漢方薬を2つ組み合わせると、こんなにすごい!
~漢方専門医が2つの漢方薬を組み合わせて処方する例について~
みなさんは「漢方薬(かんぽうやく)」って聞いたことがありますか?
風邪をひいたときや、体がだるいときに飲むことがある薬で、自然の植物や鉱物から作られているのが特徴です。西洋の薬とちがって、体全体のバランスを整えるように働くのが漢方のすごいところ。
そもそも漢方薬とは複数の生薬(植物を乾燥させたもの)を一定の割合で配合して使用される医薬品なのですが、1種類だけじゃなくて、2種類の漢方薬を一緒に使うことで、あらたな効果が期待されることがあるって知っていましたか?
今回は、そんな「漢方の2剤併用(にざいへいよう)」について、いくつかの例をご紹介します!

kanpou
四物湯(しもつとう)+桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
→ フラッシュバックや心の不安に
「フラッシュバック」っていうのは、昔のつらい記憶が急に頭に浮かんできて、気持ちが不安定になること。事故やいじめなど、強いストレスを受けた人に起こることがあります。
このとき使われるのが、四物湯と桂枝加芍薬湯の組み合わせです。
- 四物湯は、血のめぐりをよくして、体の疲れや冷えを改善します。
- 桂枝加芍薬湯は、お腹の緊張や気持ちの不安をやわらげます。
この2つを一緒に使うことで、心と体の両方を落ち着かせることができるんです。
まるで、体の中から「安心する力」を引き出してくれるようなイメージですね。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)+柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
→ 男性の喉の違和感・胸の圧迫感・疲れやすさに
「喉がつまった感じがする」「胸が苦しい」「なんだか元気が出ない」
そんな症状がある男性に使われるのがこの組み合わせです。
- 半夏厚朴湯は、喉の違和感(梅核気:ばいかくき)を改善する漢方です。ストレスで喉が詰まったように感じるときに使われます。
- 柴胡桂枝乾姜湯は、気持ちが沈んでいるときや、胸の圧迫感、冷えなどに効果があります。
この2つを合わせることで、ストレスによる体の不調をトータルでケアできるんです。
特に、働き盛りの男性が感じる「なんとなくつらい」にぴったりの処方です。
半夏厚朴湯+加味逍遙散(かみしょうようさん)
→ 女性のストレス・喉の違和感・疲れに
女性の場合は、同じ半夏厚朴湯に加味逍遙散を組み合わせることがあります。
- 加味逍遙散は、イライラや不安、月経(生理)に関係する不調に使われる漢方です。
- 半夏厚朴湯と合わせることで、心の不安と喉の違和感の両方にアプローチできます。
この組み合わせは、更年期(こうねんき)や思春期のストレスにも使われることがあり、気持ちが落ち着いて、体も軽くなると感じる人が多いです。
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)+四物湯
→ めまい・耳鳴りに
「ふらふらする」「耳がキーンと鳴る」
そんなときに使われるのが、苓桂朮甘湯と四物湯の組み合わせです。
- 苓桂朮甘湯は、体の中にたまった水分(=水毒)を取り除いて、めまいや耳鳴りを改善します。
- 四物湯は、血のめぐりをよくして、貧血や冷えを改善します。
この2つを合わせることで、水と血のバランスを整えて、めまいや耳鳴りを根本から改善することができるんです。
まるで、体の中の「流れ」をよくしてくれるような感じですね。
漢方メーカーの「ツムラ」では四物湯と苓桂朮甘湯は別々に販売されていますが、コタローという漢方メーカーでは苓桂朮甘湯合四物湯(連珠飲)という名前で上記の2剤を混合した製品が販売されています
まとめ:漢方の組み合わせは“チームワーク”!
漢方薬は、それぞれが得意な働きを持っています。
でも、2つを組み合わせることで、より広い範囲の不調に対応できるようになります。
これは、スポーツでいう「チームワーク」と同じ。
1人ではできないことも、2人ならできる。漢方も、それぞれの力を合わせて、体と心を元気にしてくれるんです。
注意として
漢方薬は、複数の生薬(しょうやく)を組み合わせて、体のバランスを整える伝統的な医療です。近年では、症状に応じて2種類以上の漢方薬を併用するケースも増えており、より柔軟な治療が可能になっています。
しかし、併用することで特定の生薬が過剰摂取になるリスクもあるため、安全性の観点から「上限量」が設定されている成分があります。
甘草(かんぞう)
上限量:1日5gまで(グリチルリチン換算で約300mg)
甘草は、漢方薬の約70%以上に含まれる「調和薬」で、炎症を抑えたり、他の生薬の働きを助けたりします。しかし、過剰に摂取すると以下のような副作用が起こることがあります:
偽アルドステロン症(低カリウム血症、むくみ、高血圧)
筋力低下、倦怠感、不整脈
特に**芍薬甘草湯(甘草6g)+小青竜湯(甘草1.5g)**などの併用は、甘草量が上限を超えるため注意が必要です。
麻黄(まおう)
上限量:エフェドリン換算で1日90mg程度が目安
麻黄は、発汗・鎮咳・気管支拡張作用があり、風邪薬(葛根湯、小青竜湯など)に多く含まれます。エフェドリンという成分が含まれており、以下の副作用が報告されています:
- 心悸亢進(動悸)、不眠、血圧上昇
- 興奮、不安感
- ドーピング対象物質としても注意が必要
高齢者や心疾患のある方には慎重な使用が求められます。
大黄(だいおう)
上限量:センノシド換算で1日20mg程度が安全域
大黄は、便秘改善や炎症抑制に使われる瀉下薬(下剤)です。過剰に摂取すると:
- 腹痛、下痢
- 習慣性(常用による効果減弱)
- 大腸メラノーシス(腸の色素沈着)
潤腸湯などの大黄含有処方を複数併用する場合は、瀉下作用が強く出すぎることがあります。
附子(ぶし)
上限量:加工済みでも1日3g以下が推奨
附子は、体を温めて痛みを和らげる強力な生薬です。未加工品は劇薬に分類されるほど毒性が強く、加工済みでも以下の副作用に注意が必要です:
- しびれ、動悸、吐き気
- 中毒症状(過量摂取で命に関わることも)
附子を含む処方(八味地黄丸、桂枝加朮附湯など)を併用する際は、附子量の合算に注意が必要です。
山梔子(さんしし)
上限量:明確な数値はないが、長期・高用量に注意
山梔子は、熱を冷まし、イライラや不眠を改善する生薬です。加味逍遙散や黄連解毒湯などに含まれますが、長期・高用量で以下の副作用が報告されています:
- 腸管膜静脈硬化症(まれだが重篤)
- 腹痛、便秘
特に加味逍遙散+黄連解毒湯などの併用は、山梔子の量が多くなるため注意が必要です。