ヘパリン類似物質が皮膚のバリア機能を調整するメカニズム(2024/12/20)
ヒルドイドソフトを販売しているマルホと理化学研究所はヒルドイドソフトの主成分であるヘパリン類似物質がどの様に皮膚のバリア機能を調整しているのか、そのメカニズムについての一端を報告しました。
皮膚のバリア機能の仕組みについて
皮膚の表面は角化細胞とよばれる細胞によって作られておりまして、皮膚の深い所で作られては、徐々に皮膚の表層まで上がってきて、最終的には皮膚の表層(角質層)で皮膚表面をバリアした後、その役割を終えて剥がれ落ちてきます。
ここで大切な点は、角化細胞が正しく分化することと、必要な量が増殖することです。
「分化」と「増殖」について少しお話ししますと
「分化」とは皮膚の底で、未成熟な角化細胞が成熟して角化細胞へ変化していくことを意味します。子供が大人になるという意味です。
大人になった「角化細胞」は細胞の形が長方形のような扁平になり、ケラチンというたんぱく質を細胞内に作り出して蓄積します。さらに細胞同士を強固にくっつけ合って、バリア機能を作り出して皮膚を保護します。つまり正しく分化を行うことが皮膚のバリア機能には重要となります。
角化細胞の増殖とは、その名の通り皮膚の底で角化細胞の数が単純に増えることを言います。細胞分裂によって新しい角化細胞が作られることです。
増殖は皮膚の再生や損傷治癒に大切なプロセスです。
では、ヘパリン類似物質がこれらの角化細胞にどのように影響するかについてマルホが発見した内容をお伝えします。
ヘパリン類似物は表皮の構成細胞である角化細胞の分化を促し、増殖を抑制することにより未成熟な角化細胞を成熟化させることで、外部の病原体やアレルゲンから体を守るバリア機能を強くする作用が発見されました。
未成熟な角化細胞の分化を早める作用によって、損傷部位や皮膚のバリア機能が低下している部位の回復が早まるのは非常にメリットですよね。興味深い点は「増殖抑制」という記述です。
一見すると、増殖も促進した方がよいのでは?と思ってしまいがちですが、このあたりはリアルに皮膚をイメージしてみるとわかりやすいかと思います。ヘパリン類似物によって分化が促進されて未成熟な角化細胞がどんどんと成熟していくとします。すると皮膚は丈夫になりますよね。ここまでは良いとします。
この状態でさらに皮膚の増殖も促進されたらどうなりますでしょうか?
皮膚の底から、どんどん新しい皮膚がつくられて、それらがどんどん成熟していくと考えると、皮膚が肥厚していくことになってします。皮膚がどんどん分厚くなると、厚くなった皮膚は乾燥しやすく、ひび割れや痛み、かゆみを伴うこともありますので、デメリットなんですね。
つまり、ちょうどよい量の皮膚が一定量作らえる条件で、分化が促されると、皮膚表面のバリア機能が正しく保たれるわけですね。
今回マルホが発見したヘパリン類似物の作用が、まさにこのような内容であり、角化細胞の分化を促しながらも、増殖を促進する「アンフィレグリン」という物質の発現を抑制しつつ、産生される「アンフィレグリン」の阻害にヘパリン類似物が関与することで、皮膚のバリア機能の回復をはかるという作用となります。
ちなみにですが、ヒルドイドソフト軟膏やヘパリン類似物油性クリームをカサカサ肌、保湿剤目的で処方する場合、「皮脂欠乏症」という病名が該当します。
ヒルドイド軟膏の効能効果
痕・ケロイドの治療と予防
進行性指掌角皮症
皮脂欠乏症
外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫脹・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎、筋性斜頸(乳児期)
ヒルドイド(ヘパリン類似物質)の保険適用問題
2017年10月18日にヒルドイドを販売しているマルホ株式会社のホームページに「ヒルドイドの適正使用についてのお願い」というお知らせが公開されました。その内容は、一部の雑誌やブログなどでヒルドイドを美容目的として推奨していることが報道されていますが、それは不適切であるという内容となっています。
同時期ですが、2017年9月に健康保険組合連合会による「レセプト分析による関する調査研究」において“ヒルドイドなどの保湿剤処方のあり方を見直す”ことが要望として挙げられました。
2015年以降、雑誌やメディアなどで“美容アイテムとしてのヒルドイド”が取り上げられてから、25歳~54歳までの女性に対する処方量が男性に比べて5倍以上に急増しているデータが公開されました。
病院から処方される医療用保湿剤の81%はヒルドイドかそのジェネリック医薬品であるという事実がありますので、健康保険組合連合会は“保湿剤の処方のあり方”という文字で提言を行っていますが、実際は“保湿剤=ヒルドイドまたはそのジェネリック医薬品”として、その使用実態にメスを入れる感じとなっています。
ヒルドイドの美容促進に関する誤報について言及はしませんが、インタビューフォームに記されている“瘢痕形成の改善”、“肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防”という効能効果が誤認されたのではないかと私は推測します。
海外の保湿剤の状況を確認してみると、ヒルドイドを保険収載している国は少なく、イギリス・アメリカ・フランスではヒルドイドの主成分を含む保湿剤は市販薬として販売されております。
健康保険組合連合会の概算によるとヒルドイドおよびそのジェネリック薬品の年間薬剤費は1230億円程度と算出しており、国として医療費削減をうたっている現状において美容目的で処方されているかもしれないヒルドイドを見逃すわけにはいかないという見解なのでしょうか。
健康保険組合連合会としては「外来診療において、皮膚乾燥症に対して保湿剤(ヘパリン類似物質または白色ワセリン)が他の外皮用薬または抗ヒスタミン薬と同時処方されていない場合には、当該保湿剤を保険適用かが除外する」ことを政策提言としています。
2年に1回の診療報酬改定では、いわゆる“槍玉に挙げられる”対象があるように私は認識しています。2016年度の診療報酬改定では整形領域の“シップの70枚処方制限”が、その対象だったと記憶しています。2017年末にはある程度の診療報酬改定の方針が示されると思いますが、それを前にして“保湿剤“の処方実態、使用実態が医療費削減のポイントとして”槍玉の候補の一つ“に挙げられたかどうか・・・