コレステロール治療薬”スタチン”の服用でパーキンソン症候群のリスク低下

コレステロール治療薬”スタチン”の服用でパーキンソン症候群のリスク低下

パーキンソン症候群(震戦・こわばり・動作緩慢・徐脈)などの症状がでていない2841人(平均年齢76歳)を対象として、高コレステロール治療薬”スタチン製剤”の服用と、パーキンソン症候群発症リスクに対する調査が、平均年間調査期間5.6年の追跡調査で報告されました。

 

平均5.6年間の追跡期間中に1432人にパーキンソン症候群のような症状(震戦・こわばり・動作緩慢・徐脈)の兆候が確認されました。スタチン製剤の服用有無を確認してみると、スタチンを服用していない群でパーキンソン症候群を発症した割合が53%であったのに対して、スタチンを服用していた群でパーキンソン症候群を発症した割合は45%と少ないことがわかりました。

 

年齢や性別、パーキンソン病の原因因子と考えられる喫煙・糖尿病などの血管リスクを調整した後のリスクを計算した結果

スタチン服用群はパーキンソン症候群を発症するリスクが16%有意に低いことが報告されました。(ハザードリスク:0.84)

また、スタチン服用群では79%が中等量から高用量を服用しており、低用量服用群と比較して、パーキンソン症候群を発現リスクが低いことも報告されました。

 

また、被験者のうち死亡した1044例(死亡時平均年齢89.2歳)に関して、スタチン服用群では脳動脈硬化を発症している割合が37%低いことが報告されました(オッズ比:0.63)。

軽度のアテローム動脈硬化効果を介した直接的な経路の低下率:スタチン服用群で27%リスク低下

軽度アテローム動脈硬化を介した間接的な経路の間接的な経路の低下率:スタチン服用群で8%リスク低下

上記のデータより筆者らは、スタチン服用によるパーキンソン症候群発症リスク低下には有意な関係があるとして、アテローム動脈硬化はスタチンとパーキンソン症候群の関連を17%媒介することが示唆されたとまとめています。

まとめ

スタチンを服用中の高齢者ではパーキンソン症候群の発症リスクが低く、その理由として脳動脈硬化発症リスクの低減が一部介在していることが示唆される

 

スタチン服用によりパーキンソン症候群のリスク低下

パーキンソン病における日内変動改善薬オンジェンティス錠について

 

パーキンソン病による日内変動を改善する1日1回の飲み薬オンジェンティス錠が医薬品として承認されましたので、既存の治療薬「コムタン」との違いを調べてみました。

 

オンジェンティス錠のはたらき

オンジェンティス錠もコムタン錠も末梢でレボドパを分解してしまう酵素のはたらきを抑えることで、脳内に移行するレボドパ量を向上させて、パーキンソン病による日内変動を改善するという作用は同じです。

 

コムタン錠は長径13mm、短径6mmという大きな錠剤で、1回に1~2錠を1日に何度も飲まなければならない製剤であったのに対して、オンジェンティス錠は長径11.6mm、短径5.1mmとコムタンよりも一回り小さめな錠剤を1日1回飲めばよいという薬です。コムタンよりも小さいサイズの薬を1日1回だけ飲めばよいということから、錠剤を飲み込みにくいパーキンソン病患者さんにとって有益な薬となっています。

 

オンジェンティス錠の特徴

1日1回、ネオドパストン/メネシット/マドパー/イーシー・ドパール/などの投与前後および食事の前後1時間以上あけて経口投与する薬剤です。

 

オンジェンティスカプセルは “1日1回寝る前にレボドパ製剤との投与間隔を1時間以上あけて経口投与する“という用法で2016年に欧州で承認されております。カプセル剤は飲み込みが大変であるため、日本国内では錠剤タイプへ剤形を変更して発売開始となります。

 

服用タイミングについては、レボドパ製剤と同時服用しない、空腹時に飲むという薬剤であるため、就寝前に飲むのが最良なのですが、朝に飲んでも夜に飲んでも効き目に大きな変化はないため「レボドパ製剤投与および食事の前後1時間以上あける」という独特な用法となっています。

 

注1):オンジェンティス錠は食事の影響を受けやすい製剤であり、食後に飲むと吸収率が半分程度(0.53~0.57倍)へ下がってしまいます。

 

