ヒルドイドとGEで混合結果が違う理由とは?薬の相性と安定性一覧リストを公開
皮膚科の処方箋でよく見かける「ヒルドイドソフト軟膏」。保湿剤の代名詞とも言えるこの薬は、他の塗り薬(ステロイドなど)と混ぜて処方されることが非常に多い薬剤です。
しかし、現場の薬剤師や医師の間では「先発品のヒルドイドなら混ぜても大丈夫だけど、ジェネリック(GE:ヘパリン類似物質油性クリーム)だと分離してしまう」という現象が広く知られています。
なぜ、主成分が同じであるはずのジェネリック医薬品でこのような違いが生まれるのでしょうか。今回は、その理由を専門用語を噛み砕いて解説するとともに、ヒルドイドと他の外用薬との混合可否リストを詳しくまとめました。
1. ヒルドイドソフト軟膏の開発経緯と「ソフト軟膏」の意義
まず、なぜヒルドイドには「クリーム」だけでなく「ソフト軟膏」という名称が存在するのか、その開発の歴史と差別化について触れておきましょう。
もともと、ヒルドイドには「クリーム」タイプが存在していました。クリームは伸びが良く使い心地が良い反面、皮膚を保護する力(バリア機能)が軟膏に比べて弱いという弱点がありました。一方で、ワセリンなどの「軟膏」は保護力は高いものの、ベタつきが強く、広範囲に塗るのが大変です。
そこで開発されたのが「ヒルドイドソフト軟膏」です。この薬剤の最大の功績は、「高い保湿力・保護力」と「塗り広げやすさ」を両立させたことにあります。
既存の治療薬との差別化
ヒルドイドソフト軟膏は、「W/O型(油中水型)乳化」という非常に特殊な技術を用いて作られました。これは「油の中に水の粒子が分散している」構造です。
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従来のクリーム(O/W型): 水の中に油が浮いている。サラッとしているが乾燥しやすい。
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ソフト軟膏(W/O型): 油の中に水が閉じ込められている。しっとり感が持続し、皮膚の密封効果(ODT効果)が高い。
この「ソフト軟膏」という形態を完成させたことで、アトピー性皮膚炎や乾燥肌の患者さんに対して、単なる水分補給以上の「皮膚バリアの再生」という大きな意義をもたらしたのです。
2. なぜ先発品とジェネリック(GE)で混合結果が異なるのか
「主成分が同じなら、何と混ぜても同じ結果になるはず」と思われがちですが、実は外用薬において、主成分以外の「基剤(ベースとなる成分)」と「界面活性剤(水と油をつなぐ役割)」の組み合わせは、メーカーの極秘ノウハウ(特許や企業秘密)です。
先発品とGEで結果が分かれる理由は、主に以下の3点に集約されます。
① 「乳化の安定性」を決める界面活性剤の違い
マヨネーズを想像してみてください。卵(界面活性剤)の力で酢(水)と油が混ざっていますが、少しの刺激や成分の変化で分離してしまいますよね。
ヒルドイドソフト軟膏は、開発元のマルホが長年の研究により、「他の薬を混ぜても乳化状態が壊れにくい絶妙なバランス」を完成させています。
一方、GEメーカーは、先発品と全く同じ添加物を使うことはできません。各社が独自に「油性クリーム」としての基剤を設計しているため、特定のステロイド軟膏などを混ぜた際に、その刺激に耐えきれず、乳化が壊れて「分離(水が漏れ出す現象)」が起きてしまうのです。
② pH(酸性度)の変化に対する抵抗力の差
薬を混ぜると、全体のpH(酸性・アルカリ性の度合い)が変わります。先発品のヒルドイドはpHの変化に対して非常にタフな設計になっていますが、GEの一部はpHが少し変わるだけで、油の膜が壊れてドロドロに液状化したり、逆にカチカチに硬くなったりすることがあります。
③ 配合されている添加物の相性
薬には、防腐剤や安定剤など、微量の成分が含まれています。GEに含まれる特定の添加物が、混ぜ合わせる相手の薬の成分と化学反応を起こし、結晶が出てきたり、色が変わったり(変色)することもあります。
3. ヒルドイドソフト軟膏と外用薬の混合可否・安定性一覧表
各種ステロイド外用薬とヒルドイドソフト軟膏(先発品)/ヘパリン類似物質油性クリーム「日医工」との相性を一覧にまとめました。
| ステロイド外用薬と保湿剤(ヒルドイドソフト・ヘパリン類似油性)の配合可否表 | |||
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ランク |
ステロイド薬名 | ヒルドイドソフト軟膏 | ヘパリン類似物質油性クリーム「日医工」 |
| Strongest | ダイアコート軟膏 | ○ | ○ |
| ダイアコートクリーム | ○ | ○ | |
| デルモベート軟膏 | ×(2週目:ブリーディング) | ×(4週目:ブリーディング) | |
