おじさん薬剤師の日記

調剤薬局で勤務するおじさんです。お薬のはたらきを患者様へお伝えします

漢方薬

漢方薬を2つ組み合わせると、こんなにすごい!

投稿日:2025年9月3日 更新日:

漢方薬を2つ組み合わせると、こんなにすごい!

~漢方専門医が2つの漢方薬を組み合わせて処方する例について~

みなさんは「漢方薬(かんぽうやく)」って聞いたことがありますか?
風邪をひいたときや、体がだるいときに飲むことがある薬で、自然の植物や鉱物から作られているのが特徴です。西洋の薬とちがって、体全体のバランスを整えるように働くのが漢方のすごいところ。

そもそも漢方薬とは複数の生薬(植物を乾燥させたもの)を一定の割合で配合して使用される医薬品なのですが、1種類だけじゃなくて、2種類の漢方薬を一緒に使うことで、あらたな効果が期待されることがあるって知っていましたか?

今回は、そんな「漢方の2剤併用(にざいへいよう)」について、いくつかの例をご紹介します!

kanpou

kanpou

 


 四物湯(しもつとう)+桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

→ フラッシュバックや心の不安に

「フラッシュバック」っていうのは、昔のつらい記憶が急に頭に浮かんできて、気持ちが不安定になること。事故やいじめなど、強いストレスを受けた人に起こることがあります。

このとき使われるのが、四物湯と桂枝加芍薬湯の組み合わせです。

  • 四物湯は、血のめぐりをよくして、体の疲れや冷えを改善します。
  • 桂枝加芍薬湯は、お腹の緊張や気持ちの不安をやわらげます。

この2つを一緒に使うことで、心と体の両方を落ち着かせることができるんです。
まるで、体の中から「安心する力」を引き出してくれるようなイメージですね。


半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)+柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)

→ 男性の喉の違和感・胸の圧迫感・疲れやすさに

「喉がつまった感じがする」「胸が苦しい」「なんだか元気が出ない」
そんな症状がある男性に使われるのがこの組み合わせです。

  • 半夏厚朴湯は、喉の違和感(梅核気:ばいかくき)を改善する漢方です。ストレスで喉が詰まったように感じるときに使われます。
  • 柴胡桂枝乾姜湯は、気持ちが沈んでいるときや、胸の圧迫感、冷えなどに効果があります。

この2つを合わせることで、ストレスによる体の不調をトータルでケアできるんです。
特に、働き盛りの男性が感じる「なんとなくつらい」にぴったりの処方です。

バラ科アレルギーと桃仁・杏仁を含む漢方薬について


半夏厚朴湯+加味逍遙散(かみしょうようさん)

→ 女性のストレス・喉の違和感・疲れに

女性の場合は、同じ半夏厚朴湯に加味逍遙散を組み合わせることがあります。

  • 加味逍遙散は、イライラや不安、月経(生理)に関係する不調に使われる漢方です。
  • 半夏厚朴湯と合わせることで、心の不安と喉の違和感の両方にアプローチできます。

この組み合わせは、更年期(こうねんき)や思春期のストレスにも使われることがあり、気持ちが落ち着いて、体も軽くなると感じる人が多いです。


苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)+四物湯

→ めまい・耳鳴りに

「ふらふらする」「耳がキーンと鳴る」
そんなときに使われるのが、苓桂朮甘湯と四物湯の組み合わせです。

  • 苓桂朮甘湯は、体の中にたまった水分(=水毒)を取り除いて、めまいや耳鳴りを改善します。
  • 四物湯は、血のめぐりをよくして、貧血や冷えを改善します。

この2つを合わせることで、水と血のバランスを整えて、めまいや耳鳴りを根本から改善することができるんです。
まるで、体の中の「流れ」をよくしてくれるような感じですね。

漢方メーカーの「ツムラ」では四物湯と苓桂朮甘湯は別々に販売されていますが、コタローという漢方メーカーでは苓桂朮甘湯合四物湯(連珠飲)という名前で上記の2剤を混合した製品が販売されています


まとめ:漢方の組み合わせは“チームワーク”!

