おじさん薬剤師の日記

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ALS

埋め込み型の脳コンピューター(ステントロード)を使用してALS患者がツイートに成功

投稿日:2022年1月3日 更新日:

埋め込み型の脳コンピューター(ステントロード)を使用してALS患者がツイートに成功

 

オーストラリア在住で筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者のPhilip O-Keefeさん(62)さんについて、Synchron社が開発した埋め込み型脳コンピューター接続デバイス「ステントロード」を使用することで「考えたこと」を直接ツイッターに投稿することに成功したことが報じられました。

 

今回はSynchron社が開発し、ヒトにおける臨床試験が行われている脳コンピューター接続デバイス「ステントロード(Stentrode)」について調べてみました。

ステントロードを脳内に留置することでALS患者がツイート可能

ステントロードとは

 

脳動脈瘤や心筋梗塞などの治療で使用されている血管内を拡張させる網目状(筒状)の金属(ステント)を脳に留置して脳の運動野からの電気信号をデータ化させるというシステムです。

 

ステントロードの留置には2時間ほどの手術が必要で、頚静脈からカテーテルを使用して脳内にステントロードを設置します。ステントロードは下図のように脳内に設置する「ステント」部分と胸部に設置する「通信機器」部分とが連結されております。

開頭手術が不要であるため患者の侵襲性が小さいことがメリットです。

ALS

ALS

脳内ステントにて収集された情報は胸部に埋め込まれた通信機器装置を通してパソコンへ通信されます。

 

Synchron社はオーストラリアにてステントロードの臨床試験を4名の患者さんに行っており「脳の運動野からの情報を胸部に留置した電極を通じてデータ転送し、デジタル機器を制御する」ことができることを報告しています。

 

そのうちの一人が今回報道されたPhilip O-Keefeさん(62)さんです。

 

Philip O-Keefeさん(62)さんは2015年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断され、2020年4月にステントロードを脳内に埋め込み手術を行いました。胸の電極設置を終え、胸の傷の回復を確認すると、トレーニングが開始されました。

 

マウスをクリックする動作は「左足首をたたくことを思い浮かべる」に設定されました。それが脳から装置への最も強い信号として送信されることが確認されたためです。カーソルを動かす作業は「アイトラッキング技術」が用いられました。トレーニング開始当初は電子メール作成と送信に4時間ほど時間を要したようですが、現在は数分で作業ができるようになったと報道されています。

 

Philip O-Keefeさんは2021年12月23日に、考えるだけで直接ツイッターに以下の投稿を行うことに成功しました。

ステントロードを脳に留置し、脳内の情報をツイートに成功

 

7つのツイートといくつかのいいねをしています。

 

2021年末時点において、Philip O-Keefeさんはマウスを動かしたり、ゆっくりとタイピングするのであれば手を動かすことは可能であり、電子メールやウェブ閲覧、請求書の支払いなどに週2~3回程度使用しているということです。

 

Philip O-Keefeさんは、ALSで困っている人を助けるために、この臨床試験に同意したといいます。ただ、ALSの進行によっては、タイピングやマウス操作、話をすることもできなることが予想されており、Philip O-Keefeさんは「もし治験がなかったら、私は気が狂いそうだ」とコメントを残しています。

 

ステントロードはALSなど運動神経障害を患っている方にとって、選択肢を広げる可能性を秘めている一方で、現時点ではその精度は人それぞれ(まちまち)であり、トレーニングやソフトウエアのアップデートで改善が期待されるとしています。

 

この技術は開発されたばかりの初期段階であり、長期的な安全性の確認が必須です。このデバイスが血管を破裂させた場合、その障害は致死的となる可能性が高いことも懸念材料です。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対して自治医科大が「遺伝子薬」の治験を開始

2021年時点で運動神経障害者の多くは「アイトラッキング技術(視点追跡・眼球の動き)」で情報伝達を行っており、非常に有効な方法ですが眼精疲労が生じやすいというデメリットもあります。また、腕や手に付けたセンサーによって神経信号を拾ってデータ変換する技術も研究されていますが、まったく動くことが出来ない人には活用できません。

 

ステントロードの症例数はまだまだ少ないですが、2021年7月に米国FDAがステントロードの臨床試験を米国で許可していますので、オーストラリアおよび米国での臨床試験数が少しずつ増えていけば、数年後にこの技術が医療現場に広く普及されるかもしれません。

 

 

 

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執筆者:ojiyaku


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