルモンの分泌刺激作用が期待されており、夜尿症に使用されています。
初回投与量は10㎎として、就寝前に少量の水で飲むことがポイントです。
1週間後に効果がみられなければ、体重量に応じて増量する手順となります。
口喝・便秘・発汗・頻脈などの副作用に注意です。
抗コリン薬
排尿時はアセチルコリンが放出され、膀胱筋が収縮して排尿がおこります。抗コリン薬は膀胱の収縮刺激を低減させて利尿筋を弛緩させ、膀胱に尿を蓄積させる効果が期待されます。
ポラキス(推奨グレード:C1)
寝る前に2~4㎎を使用する(米国:6歳以上に10㎎/2×)
バップフォー(推奨グレード:B)
ベシケア(推奨グレード:C1)
寝る前に5~10㎎を使用する(米国:体重依存(60㎏超で5㎎/VDS)
トビエース
寝る前に4~8㎎を使用する(米国:6歳・25㎏以上で4㎎/日)
その他(漢方薬等)
小建中湯:腹直筋の緊張を軽減する
桂枝加竜骨牡蛎湯:下腹直筋の緊張を軽減する、神経過敏にも効果あり
抑肝散:ミニリンメルトとの併用で約7割に効果があったという報告あり
ということで、小児の夜尿症に関しては、ミニリンメルトやデスモプレシン点鼻が第一選択薬ですね。
これに加えて第二選択薬として抗コリン薬を追加することは、夜尿の頻度を減少させる可能性が示唆され、欧米ではミニリンメルトと抗コリン薬の併用が行われています。
ということで、冒頭に記載しましたように、小児の夜尿症に対して、ファーストチョイスでポラキスを選択することは・・・・改善の期待値としては高くはない可能性が示唆されます。

yanyou (1)