注2):オンジェンティス錠をレボドパ製剤と一緒に飲んだ場合の血中レボドパAUCを100%とすると、1時間程度ずらして飲んだ場合の血中レボドパAUCが平均で108.5%であるため、レボドパ製剤服用前後1時間以上ずらして飲むという用法となっています。

(第Ⅰ相試験より)

 

オンジェンティス錠の効果

オンジェンティス錠を飲むことで、血液中のレボドパAUCが139.3~178.1%へ上昇し、52週時点でのOFF時間変化量は、服用前と比較してー101.89分と報告されています。

(1年間の長期服用でも効果が持続します)

 

また、オンジェンティス錠の最大の特徴は“長時間作用型”という点です。コムタン錠は1日に何度も飲まなければならない製剤であったのに対して、オンジェンティス錠は効き目い製剤であるため1日1回の服用で効果が持続します。

 

オンジェンティス錠の血中半減期は1~1.5時間程度と短く、服用から6時間程度で血液中からは消失します。

 

オンジェンティス錠は脳以外でレボドパを分解するCOMTという酵素に対して長時間結合し続けて、COMTを阻害することができる製剤です。

(遺伝子組み換えヒトS-COMTへの阻害定数はKi=0.02nmol/L)

(オンジェンティス錠はコムタンの徐放製剤ではないため、コムタン錠よりも剤形を小さくすることが可能となっています)

 

体内時計のズレはパーキンソン病の要因となりうる

 

体内時計(概日リズム)がズレることは、パーキンソン病発症の要因となりうることについて報告がありましたので概要を記します。

 

2930人(平均年齢:76.3歳)の男性を対象として、2019年2月1日~2019年8月31日までの間、手首に“睡眠/覚醒時間を記録できる腕時計型高感度センサー”を装着して生活し、24時間にわたる睡眠/覚醒リズムを測定し、その振れ幅、活動レベル、頑健性、頂点位相(最高脈拍・最高体温などの日内タイミング)を記録して、パーキンソン病の発症と体内時計の関係を調査委した報告ながされました。

 

2930人のうち78人が11年間の追跡寒中にパーキンソン病を発症しました。パーキンソン病発症群と健常群を比較したところ、体内時計の振幅が減少するにつれてパーキンソン病の発症リスクが増加することが示されました。

 

ここで言う“体内時計の振幅”とは、ヒトは寝ている時と起きている時とでは時計遺伝子の発現動態が異なります。健常者が日常生活を送ると、起床時と睡眠時の振れ幅(概日リズム振幅)が大きくなります。(寝ている状態と起きている状態の区別がしっかりとできる状態です)

 

うつ病・双極性障害といった神経疾患を患うと、リズムが崩れることが報告されておりますが、パーキンソン病患者においても、この振幅が減少するようです。また生活活動レベルや頑健性も同様にパーキンソン病発症リスクが増加するにつれて、減少していることとが示されました。

 

体内時計リズムが崩れている順に被験者を4分割に分けると、体内時計がもっとも乱れている群は、正常群と比較して、パーキンソン病発症リスクは3倍であることが報告されています。

 

筆者らは体内時計の乱れがパーキンソン病発症リスクの増加に関係していることから、パーキンソン病の発症の兆候である可能性を示唆しています。

体内時計のズレはパーキンソン病の発症要因

ライソゾームにおけるサポシンDタンパク質の異常がパーキンソン病の原因?

 

順天堂大学の研究チームがパーキンソン病の原因遺伝子としてプロサポシン遺伝子のうちサポシンD領域が関連領域であることを公開しました。

https://academic.oup.com/brain/advance-article-abstract/doi/10.1093/brain/awaa064/5810183?redirectedFrom=fulltext

 

今回の報告では、国内290人の家族性パーキンソン病患者のDNAを調査した結果、3家系においてサポシンD領域に遺伝子異常が確認され、その遺伝子を利用してiPS細胞で神経細胞をつくったところ、パーキンソン病に特徴的なレヴィ小体におけるαシヌクレインの凝集が確認されたというものです。

 

