バラ科アレルギーと桃仁・杏仁を含む漢方薬について
バラ科アレルギー(白樺アレルギー)の方が桃やイチゴ、リンゴなどの果物を摂取すると、喉のイガイガ、かゆみ、皮膚湿疹のようなアレルギー症状を呈することがあります。
漢方薬の中には杏仁や杏仁などのようにバラ科の植物由来の生薬を配合している医薬品がいくつかあります。しかし、これらバラ科生薬を配合している漢方薬の添付文書を確認してみたのですが、その禁忌項目・慎重投与項目には「該当する果物アレルギーを有する患者」という注意喚起はありません。
生薬とは、植物または動物由来の成分を乾燥させて作られておりますので、その一つ一つの成分についてアレルギーに関する注意喚起をしていては切りがないために記載していないのかもしれません。
漢方薬の添付文書の副作用リストを確認してみると「その他の副作用欄」には過敏症(発疹・そう痒等)と記されており注釈として
「注意1)このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。」
と記載されています。おそらくですが、バラ科アレルギーによるアレルギー症状が出た場合はこれに該当するのかもしれません。(頻度不明となっています)
クラシエ薬品株式会社の学術へ確認したところ「生薬を熱水で1時間程度さらすことで成分を抽出して生成している。そのため熱分解を受ける成分であれば活性が消失することがある。しかし、杏仁・杏仁のアレルゲンに関しては報告がない。またバラ科アレルギーの方が杏仁・杏仁を含む漢方薬を服用した時の報告がないためなんとも言えないが、アレルギー症状を呈する可能性はあるのではないか」
という回答を得ました。
バラ科のアレルゲンに関しては、複数の原因タンパク質が同定されており、果実や果実表面(果皮)に多く含まれるタンパク質(PR-10群、LTS群)もあれば、非特異的脂質輸送タンパク質(nsLTP)のように植物に広く分布する群もあり、さまざまな報告があげられています。
私の体感で恐縮ですが、臨床で使用されているバラ科の生薬の多く(9割ほど?)は「杏仁」または「杏仁」であると感じておりますので、杏仁・杏仁に言及してバラ科アレルギー(白樺アレルギー)との臨床報告を調べてみました。しかし、国内・海外を含めてこれに関する報告例を見つけることができませんでした。その背景としては西洋において杏仁・杏仁を医薬品として使用している国が少ないことが、報告例の少ない原因なのかもしれません。
または、果実や果皮に比べると杏仁・杏仁に含まれるメインアレルゲン(PR-10、プロフィリン、LTS)の含量が少ないためにアレルギー症状を誘発しないケースが多いために報告例が少ない可能性もあげられます。
調剤薬局では、患者様に対して“体質・アレルギー歴”を確認することが薬剤服用歴管理指導料の算定要件に記されています。確認すると患者様の中には桃などの“果物アレルギーがある“とおっしゃる方がしばしばおられます。以下のバラ科生薬を含む漢方薬が果物アレルギーの方へ処方された場合、患者様へ該当薬の成分をお伝えした上で、相談する必要があるかもしれません。
・処方薬に“桃・杏の種”を乾燥させた成分を含む漢方薬が処方されている
・アレルギーの原因となるタンパク質の含量は果肉・果皮よりは少ないもののゼロではない
・原因果物を摂取した際のアレルギーの発症程度を確認する
(喉がかゆくなる・呼吸苦・皮膚湿疹など)
添付文書や臨床報告では具体的な副作用は確認できないものの、患者様と上記の件を相談の上で処方医へ報告して、判断をあおぐ。
調剤薬局での対応としては、このような感じでしょうか。
現在、食べ物や医薬品によるアレルギーのために使用禁忌制限がある医薬品としては
牛乳アレルギー:タンナルビン・エンシュアなど(乳製品:リレンザ・イナビル慎重投与)
卵白:ムコゾーム点眼、リフラップ
サルファ剤:アサコールなど
以下にバラ科の生薬と、それを含む漢方薬を記載します。
~桃仁(トウニン:桃の種子を乾燥させたもの)~
桃核承気湯
疎経活血湯
桂枝茯苓丸
大黄牡丹皮湯
腸癰湯
桂枝茯苓丸加ヨクイニン
潤腸湯
~杏仁(キョウニン:杏の種子を乾燥させたもの)~
桂枝加厚朴杏仁湯
桂麻各半湯
神秘湯
五虎湯
麻子仁丸
麻杏よく甘湯
麻杏甘石湯
麻黄湯
苓甘姜味辛夏仁湯
清肺湯
潤腸湯
~山査子(サンザシ:サンザシの偽果を乾燥させたもの)
啓脾湯
~琵琶葉(ビワヨウ:琵琶の葉を乾燥させたもの)~
辛夷清肺湯
~桜皮(オウヒ:サクラ類の樹皮を乾燥させたもの)~
十味敗毒湯
サリパラ・コデイン液
サリパラ液