漢方薬は、それぞれが得意な働きを持っています。
でも、2つを組み合わせることで、より広い範囲の不調に対応できるようになります。

これは、スポーツでいう「チームワーク」と同じ。
1人ではできないことも、2人ならできる。漢方も、それぞれの力を合わせて、体と心を元気にしてくれるんです。

 


注意として

漢方薬は、複数の生薬(しょうやく)を組み合わせて、体のバランスを整える伝統的な医療です。近年では、症状に応じて2種類以上の漢方薬を併用するケースも増えており、より柔軟な治療が可能になっています。

しかし、併用することで特定の生薬が過剰摂取になるリスクもあるため、安全性の観点から「上限量」が設定されている成分があります。


甘草(かんぞう)

上限量:1日5gまで(グリチルリチン換算で約300mg)

甘草は、漢方薬の約70%以上に含まれる「調和薬」で、炎症を抑えたり、他の生薬の働きを助けたりします。しかし、過剰に摂取すると以下のような副作用が起こることがあります:

  • 偽アルドステロン症(低カリウム血症、むくみ、高血圧)

  • 筋力低下、倦怠感、不整脈

特に**芍薬甘草湯(甘草6g)+小青竜湯(甘草1.5g)**などの併用は、甘草量が上限を超えるため注意が必要です。


麻黄(まおう)

上限量:エフェドリン換算で1日90mg程度が目安

麻黄は、発汗・鎮咳・気管支拡張作用があり、風邪薬(葛根湯、小青竜湯など)に多く含まれます。エフェドリンという成分が含まれており、以下の副作用が報告されています:

  • 心悸亢進(動悸)、不眠、血圧上昇
  • 興奮、不安感
  • ドーピング対象物質としても注意が必要

高齢者や心疾患のある方には慎重な使用が求められます。


大黄(だいおう)

上限量:センノシド換算で1日20mg程度が安全域

大黄は、便秘改善や炎症抑制に使われる瀉下薬(下剤)です。過剰に摂取すると:

  • 腹痛、下痢
  • 習慣性(常用による効果減弱)
  • 大腸メラノーシス(腸の色素沈着)

潤腸湯などの大黄含有処方を複数併用する場合は、瀉下作用が強く出すぎることがあります。


附子(ぶし)

上限量:加工済みでも1日3g以下が推奨

附子は、体を温めて痛みを和らげる強力な生薬です。未加工品は劇薬に分類されるほど毒性が強く、加工済みでも以下の副作用に注意が必要です:

  • しびれ、動悸、吐き気
  • 中毒症状(過量摂取で命に関わることも)

附子を含む処方(八味地黄丸、桂枝加朮附湯など)を併用する際は、附子量の合算に注意が必要です。


山梔子(さんしし)

上限量:明確な数値はないが、長期・高用量に注意

山梔子は、熱を冷まし、イライラや不眠を改善する生薬です。加味逍遙散や黄連解毒湯などに含まれますが、長期・高用量で以下の副作用が報告されています:

  • 腸管膜静脈硬化症(まれだが重篤)
  • 腹痛、便秘

特に加味逍遙散+黄連解毒湯などの併用は、山梔子の量が多くなるため注意が必要です。

-漢方薬

執筆者:ojiyaku

関連記事

yokuinin

イボに対するヨクイニンエキスの効果を患者様へお伝えする

イボに対するヨクイニンエキスの効果を患者様へお伝えする ウイルスが原因で生じるイボ(青年性扁平疣贅、尋常性疣贅)の内服薬として“ヨクイニンエキス錠「コタロー」、ヨクイニンエキス散「コタロー」が処方され …

kanpo-cost-up

漢方薬の自己負担引き上げ案に日本東洋医学会が反論

漢方薬の自己負担引き上げ案に日本東洋医学会が反論   内閣府の経済財政諮問会議、財務省の財政制度等審議会財制度分科会において一部の漢方薬を含む医薬品について、医療用医薬品でありながら市販薬と …

laxative-kanpou-comparison

下剤として処方される漢方薬の比較と覚え方

下剤として処方される漢方薬の比較と覚え方   便秘症状はさまざまな病態がありますので、その症状に応じた漢方薬が処方されることがあります。薬局にはさまざまな漢方薬が在庫していることが多いので、 …

syakuyaku-kanzou-tou

足がつったら芍薬甘草湯:その即効性について(服用後数分で効果が期待される理由)

足がつったら芍薬甘草湯:その即効性について(服用後数分で効果が期待される理由) 追記:2025/7/18 夏場の夜、足がつるというお話しを多く耳にします。 室温25℃以上の環境下で夏場に寝る場合、一晩 …

tab4

松浦薬業が32~34日間の業務停止命令/117品目310万個を自主回収

松浦薬業が32~34日間の業務停止命令/117品目310万個を自主回収   マツウラ葛根湯エキスなどを製造している松浦薬業は、製造方法の変更届を行わずに、原材料を増やしたり、添加剤を加える順 …