サポシンDとは

細胞内で脂質やタンパク質の分解を行うライソゾームと呼ばれる機関を活性化するタンパク質が「サポシン」であり、サポシンにはA~Dまでの4種類が同定されています。パーキンソン病の原因の1つの病態として、サポシンDが正しく作られないことで、細胞内におけるライソゾームが不要物を正しく分解することができなくなることが、今回の報告で発見されました。その結果、細胞内にαシヌクレインがたまっていって凝集体をつくりドパミン神経細胞が減っていって、運動障害などの病状がすすむとしています。

 

今回の報告では、290人の家族性パーキンソン患者中3家系でサポシンDの異常が確認されていますので、いわゆる「パーキンソン病の原因のうちの1つ」としてサポシンDの異常が確認されたことになります。

枯草菌pxn21がパーキンソン病の原因であるαシヌクレインの凝集を抑えるかどうか

パーキンソン病の原因として、レビー小体においてαシヌクレインというたんぱく質が異常凝集(αシヌクレインが集まって塊となる)することで神経毒性を有して、脳内のドパミン神経細胞が障害されることが報告されています。αシヌクレインが異常凝集を引き起こす際に、腸内細菌が何かしらのプロセスを引き起こしているのでは?という報告がいくつかなされています。

パーキンソン病を発症した人の糞便を、αシヌクレインをたくさん発現するように作られたマウスへ移植すると、健常者の糞便を移植されたマウスに比較して、運動障害が進行することが報告されています。また、健常者とパーキンソン病患者の便中短鎖脂肪酸比率を比較すると、酪酸塩の相対濃度の上昇が確認されております。以上のことを背景として、一つの仮説ではありますが、ヒト腸管内の腸内細菌叢の変化がαシヌクレインの異常凝集に関与してパーキンソン病を発症する要因となるのでは?という仮説を提唱している研究者がおります。

腸内細菌叢がパーキンソン病の運動障害と神経炎の因子?

以下は、線虫(C.elegans)におけるαシヌクレインの異常凝集を、枯草菌pxn21という腸内細菌が抑えたという報告です。

実験対象が線虫であり、哺乳類でもないため、すぐにヒトへ応用できるような報告ではありませんが、パーキンソン病の原因であるαシヌクレインの異常凝集を抑える可能性がある報告ですので読んでみました。

腸内細菌「枯草菌pxn21」を線虫に与えると、αシヌクレインの異常凝集する速度を遅らせたり、抑制したりする効果が報告されました。この報告は年齢の若い線虫でも高齢の線虫でも同様に観察され、寿命延長に寄与しました。枯草菌pxn21を与えられた線虫は、自身のスフィンゴ脂質代謝を変化させることによってαシヌクレインの異常凝集を抑制したのでは?と示唆しています。普通食をとっていた線虫からは高分子量のαシヌクレイン凝集が検出されたのに対して、枯草菌pxn21を与えられた線虫では、低分子量のαシヌクレイン凝集が検出されています。これは枯草菌pxn21を与えられた線虫でαシヌクレイン凝集の切断・分解が行われているかのせいが示唆されています。

枯草菌pxn21を摂取すると腸管内に疎水性のバイオフィルムが形成されることと、一酸化窒素(NO)産生を促す効果が報告されており、この作用が線虫におけるストレス耐性と寿命延長をもたらすことが以前から報告されていました。筆者らは枯草菌pxn21により上記の効果が、ヒトのαシヌクレイン異常凝集の修正に寄与する可能性を検討しています。

線虫のαシヌクレインの異常凝集を腸内細菌の枯草菌が抑える

レビー小体病(パーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)の前駆症状

日本人2726名を対象として調査したデータによると、REM期睡眠行動異常(RPD)、便秘、嗅覚低下のうち、2つ以上の前駆症状を有していると、レビー小体病のハイリスク者であることが示唆されております。(155名(5.7%))

さらに、男性の場合は、ヘモグロビン(Hb)、赤血球(RBC)、ヘマトクリット(Hct)などの貧血関連のマーカーや、総コレステロール(T-Cho)、LDLコレステロール、が低い場合がレビー小体病のハイリスク者であることが報告されました。

レビー小体病の前駆症状

レビー小体型認知症(DLB)

初期症状:認知機能障害(41.9%)、幻視、幻聴、妄想、うつ症状などの精神症状(42.3%)

