厚生労働省は製薬メーカーに対して、鎮咳薬などの増産に関する補助金交付の募集を開始しました。
医療上の必要性の高い医薬品として安定確保医薬品(カテゴリーA,B及びC)および感染症等の拡大に伴い供給不安を引き起こしている医薬品(解熱鎮痛薬、トラネキサム酸、鎮咳薬および去痰薬)が該当品目です。
ただし、交付申請日以前2年間において、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)の規定に基づく行政処分を受けていないことというルールが添えられましたので、沢井製薬や辰巳化学などは、この補助金を受けられないことになります。
補助基準額
①設備整備事業
上限 2億4,800万円
②人的体制整備事業
上限 1億500万円
採択予定件数
予算の範囲内において、設備整備事業及び人的体制整備事業の合計で10~15件程度
医療用医薬品の供給不足が依然として続いているわけですが、厚生労働省は「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(第9回)」を開催し、その理由と安定確保に関する対策について話し合いを行いました。
供給不足の一番の理由は「品質トラブル・製造トラブル」であり以下の製薬メーカーが薬機法違反により行政処分が実施されています
小林化工株式会社(福井県) 2021年2月9日(業務停止、業務改善)
日医工株式会社(富山県) 2021年3月5日(業務停止)
岡見化学工業株式会社(京都府) 2021年3月27日(業務停止、業務改善)
久光製薬株式会社(佐賀県) 2021年8月12日(業務停止)
北日本製薬株式会社(富山県) 2021年9月14日(業務停止、業務改善)
長生堂製薬株式会社(徳島県) 2021年10月11日(業務停止、業務改善)
松田薬品工業株式会社(愛媛県) 2021年11月12日(業務停止、業務改善)
日新製薬株式会社(滋賀県) 2021年12月24日(業務停止、業務改善)
富士製薬工業株式会社(富山県) 2022年1月19日(業務改善)
共和薬品工業株式会社(兵庫県、鳥取県、大阪府) 2022年3月28日(業務停止、業務改善)
中新薬業株式会社(富山県) 2022年3月30日(業務停止、業務改善)
辰巳化学株式会社(石川県) 2022年9月2日(業務改善)
株式会社廣貫堂(富山県) 2022年11月11日(業務停止、業務改善)
ニプロファーマ株式会社(秋田県) 2023年2月24日(業務改善)
フェリング・ファーマ株式会社※(厚労省)※海外の原薬製造所のGMP違反 2023年4月28日(業務改善)
2021年の小林化工の行政処分が行われた時点では「医薬品の供給不足は2年ほど続く」と言われていたものですが、2年経過した現在でも供給不足の目処は立っておりません。当時は業務停止→業務改善が行われれば供給量が増えると思案されていたものですが、実際ふたを開けてみると、製造トラブル→供給停止となる品目が多数存在したため、市場への供給量が増えていない実情が明らかとなりました。
2019年以降の薬価収載基準削除品目数を確認したデータによると
薬価収載基準削除願数は
2019年:586品目
2020年:613品目
2021年:555品目
2022年:1294品目
2023年10月:1276品目(薬価削除手続き中)
となっており、これまで入荷できていた医薬品が年々へっていることがわかります。
医療用医薬品は2万製品が薬価収載されていることを考えると、その5%が市場から姿を消していることとなります。
薬価削除により、他社の同一成分の供給に影響を与えており、今後も薬価削除品目が増加することが見込まれていますので、「薬不足」の解消にめどが立っていないことが実情です。
それに加えて、昨今のインフルエンザ・コロナウイルスの感染拡大により、解熱鎮痛剤・去痰薬・鎮咳薬などの対処療法薬に対する需要増が「薬不足」を助長しています。
また、製薬会社が「供給停止・限定出荷」とする理由の一つとして「不採算」が要因してあげられており、薬価の下支えが必要な医薬品も多数存在します。過去に不採算医薬品を「基礎的医薬品」と位置付けて薬価を引き上げた例がありますので、現場に必要な医薬品については同様の措置を願いたいです。