| デルモベートクリーム | ×(2週目:ブリーディング) | ×(8週目:ブリーディング) | |
| Very Strong | アンテベート軟膏 | ○ | △(12週目:ブリーディング) |
| ベタメタゾン酪酸エステル軟膏 | ○ | ×(2週目:ブリーディング) | |
| マイザー軟膏 | ○(冷所推奨) | ×(4週目:ブリーディング) | |
| ネリゾナ軟膏 | ○ | ○ | |
| ネリゾナユニバーサルクリーム | ○ | ×(8週目:ブリーディング) | |
| フルメタ軟膏 | ×(2週目:ブリーディング) | ×(2週目:ブリーディング) | |
| フルメタクリーム | ×(2週目:ブリーディング) | ×(2週目:軟化) | |
| Strong | ボアラ軟膏 | ○ | △(12週目:ブリーディング) |
| ボアラクリーム | ○ | × (2週目:軟化・分離) | |
| メサデルムクリーム | ○ | △(12週目:ブリーディング) | |
| リンデロン-V軟膏 | ○ | ×(4週目:ブリーディング) | |
| リンデロン-Vクリーム | ○ | ○ | |
| Medium | キンダベート軟膏 | △(ブリーディング) | ×(2週目:ブリーディング) |
| グリメサゾン軟膏 | ○ | ×(2週目:ブリーディング) | |
| アルメタ軟膏 | ○ | ×(4週目:ブリーディング) | |
| ロコイド軟膏 | ○ | ○ | |
| ロコイドクリーム | ○ | △(12Wブリーディング) | |
ステロイド軟膏以外の成分として先発品のヒルドイドソフト軟膏なら安定しているが、GE(ヘパリン類似物質油性クリーム)では分離・不安定化が報告されている品目としては
オキサロール軟膏:著しい分離、離水。主成分の安定性が低下する。
ドボネックス軟膏:乳化破壊による分離、成分の分解。
ボニアルファハイ軟膏:物理的安定性の低下。
ディフェリンゲル:基剤の性質が異なるため、分離の可能性が高い。
などが挙げられます

4. なぜ「分離」するといけないのか?
患者さんの中には「少し水っぽくなっても、混ぜて塗れば同じでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、分離した薬剤を使用することには以下のリスクがあります。
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薬の濃度がバラバラになる
分離した状態で塗ると、主成分が濃い部分と薄い部分ができてしまいます。特にステロイド剤の場合、効きすぎたり、逆に効かなかったりと、治療計画に支障が出ます。 -
有効成分が分解される
乳化が壊れてpHが変わると、薬の成分そのものが分解され、効果がなくなってしまうことがあります。 -
使用感が悪化し、コンプライアンスが低下する
ベタつきが強くなったり、逆に水のように流れてしまったりすると、患者さんが「塗るのが嫌だ」と感じてしまい、結果として治療を中断してしまう原因になります。 -
皮膚刺激の原因になる
本来、基剤の中に閉じ込められているべき成分が直接肌に触れることで、刺激感(ヒリヒリ感)が出る場合があります。
5. 調剤時の対応
患者様への対応
お薬を受け取る際に、薬剤師から「この薬の組み合わせは先発品のヒルドイドでないと分離してしまうため、先発品で調剤いたします」という説明を事前におこないます。その際は、単に値段が高い・安いという問題ではなく、「薬の効果を正しく発揮させるための選択」であると理解していただきます。
病院・クリニックへの疑義照会
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疑義照会の検討: GEでの混合が不安定な組み合わせについては、先発品への変更、または「混合せずに別々に塗る(重ね塗り)」を提案することを疑義照会します。
まとめ
ヒルドイドソフト軟膏(先発品)とヘパリン類似物質油性クリーム(GE)は、一見同じに見えますが、その中身(基剤の設計)は大きく異なります。
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先発品: 他の薬を混ぜても壊れにくい「タフな構造」を持っている。
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GE: 単体での使用には問題ないが、混合による刺激(pH変化やイオンの影響)には弱い傾向がある。
特にビタミンD3製剤(オキサロール等)や、一部のステロイド軟膏と混合する場合は、先発品のヒルドイドソフト軟膏を使用するのが最も安全で確実な選択です。
薬を混ぜるという行為は、単に2つの容器を1つにまとめることではありません。新しい1つの「化合物」を作るような繊細な作業です。その安定性を支えているのは、メーカーが長年培ってきた基剤の技術なのです。