女性では半数で精神症状が認められ、男性と比べて幻聴の頻度が高かった。

男性では女性よりもREM睡眠行動障害の発生率が有意に高かった。またパーキンソニズム、嗅覚低下、失神が有意に多く認められた。

レビー小体型認知症は性差があることが示唆されています。

レビー小体型認知症と性差について

パーキンソン病患者のレビー小体(タンパク質の異常凝集)にはアミロイド線維を含む

 

パーキンソン病患者の脳内(黒質)にはレビー小体と呼ばれるタンパク質の異常凝集体ができており、ドーパミン分泌量減少の一因であることが示唆されておりました。日本の研究チームの報告によりますと、パーキンソン病患者の脳内にあるレビー小体を解析した結果、アミロイド線維と呼ばれる特徴的な構造を含むことが確認されました。

 

既存の概念としては、アミロイド線維は“細胞外の沈着物”という認識が一般的でしたが、今回の発見では、パーキンソン病患者の脳内のレビー小体には“細胞内に沈着したアミロイド線維がある“という点が画期的な成果としています。

 

アミロイドと呼ばれる繊維状の異常たんぱく質が蓄積する病気にアミロイドーシスという指定難病があるのですが、今回の発見を踏まえると、パーキンソン病もアミロイドーシスの一種である可能性が示唆されたと筆者らは述べています。

パーキンソン病はアミロイド線維の蓄積を特徴とするアミロイドーシスの一種である可能性

注):パーキンソン病の原因物質としてはαシヌクレインというたんぱく質が注目されております。ドパミン細胞が50%前後に減少するとパーキンソン症状が発症する傾向があります。ドパミン細胞が減少してくる状態(パーキンソン病前駆症状)として、レム睡眠行動障害(RBD)や嗅覚低下が報告されています。レム睡眠行動障害患者は約80%が10%が10年後にパーキンソン病やレビー小体型認知症を発症することが報告されています

パーキンソン病の治療薬についての比較データまとめ

パーキンソン病ガイドライン

調剤薬局に勤務していて、神経内科領域の薬を手にすることが少なかったのですが、パーキンソン病の薬はここ数年で非常に多くの選択肢が広がっているという話を耳にしたものですから、約20年ぶり?に神経内科領域の薬を一から勉強してみることにしました。

脳内のドパミン神経がドパミンの貯蔵庫の役割をしている。ドパミン神経細胞が減少するとドパミンを補充・保管を行うことができないためドパミン不足が生じます。その結果、パーキンソン病を呈します。

正常では黒質にあるニューロンでレボドパからドパミンが合成され、シナプスを介して線条体へドパミンが情報伝達を行うのですが、パーキンソン病では黒質ニューロンが変性(正常に働かない状態)しているため、合成できるドパミン量が低下します。その結果、大脳基底核の淡蒼球内節が運動機能に関して過度のブレーキをかけてしまい運動機能が抑制されます(スムーズに動けなくなります)。この運動抑制状態=パーキンソン病症状の病態ととらえています。

 

薬によりドパミン(レボドパ)を補充した場合、ドパミン神経細胞がたくさんあるうちは貯蔵庫としての役割を担うことができますので、薬によって補充されたドパミンをストックできますが、ドパミン神経が少ない場合は、薬として補充されたドパミンが脳内にあふれ出す(ピークドーズジスキネジア:初期のジスキネジア。薬が一番効いているときに出現する)ために、ジスキネジアが生じるケースがあります。逆に、脳内のドパミンが減ってくると(バイフィジックジスキネジア:薬が切れかけ・効き始めのとき(薬が足りないとき)にドパミンが不足して生じるジスキネジアのこと)ドパミンによるジスキネジアが生じるケースがあります。

 

注:ジスキネジアとは体がくねくね・ばたばた動く症状

L-ドパ

ドパミンの前駆物質

ドパミンは血液脳関門を通過できないため、その前駆物質であるL-ドパを投与する。L-ドパは血液脳関門を通過することができ、脳内のドパミン神経細胞に取り込まれてドパミンへ変換され貯蔵される。

脳内のドパミン神経細胞が少ない場合、保存する場所が減るため、こまめにレボドパを補充することになります(1日6回レボドパを飲む)

