2018年6月26日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会は免疫抑制剤3成分について、禁忌項目となっていた「妊婦や妊娠している可能性のある女性」という記述を削除することを提案し、了承されました。妊娠と薬情報センターがまとめた調査報告によると約2年かけて免疫抑制薬に関する2万件の国内外の報告例を解析した結果として「妊婦への禁忌を解除」という結論に至っています。
免疫抑制薬3成分
上記先発品とそれに該当する後発医薬品が対象となります。
調剤薬局で勤務している私としては、上記の薬を妊婦または妊娠している可能性のある女性にお渡しすることがあるかもしれないので、念の為「飲んでいい理由」を説明できるように調べてみました。(最近の報告を中心に調べました)
上記の免疫抑制剤は、アトピーやリウマチ・膠原病・臓器移植など、さまざまな疾患に使用されるのですが、その使用量は症状により大きくことなります。臓器移植(特に肺や肝臓)では使用量が多い印象があるので、妊婦が使用したデータを見る際は、疾患・投与量・胎児の体調を総合的に勘案する必要があるのかなと感じました。
海外の報告を読んだ感想としましては、臓器移植を行った妊婦に使用する薬はタクロリムス・シクロスポリン・アザチオプリン・プレドニゾロンが推奨されると記されている物が多く、臓器移植で使用した際の出生率は70%前後、早産率は50%前後と記されているものが多い印象です。またアトピーやリウマチなどの疾患で低用量を使用した場合においては、母子の危険因子に関して有意差がない(飲んでも飲まなくても胎児への影響はない)と報告しているものもありました。さらに、厚生労働省の見解のように、いわゆる「赤ちゃんが奇形となる割合」については頻度の上昇を示したデータはありませんでした。
以下に概要を記します。
全身性エリトマトーデス(SLE)の治療としてプログラフまたはグラセプターおよびプレドニゾロンを投与された妊婦15例の報告では、全身性エリトマトーデスの治療でプログラフまたはグラセプターを使用していない群と比較して、胎児体重、出生時の低体重リスク、早産のリスクといった危険因子に関しては有意差がありませんでした。
肝臓移植後の拒絶反応を防ぐためにグラセプターとイムランを服用した妊婦26人、ネオーラルを服用した妊婦4人、プレドニンを服用した妊婦11人に関する報告
妊婦の体調について
出生児について
心臓移植後の拒絶反応を防ぐためにグラセプターまたはネオーラルが投与された妊婦に関するカナダ人を対象としたデータでは
平均在胎週数:35.1週
生存:72.2%
低体重児:53.8%
平均体重:2418g
腎臓移植の拒絶反応を防ぐためにグラセプターを投与した妊婦に関するオーストラリア人を対象としたデータ
出生率:78.9%
早産の割合:56.5%
妊娠高血圧:76%
最後に、海外の報告を調べた感想としましては、臓器移植の臨床報告が多いためかどうかはわかりませんが、2017〜2018年という期間を指定して検索してみても、妊婦に免疫抑制剤を使用した多くの報告を確認することができました。これまで禁忌だった薬を「使用していい」と判断するためには十分な裏付けが必要であることを改めて感じました。また、その内容を患者様やそのご家族に十分開示した上で、使用するかどうかを話し合うことが大切な気がします。