NOAC(プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)は、ワーファリンに比べて脳卒中または全身性塞栓症の発症予防効果および頭蓋内出血リスクにおいて、優越性または非劣性が示されています。また大出血発現頻度においても非劣性または優越性を示すデータが添付文書に記載されています。今回は実際の使用報告をもとにして、各薬剤とワーファリンとの差異および剤形特性について検討してみます
追記:2021年1月31日
2021年に入り、イグザレルト錠に関するアップデートがありましたので記載しいます。
イグザレルトOD錠10mg/15mg発売
バイエル薬品は2021年1月18日、イグザレルトOD錠を新発売しました。嚥下力が低下した高齢者らでも唾液で溶けて水なしで服用可能です。
イグザレルト10mg直径6㎜/厚さ2.8㎜→OD錠直径7㎜/厚さ3.2㎜
イグザレルト15mg直径6㎜/厚さ2.8㎜→OD錠直径8.5㎜/厚さ3.4㎜
普通錠は10mgも15mg錠剤サイズは同じでしたが、OD錠ではサイズが異なります。調剤過誤対策としは有益に感じます。
海外の事例ですが、イグザレルト錠を粉砕経口投与して死亡した例がありましたので、OD錠の登場は非常に有益に感じます。
イグザレルト錠に「小児における静脈血栓塞栓症の治療および再発抑制」の効能効果追加、ドライシロップ小児用発売開始
2021年1月22日、イグザレルト錠に小児の静脈血栓塞栓症の適応が追加となりまし。
NOAC初の小児適応剤となります。小児の静脈血栓塞栓症に対する適応が追加となり、新生児・乳幼児の服用に適した剤形としてドライシロップ小児用の規格が追加となりました。
先天性疾患を有する小児において、中心静脈カテーテル留置、長期臥床、脱水などのリスクにより小児の静脈血栓症を発症することがありますので、小児に対するNOAC製剤の承認は非常に有機です。
イグザレルト錠は2012年1月に「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」という適応で承認された医薬品です。
発売から9年がたった2021年に新剤形およおび、新規適応症を追加した狙いとしては、この先数年後に発売されるジェネリック医薬品に対する対抗策なのかもしれません。
・虚血性脳血管障害で、ワーファリンに比べて唯一優越性がある
・肝障害患者への安全性が高い(腎排泄率80%のため)
・血中濃度は活性化部分トロンボプラスチン時間と相関関係にある
・脳内出血リスクが低い(国内データを含む)
・消化管からの吸収率が6.5%と低いため吸収量にバラつきが生じやすい。そのため1日2回服用しなければならない。また吸収できなかったプラザキサは高濃度に糞便中に含まれるため、プラザキサ150mgはワーファリンに比べて消化管出血率が高い。(上部消化管と下部消化管での出血率は同等)
・剤形の特徴としては、吸湿性が高いため開封できない。遮光袋に保管する。1包化調剤することができず、PTPシートのままで患者さんへ手渡さなければならない。高齢者では飲み忘れる可能性がある。また1カプセルが大きいため、高齢者や女性には飲みにくい剤形となっている。脱カプセルおよび粉砕不可、半錠カット不可
・術前1~2日前に中止すること
・腎排泄率が80%なので腎機能障害者や75歳以上の高齢者では出血合併症が高まるおそれがある
・ワーファリンに比べて消化管出血のリスクが高い
・血中タンパク結合率は92~95%と高めであるため、血中濃度と抗凝固剤効果との間に相関関係がある
・血中濃度はプロトロンビン時間に相関する
・頭蓋内出血リスクがワーファリンより低い
・術前日に内服を中止すること
・海外では20mg/15mgが使用されており、国内では15mg/10mgが使用されているため海外データをそのまま流用するかどうかについては、判断が求められる
・投与量の約2/3が肝臓CYP3A4で不活性代謝物へと代謝された後、尿中および糞中に排泄される。残り約1/3が未変化体のまま腎排泄される
・1日1回使用であるためコンプライアンスが維持されやすい。錠剤径も小さく飲みやすいが、10mg錠と15mg錠の大きさ、色、形がそっくりなので見分けがつきにくいというデメリットもある
・1包化調剤可能
・粉砕するとCmaxが高くなり、Tmaxが早くなるため、効き目が増す可能性がある。投与の際は注意が必要となる。粉砕後に、経管投与した症例で肺胞出血にて死亡に至った事例が1例報告されている。
~2016年フランスSNIIRAM報告:対象患者10万例~
イグザレルト・プラザキサの有効性および安全性についてワーファリンと比較したデータ
(フランスではエリキュースは未承認薬であるためデータなし)
動脈血栓症イベント・急性冠症候群イベント、脂肪リスク・出血リスクなどのリスクを複合判定基準としており、イグザレルト・プラザキサについてワーファリンと比較したときの安全性を評価しています。