 

メネシット配合錠・ネオドパストン配合錠(レボドパ・カルビドパ)

禁忌:閉塞隅角緑内障

 

カルビドパ:レボドパ脱炭酸酵素阻害剤としてはたらく。カルビドパは血液脳関門を通過しません。レボドパの脳以外での脱炭酸反応を防ぎ、脳へ移行するレボドパの量を増やす働きがあります。

カルビドパを少量併用することで、末梢におけるDOPA脱炭酸酵素によるレボドパ→ドパミンへの反応をストップさせることができるため、末梢でのドパミン量の増加をおさえることができます。末梢ではレボドパがCOMTによる反応をうけて3-O-メチルドパ→ホモバリン酸という経路で代謝されます

 

レボドパ:カルビドパ=10:1くらいにするとレボドパの投与量を1/4-1/5程度まで減らすことができます。

ビタミンB6はDOPA脱炭酸酵素の補酵素であるため、レボドパからドパミンへの代謝を促進する効果が報告されています。

 

レボドパ:脳内レボドパ脱炭酸酵素により容易にドパミンに変換されます。しかし、この脱炭酸酵素は脳だけでなく、腎肝小腸などにも高濃度に存在するため投与されたレボドパの0.05-0.1%しか脳へ移行することができません。

 

1回200-250mg 1日3回 レボドパ量として1日1500mgを超えないこと

主な副作用:悪心5%・食欲不振3%・嘔吐2%・胃腸症状・不随意運動6%・起立性低血圧1%

ドパミン単独投与群の場合、ビタミンB6の併用により脳内ドパミン濃度の著しく減少します。しかし、レボドパとカルビドパを併用した場合、ビタミンB6前処置群は、前処置のない群よりもむしろ約30%高い脳内ドパミン値を示したというラットの報告があります。(ラット n=5)

 

Lドパ/カルビドパ配合錠はエフピーやドパミンアゴニストと比較して、QOLに良い影響をあたえますが、運動合併症のリスクが高いと考えられています。そのためドパミンアゴニストなどの他剤と併用して、ドパミン補充療法を検討し、全体として適切に調整する必要があるといわれています。

注意::運動合併症とはウエアリングオンオフ減少(薬が効かない時間がある)、薬が効きすぎて意思に反して手足が勝手に動く(ジスキネジア)といった問題がでることを運動合併症と呼ぶ

運藤合併症に対する治療選択し

 

イーシードパール、ネオドパゾール、マドパー(レボドパ/ベンセラジド)

開始量:1日1-3錠を1-3回に分けて食後に服用する。維持量は1日3-6錠

レボドパ単剤と比較してレボドパの投与量を1/5まで減らすことができます

 

レボドパ/カルビドパ製剤では、脱炭酸酵素阻害作用が弱く、末梢でのドパミン生成を抑制しきれないため、吐き気・動悸などのSEが出るケースがあります。カルビドパ製剤で末梢性のSEが出た場合は、ベンセラジド製剤(イーシードパール・マドパー)へ変更してみるのも一法とガイドラインには記されています。ベンセラジド製剤の方が、LドパのCmaxが高く、吸収量も高いというデータがあります。

カルビドパVSベンセラジド

メネシット配合錠(レボドパ100/カルビドパ10)とマドパー配合錠(レボドパ100/ベンセラジド25mg)との薬物動態比較

 

健常人10人(23~41歳)を対象としてマドパー配合錠100mgを1錠服用し、14日間のウォッュアウト期間を設けた後に、メネシット配合錠100mgを飲んだ時のレボドパ血中濃度に関する報告によると、

マドパー配合錠服用群

レボドパTmax:33±9.25分

レボドパCmax:8.37±3.19μmol/L

レボドパのAUC:511μmol・h/L

 

メネシット配合錠服用群

レボドパTmax:51±31.8分

レボドパCmax:4.95±1.65μmol/L

レボドパのAUC:391μmol・h/L

マドパー配合錠は、メネシット配合錠と比較してレボドパの平均Cmaxは1.7倍高く、AUC(0-3時間)は1.3倍大きかったというデータとなっています。ベンセラジド25mgはカルビドパ10mgと比較して、レボドパ脱炭酸酵素を阻害する力が大きいと考えられています。マドパーは血漿中で速やかにレボドパを増加させた後、急激な減少を示すのに対して、カルビドパはゆっくりとした血漿中レボドパ濃度の上昇を示した後、緩やかに減少していくという特徴があります。

