1回飲みきりインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ錠(バロキサビルマルボキシル)」が承認審査(治験薬記号:S-033188)
先駆け審査指定制度の指定をうけている1回飲みきりインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ錠(バロキサビルマルボキシル)」が平成30年2月2日に薬事食品衛生審議会医薬品第二部会において医薬品として承認審査を受けることになりました。(治験薬記号:S-033188)
ゾフルーザ錠は新しい作用機序のインフルエンザ治療薬であり、1回の服用でインフルエンザウイルスの力価を低下させることができる治療薬です。以下にゾフルーザ錠の治験成績と薬理作用について記します。
第三相試験(CAPSTONE-1)データ
対照
インフルエンザと診断を受けた1436名の健常人(20~64歳)
症状の発症から48時間以内に服用開始
ゾフルーザ錠10mg/20mg(1回飲みきりインフルエンザ治療薬)承認可否
服用群
・ゾフルーザ錠40~80mgを1回服用した群
・プラセボを1日2回5日間服用した群
・タミフルを1日2回5日間服用した群
ゾフルーザ錠の投与量に関しては体重が80kg未満の場合は40mgを服用し、80kg以上の場合は80mgを服用しています。
結果
~ウイルス力価ベースライン~
タミフル群が服用から2日目で低値を示したのに対し、ゾフルーザ群は服用初日で同程度の低値を示した。
~ウイルスが排出停止までの時間~
ゾフルーザ群:24時間
プラセボ群:96時間
タミフル群:72時間
~発熱時間~
ゾフルーザ群:24.5時間
プラセボ群:42時間
~副作用発生率~
ゾフルーザ群:20.7%
プラセボ群:24.6%
タミフル群:24.8%
以上よりゾフルーザ錠はタミフルおよびプラセボ群と比較して有意な改善が確認されています。上記は第三相試験CAPSTONE-1のデータですが、もう一つのグローバル第三相試験CAPSTONE-2は2018年5月ころまでデータ集積が行われ、それ以降に結果が公開される予定となっております。
ゾフルーザ錠はA型・B型インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス作用に加えて、H5N1およびH7N9鳥インフルエンザに対しても抗ウイルス作用が示されております。
ゾフルーザ錠の薬理作用について
既存でインフルエンザ治療薬として処方されるタミフル・リレンザ・イナビル・ラピアクタの4剤はいずれもノイラミニダーゼ(NA)阻害剤という分類の作用機序を持っておりました。(アビガン錠は市場動向がないため除きます)
今回承認可否が行われるゾフルーザ錠の作用機序は“キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤”ですので新しいタイプの治療薬となります。
以下にキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤について私なりの解釈を記します。
インフルエンザウイルスはヒトや鳥になどの宿主に感染し、宿主細胞の核内に潜り込んで、自身のmRNAを合成することで繁殖していきます。インフルエンザウイルスがmRNAの合成を開始するためには、合成をスタートさせるための目印が必要です。しかしインフルエンザウイルスはこの目印部分を持っていないため、宿主のpre-mRNAから目印部分を切り取って、そこを起点としてインフルエンザウイルス自身のmRANの合成を行います。
この“目印部分”のことをキャップと呼びます。
さらに加えますと、ヒトのpre-mRNAを切断する酵素のことをエンドヌクレアーゼと呼びます。キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤とはキャップ部分を認識して切断する酵素のことです。
ゾフルーザ錠の薬理作用は、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤ですので、インフルエンザウイルスのmRNA合成開始に必要なキャップ部分をヒトのpre-mRNAから切り取る作業を阻害します。それによりインフルエンザウイルスはmRNAの合成を開始できないため増殖することができなくなります。
(タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤の薬理作用は、細胞内で合成されたインフルエンザウイルスが他の細胞へ飛び立つことを阻害するはたらきでした。)
ゾフルーザ錠は2018年2月2日の承認審査で医薬品として認可されるかどうかが検討されることとなりますので、実際に治療薬として処方されるのは2018年-2019年のインフルエンザシーズンとなる感じでしょうか。
追記
塩野義製薬が開発した「ゾフルーザ錠」は2018年2月2日の審議会の結果、新薬として承認されました。
用法および用量
成人および12歳以上の小児には20mg2錠(40mg)を単回投与する。ただし体重80kg以上の患者には20mg4錠(80mg)を単回投与する。
12歳未満の小児には
体重10~20kg未満:10mg1錠を単回投与
体重20~40kg未満:20mg1錠を単回投与
体重40kg以上:20mg2錠を単回投与
ゾフルーザ錠は服用後に体内で小腸、血液、肝臓中のエステラーゼによって速やかに加水分解されて活性型となって抗インフルエンザ作用を発揮します。タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害薬にたいして耐性を有するウイルスに対しても抗ウイルス作用が確認されています。
インフルエンザに感染して各症状(咳・のどの痛み・頭痛・鼻づまり・熱っぽさ・悪寒・筋肉痛・関節痛・疲労感)などのすべての症状が「なし」または「軽度」に改善するまでの時間を確認したところ
プラセボ群(230人):80.2時間(3.3日(3日と8時間))
ゾフルーザ服用群(455人):53.7時間((2.2日(2日と6時間))
というデータとなっており、プラセボ群にくらべてインフルエンザからの回復期間が1日程度早くなっていることが確認できます。
大人に比べて症例数は少ないですが、小児においても2日前後で症状の改善が確認されています。
異常行動・精神神経症状に関する副作用報告
ゾフルーザ錠服用後の副作用において、成人および12歳以上の小児患者を対象とした臨床試験において頭痛症状0.1%(1/910例)、味覚異常0.1%(1/910例)、嗅覚錯誤0.1%/1/910例)が認められたが、いずれも軽度で異常行動に繋がる副作用は認められなかった。また、12歳未満の小児患者を対象とした臨床試験においてゾフルーザ錠を服用した107例中、精神神経障害に分類される副作用は認められなかった。
ゾフルーザ錠服用による異常行動・精神神経症状に関する副作用報告はなかったものの、治療薬の種類や使用の有無にかかわらずインフルエンザ脳症の一症状として異常行動・精神神経は発現する可能性があることから、厚生労働省が公開している既存の注意喚起を踏襲するようインタビューフォームに記されています。
厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知(薬生安発1127第8号,平成29年11月27日付より抜粋)
抗インフルエンザウイルス薬の種類や服用の有無によらず,インフルエンザと診断され治療が開始された後,少なくとも2日間は,保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することを原則とする旨の説明に加え,次の注意喚起の例が考えられます。
(1) 高層階の住居においては、例えば,
・玄関及び全ての窓の施錠を確実に行うこと(内鍵、補助錠がある場合はその活用を含む。),
・ベランダに面していない部屋で療養を行わせること,
・窓に格子のある部屋がある場合はその部屋で療養を行わせること,
等,小児・未成年者が容易に住居外に飛び出ない保護対策を講じることを医療関係者から患者及び保護者に説明すること
(2) 一戸建てに住んでいる場合は,例えば,(1) の内容のほか,出来る限り1階で療養を行わせること