プラザキサ
ワーファリンと比較してハザード比で評価した場合
動脈血管性イベント:25%減少
急性冠症候群イベント:21%減少
死亡リスク:26%減少
大出血リスク:45%減少
脳出血リスク:78%減少
泌尿生殖器出血リスク:41%減少
イグザレルト
ワーファリンと比較してハザード比で評価した場合
動脈血管性イベント:2%減少
急性冠症候群イベント:16%減少
死亡リスク:23%減少
大出血リスク:32%減少
脳出血リスク:35%減少
尚、消化管出血リスクに関してはプラザキサ・イグザレルトともにワーファリンと比較して出血頻度は同程度(有意差なし)というデータとなっています。
・脳卒中または全身性塞栓症の発症予防効果、頭蓋内出血発現率、大出血発現頻度に関してはワーファリンより優位なデータを示している(国内データを含む)
・特に大出血リスクが低い事が評価を得ている。さらに消化管出血はワーファリンにくらべて少ないというデータがでている
・術日2~4日前に内服中止
・投与量の50%が肝臓のCYP3A4/5で不活性代謝物へと代謝された後、糞中に排泄される。残り50%が未変化体として腎排泄される。
・1包化可能、粉砕可能
(粉砕に関しては添付文書に粉砕時の動態が記載されている。粉砕錠のCmax及び相対的バイオアベイラビリティが記載されている)
・空腹で使用すると、食後使用に比べて15~20%AUCおよびCmaxが増える(効き目がUPする)
~プラザキサ・エリキュース・イグザレルトの3剤についての比較データ~
米国診療報酬請求データベース(2010年10~2015年2月)によるプラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3剤について、リアルワールド研究結果(2016年12月)
脳卒中・全身塞栓症のイベントリスクについては3剤間での有意差なし
重大な出血リスクについては
イグザレルト対プラザキサのハザード比が1.3
イグザレルトはプラザキサに対して30%重大な出血リスクが高い。
エリキュース対プラザキサのハザード比が0.5
エリキュースはプラザキサに対して50%重大な出血リスクが低い
エリキュース対イグザレルトのハザード比が0.39
エリキュースはイグザレルトに対して61%重大な出血リスクが低い
という3剤間での違いが示されました(有意差あり)
・適応症が
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制
下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制
という3つがあり、錠剤規格が15mg、30mg、60mgと適応症により使用量が定められている
ワーファリンとの比較試験の結果、脳卒中および全身性塞栓症抑制作用においてワーファリンに対して非劣勢がしめされ、重大な出血リスクにおける安全性については優越性をしめしている(2013年)。
冠動脈疾患を有する非弁膜症性心房細動患者における脳卒中および全身性塞栓症の発現率は
リクシアナ群:1.4%
ワーファリン群:2.1%
冠動脈疾患を有する非弁膜症性心房細動患者におけるじゅうぢあな出血リスク発現率は
リクシアナ群:3.6%
ワーファリン群:4.4%
(2017年サブ解析より)
・血中濃度はPT-INRと相関する
・リクシアナ60mgはワーファリンに比べて消化管出血率が高い。(上部消化管での出血率が高い)。血漿中濃度に比べ小腸濃度は24倍であることが原因ではないだろうかと私は考えている。
・術前日に内服中止すること
・血漿中蛋白結合率が55%と低いため、組織移行性が高い。
血漿中濃度に比べて6~24倍の組織移行性を示している(インタビューフォームより)。このため血漿中から消失しても、細胞内にはリクシアナが残存しているため血管内皮細胞表面から血管腔へ向けて抗凝固作用を示すことができると考えられている。血中濃度と抗凝固作用が相関しない可能性がある。脳中への移行性は低く血漿中の0.05倍である。
・腎排泄50%(未変化体)、残り糞中排泄(ほとんど未変化体)40%~、代謝物は10%未満
・食事の影響なし
・投与量の10%未満がCYP3A4で代謝され活性代謝物M-4を生成する(M-4の力価は未変化体と同程度)
・半錠可能、粉砕可能、1包化可能
・トランサミンを併用しても抗凝固作用は低下しない(インタビューフォームより)
NOACと対ワーファリンに関するデータ、術前休止日数、体内動態、排泄経路、粉砕可否、1包化可否についてまとめました。ワーファリンからNOACへ変更する場合、副作用や併用禁忌薬、併用による減薬(ワソランなどのP糖タンパク阻害剤)など注意すべき点は多数あるかと思いますので危険意識をもって、監査時に見落とさないよう注意が必要であると感じました。今後も新しい情報収集に努めます。