 

スタレボ配合錠

レボドパ100mg/カルビドパ10mg/エンタカポン100mg配合錠

1回1~2錠、1日総量としてレボドパ1500mg、カルビドパ150mg、エンタカポン1600mgを超えないこと

 

ドパミンアゴニスト

ドパミン受容体に直接作用する薬。ドパミン不足を補う。薬剤の化学構造により非麦角系・麦角系ドパミンアゴニストに分類される。ドパミンアゴニストはレボドパの投与量を減らすか、またはその使用を遅らせるために使用するという考えもあります。

 

麦角系:心臓弁膜症・繊維症の報告が多い

・パーロデル(ブロモクリプチン)

心臓弁膜症の危険因子となりうる症例報告はある

突発的睡眠についての報告はありません

 

・ドミン(タリペキソール)

 

・ペルマックス(ペルゴリド)

中等度から重症度の心臓弁膜症の危険因子

運動合併症抑制の点ではLドパに比較して有用であると記載されています

進行期の多剤併用療法では運動症状改善効果、ウェアリングオフ改善効果の観点から有用

 

・カバサール(カペルゴリン)

中等度から重症度の心臓弁膜症の危険因子

早期患者に単独で用いると運動症状の改善が得られる。だたしその効果はLドパに劣る

運動合併症のリスクはLドパより低い

進行期の患者に対してLドパと併用で用いると、運動症状の改善とオフ時期の短縮が期待できる。

 

非麦角系:突発的睡眠発症率が高い

・ミラペックス・ビシフロール(プラミペキソール)

早期パーキンソン病に対して、徐放錠・速放錠ともにプラセボより有効

進行期パーキンソン病にチアしてLドパ治療中の患者に速放錠または徐放錠を投与したところ、有意な運動症状改善を認めた。速放錠から徐放錠への即日切り替えに問題はなかった。

 

・レキップ(ロピニロール)

早期患者に対して効果あり。進行期の患者に対してLドパと併用することでオフ時間を減らす報告あり

Lドパを服用している患者に追加すると、Lドパ追加と比較してジスキネジアの発現を有意に抑制する。徐放錠を進行期の患者にLドパと併用するとオフ時間の短縮、オン時間の延長、日常生活の支障となるジスキネジアを伴わないオン時間の延長が期待できる。

 

パーキンソン病患者に対するレボドパ療法の補助療法としてミラペックス(プラミペキソール徐放)とレキップCR(ロピニロール徐放)とを比較したデータでは、どちらも進行性パーキンソン病に対して同程度の有効性・忍容性が示されています。

UPDRS-ALD(パーキンソン病の重症度・日常生活動作)のスコアを比較したデータでは、レキップCR服用群がミラペックス服用群よりも24%ほどスコアが改善したという報告がなされています。(有意差あり)

ミラペックスVSレキップ(2019年4月8日)

 

・ニュープロパッチ(ロチゴチン)

進行期の患者にニュープロパッチとレキップは同等の運動症状改善効果を認めた報告あり

 

カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)阻害薬

L-ドパを分解してしまう酵素(COMT)の働きを抑えてL-ドパの脳内のドパミン神経(黒質)への供給量をUPさせる薬

 

コムタン(エンタカポン)

ネオドパストン・マドパーと併用すること

1回100mgで投与開始し、200mgへ増量した場合42例中23例でon時間の延長(0.2~6.3時間)が報告されている。23例中15例で1時間以上のon時間の延長が報告されています。米国ノバルティスのホームページにはコムタン200mgを単回投与するとCOMT活性の最大阻害率は65%と報告されております。(8時間以内に阻害率はベースレベルにもどります)

 

ネオドパストン・マドパーの1回あたりの用量に関わりなく、コムタンは1回1錠(100mg、症状により1回200mg)を飲む薬であることがノバルティスのホームページに記されています。

投与例1

ネオドパストン(朝100mg、昼100mg、夕100mg)

コムタン(朝100mg、昼100mg、夕100mg)

 

投与例2

ネオドパストン(朝100mg、10時50mg、昼100mg、15時50mg、夕100mg)

コムタン(朝100mg、10時100mg、昼100mg、15時100mg、夕100mg)

 

ネオドパストンまたはマドパーとコムタンを併用した場合のレボドパのパラメーターを血漿中のレボドパAUCについて確認してみると

プラセボ:AUC4812ng・h/ml

コムタン50mg:AUC5493ng・h/ml

コムタン100mg:AUC5815ng・h/ml

コムタン200mg:AUC5942ng・h/ml

コムタン400mg:AUC5942ng・h/ml

 

コムタンは200mgおよび400mgでは投与時での差はみられなかったとインタビューフォームに記されています。

COMT阻害薬は現在コムタンしかない。Tolcaponeも開発されたが、肝障害のSEがでたため日本での承認は取り下げられた

 

ドパミンを脳内で分解してしまう酵素MAO-Bの働きを抑えて、脳内のドパミンの寿命を長くする薬

モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬

エフピー(セレギリン)覚せい剤原料

エフピーの単独使用は保険では承認されていないため、L-ドパに追加する

L-ドパとエフピーの併用は、L-ドパの効果を30%アップさせるような効果が期待される

注意)ジスキネジアがすでに出現している患者ではエフピーの併用は避ける

 

アジレクト(2019年5月長期投与解禁)

アンフェタミン骨格を持たないため覚せい剤原料ではない。非可逆的にMAOBを阻害する。エフピーと比較して5~10倍のMAOB阻害効果がある。服用後1週間は効果が持続する。アジレクト2mgを1回服用すると55%、3日連続で服用すると90%以上のMAOBを阻害することができる。

 

サフィナミド

年間平均のレボドパ量を減らすことはできないが、年間平均のドパミン作動薬の量を減少させ、長期的な用量依存てきな有害作用の減少に寄与する可能性がある

L-ドパ賦活薬

体内でドパミンが作られるのを促進する薬

トレリーフ(ゾニサミド)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/8/104_1558/_pdf

抗てんかん薬として開発され、てんかん治療で使用する場合は1日200-400mgで服用するのに対して、パーキンソン病におけるドパミン賦活薬として使用擦る場合は1日25-50で服用する。

25mg服用により運動症状の改善効果が認められ、50mg服用によりオフ時間の有意な短縮効果が確認されています。

トレリーフの半減期は100時間(約4日)と長いため安定した効果が期待される。ジスキネジアの有無にかかわらずドパミン系治療薬に追加することができる。

薬理作用については不明な点が多いものの

T型Caチャネル阻害作用・δ1受容体アゴニスト作用・チロシン水酸化酵素発現増加作用・MAO-B阻害作用・線条体ドパミン放出促進作用などが報告されているようです。

トレリーフはドパミン不応性の震戦に対して効果が確認されています。

 

アデノシンA2A受容体拮抗薬

アデノシンという神経伝達物質は、線条体の神経細胞に対し、ドパミンとバランスを取って作用しています。パーキンソン病ではドパミンの作用が弱まり、相対的にアデノシンの作用が強くなって神経が過剰に興奮し運動機能が低下します。アデノシンA2A受容体拮抗薬は、神経細胞におけるアデノシンの作用を阻害します。

ノウリアスト錠20mg(CYP3A4の基質であるためGFJのようなCYP3A4阻害作用をもつ成分と一緒にのむと効き目が強くなる。例:エリスロマイシン・フルコナゾール)

Parkinson

ノルアドレナリン補充薬

パーキンソン病では、ドパミンだけでなく、ノルアドレナリンも減少します。そのノルアドレナリンを補充する薬です。

ドプス

 

ドパミン遊離促進薬

ドパミン神経からのドパミン分泌を促進します。線条体で一部グルタミン酸受容体の感受性を調節します。

シンメトレル

 

抗コリン

ドパミンとアセチルコリンの作用のバランスが大切。抗コリン薬は、ドパミンの減少で相対的に作用が強まってしまったアセルチルコリンの働きを抑えます。

(ドパミン神経細胞の変性によりドパミンが不足している。相対的にアセチルコリンの量が多くなるため抗コリンを入れる)

 

アーテン・トリフェキシフェニジル・アキネトン・ビペリデン・パーキン(プロフェナミン)

トリモール(ピロヘプチン)、ペントナ(マザチコール)

 

スタレボ配合錠とイーシー・ドパール配合錠の違いについて

以下にスタレボ配合錠とイーシー・ドパール配合錠の違いを記します。

 

イーシー・ドパール配合錠

“レボドパ”という成分と“ベンセラジド”という成分が合わさってできた薬です。

 

レボドパは脳内に到達すると、ドパミンという物質にかわりパーキンソン病の症状を改善します。

 

しかし、レボドパは脳以外の部分に(例えば消化器官など)へ到達して、活性化しまうと、悪心・嘔吐・食欲不振などの症状が出てしまいます。また脳以外の部分に移動してしまうと、脳への移行率がさがり、パーキンソン病の治療がうまくいきません。

 

そこで、レボドパが脳以外の部分(例えば消化管や心臓など)で活性化しないようにする成分である“ベンセラジド”とレボドパを配合した薬がイーシー・ドパール配合錠です。この2つの成分を配合することで、レボドパの脳内移行率が向上するとともに、消化管や心臓における副作用を軽減することが可能となりました。

 

 

スタレボ配合錠

“レボドパ“という成分と”カルビドパ”という成分と“エンタカポン”という3つの成分が合わさってできた薬です。

 

スタレボ配合錠に含まれるカルビドパという成分は、イーシー・ドパール配合錠に含まれるベンセラジドという成分と同じ働きをする成分とお考え下さい。

 

ですので、イーシー・ドパール配合錠とスタレボ配合錠を比較する場合、スタレボ配合錠は、イーシー・ドパール配合錠に“エンタカポン”という成分が加わったと考えるとわかりやすいかと思います。

 

“エンタカポン”とは

エンタカポンは脳以外の部分(例えば消化管や心臓など)でレボドパが他の物質に分解されるのを防ぐ働きがあります。

 

レボドパという成分は体にとって非常に使い勝手がよい成分であり、脳だけでなく消化管や心臓などでA、Bと様々な物質に置き換わり、生体を維持するうえで役に立つ成分です。

 

しかし、パーキンソン病の治療薬として使用する場合、レボドパは“脳内でドパミンに置き換わる”ことだけが求められ、体のほかの部分(消化管や心臓)でドパミン以外の物質に置き換わってしまうと、治療効率を下げるだけでなく有害な副作用が出てしまい、治療の妨げとなります。

 

そこで、開発された成分がエンタカポンです。エンタカポンは脳以外の部分において、レボドパが他の成分に分解されないように維持することを可能とした成分です。

 

ここまでの内容を整理します。

 

イーシー・ドパール配合錠にふくまれるベンセラジド、スタレボ配合錠に含まれるカルビドパという成分はレボドパが脳以外の部分でAという成分に分解されることを防ぎます。

 

スタレボ配合錠に含まれるエンタカポンという成分はレボドパが脳以外の部分でBという成分に分解されることを防ぎます。

 

これにより、レボドパが血液中で分解されずに長時間流れる続けることができるため、脳内に到達できるレボドパの量が増え、パーキンソン病の治療に有益な成果をもたらします。

 

続きまして、ご質問にありましたスタレボ配合錠の副作用について記します。

スタレボ配合錠は前述しましたように“レボドパ”の分解を抑えて、脳内への移行率を高めた製品です。そのため、パーキンソン病の治療に対する効き目が増すと同時に、脳内ドパミン量が増えることによる副作用が考えられます。

 

副作用頻度が高いものとしては、顔、舌、手足、体がクネクネ動く症状があげられます。これはレボドパが効きすぎているために生じます。

 

それ以外の副作用としては、吐き気・便秘・悪心などの胃腸障害や、寝付けないなどの症状も起こりえます。イーシー・ドパール配合錠からスタレボ配合錠へ変更する場合に想定される副作用は“レボドパ”が効きすぎることに関する副作用と考えてよいと思います。

 

あとは、エンタカポンという成分を飲んだ場合に尿の色が赤褐色に着色することが報告されていますが、それほど気にすることはないかと思います。

 

以上となります。ご質問に添えるご回答となりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業