bone
日本人を対象として血液中のビタミンD濃度と癌の発症リスクに関するデータが公開されました。その結果、血中ビタミンD濃度と癌の発症リスクとは逆相関することが示されました。(ビタミンD濃度が高い方ほど癌の発症リスクが低い)。
既存の治療として骨粗鬆症の治療・予防に関してビタミンD製剤の有益性は認識されておりますが、今回はビタミンD製剤による細胞周期やアポトーシス調整といったシグナル伝達経路を介した悪性細胞の増殖抑制作用に関する国内データが開示されました。
対象:癌発症例(3301例)とランダムに選出された4044例
調査項目:血中ビタミンD濃度と癌発症リスクとの関連について
結果
血中ビタミンD濃度は四季により濃度が異なり、夏または秋に採血した時の濃度が冬または春に採血した時の濃度よりも高い傾向にありました。
血液中ビタミンD濃度の低い群から順に1群、2群、3群、4群とした時に、ビタミンD濃度が一番低い1群と比較して、各群の癌発症総リスクのハザード比はそれぞれ
2群:0.81(0.71 〜0.94)
3群:0.75(0.65〜0.87)
4群:0.78(0.67〜0.91
注:カッコ内は95%信頼区間(有意差あり)
となりました。上記のデータからビタミンD濃度が一番低い1群と比較すると2〜4群は癌の発症リスクが20〜25%ほど低下していることがわかります。
特定の部位における癌とビタミンD濃度との関係を見てみると肝臓癌と血中ビタミンD濃度との間に逆相関が確認されました。(有意差ありP=0.006)。本研究以外のデータではありますが、閉経前乳癌や肺がん、前立腺癌でも血中ビタミンD濃度と各癌との間に逆相関が報告されております(有意差あり)。
1ヶ月に1回飲む骨粗鬆症の薬の副作用は1か月つづくの?という質問について
今回のデータを見る限り、血中ビタミンD濃度が上がれば上がるほど癌リスクが減るという解釈ではなく、一定以上の血中ビタミンD濃度が確保されていれば、ビタミンD濃度が低い群と比較して癌発症リスクが減るという解釈かと思います。そのためむやみやたらに血中ビタミンDをあげるというよりは、「ビタミンDを下げないような食生活を心掛ける」という解釈がいいのではないでしょうか。
ビタミンDの1日の推奨摂取量は成人男性・女性ともに5.5μg程度となっており、食品としては魚類(干物・焼き・生食)に多くふくまれています。通常の食生活ではビタミンDの摂りすぎとなることはありませんが、サプリメントや医薬品を摂取している場合は念のため過剰摂取に注意が必要です。
カナダにおける2023年最新版の骨粗しょう症ガイドラインが公開されました。
ガイドラインでは50歳以上の閉経後の女性および男性を対象として、骨粗しょう症および骨折の危険因子の有無をスクリーニングして、骨格の健康と骨折の予防を最適化するための推奨事項を開示しています。
以下に概要を記します。
エクササイズ
50歳以上の閉経後の女性および男性に対する転倒と骨折の予防のために運動に関する推奨事項
機能訓練(ファンクショナルトレーニング)
・スクワットジャンプ、身体開き、スイング、ニートゥエルボー
バランス訓練
・片足立ち、つま先立ち、かかと上げ、腰回し、バランスボール訓練
上記の機能訓練およびバランス訓練を行うことで、転倒リスクが24%減少し、転倒者数が13%減少することが報告されました。(参加者7290人)
また、骨折リスクに関しては発生比率が56%減少し、生活の質が改善することが報告されています(参加者2139人)
抵抗運動(レジスタンストレーニング)
・スクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操など
生活の質が改善したことが報告されおり、中程度の有効性が認められています。(参加者:421人)
ウォーキングに関しては、骨折や転倒、生活の質、身体機能への影響については不明であり、効果は不確実と記載されています。
また、ヨガやピラティスに関しても、転倒や骨折に対する降下は不確かであり、有効性は認められていません。
食事・栄養
バランスの取れた食事を摂取しており、骨粗しょう症の薬物治療を受けていない人の場合、カルシウムやビタミンD,タンパク質の補給に関して、効果はないと記されています。骨折に対して有益または有害な影響はありません。
カルシウムやビタミンDの使用に関する最近の個別研究を見る限り、骨粗しょう症の薬物療法を受けておらず、欠乏症のない人々を対象として行われたサプリメント摂取実験によると、骨折の部位に関係なく、骨折の整復においてわずかな利点しかないことが記されています。
ビタミンDを単独摂取又は、カルシウムと組み合わせて補給すると、転倒に関してごくわずかな減少が観察されています。マグネシウムとビタミンKの補給に関しての評価は限定的です。
タンパク質(プロテイン)の補給に関しても、骨折率への影響は限定的であり、証拠は不確かとしています。
骨粗しょう症治療のためにビタミンD製剤を使用している患者さんがたくさんおられます。私が勤務する薬局では、これまでアルファロールカプセル(ワンアルファ)のジェネリックを主流に調剤するケースが多かったのですが、ここ半年ほど前からエディロールカプセル0.75㎍へ続々と切り替わっている状況が続いていました。
アルファロールカプセルのジェネリックが1錠10円以下なのに対して、エディロールカプセル0.75㎍は1錠100円程度するため患者様の負担金が増します。服用を続けていただくために、この負担金に見合った効果を患者さんにお伝えすることができればと感じましたので今回はエディロールカプセル0.75㎍について記載します。
血清カルシウム上昇作用は軽微でありながら、強力な骨量増加効果が確認されたビタミンD誘導体です。エディロールカプセルは既存ビタミンD製剤であるロカルトロールに比べビタミンD結合タンパクに対して4.2倍の結合能を持っており、半減期が50時間もあるため1日1回の使用で十分効果が期待できます。
骨密度と体格・運動習慣について
患者様が一番気にする数値として「骨密度」があります。これが上がっているまたは維持されていることが治療の指針です。骨粗しょう症の本来の目的は”骨折抑制”なのですが骨粗しょう症と診断された初期の患者様は”自分が骨折する”なんて考えていません。そのためとにかく骨密度を上げることに治療意義を感じるように私は思います。
エディロールカプセル服用による骨密度の上昇度合を確認してみます。12か月間、薬を服用しなければ腰椎骨密度が0.7%減少するのに対し、同期間服用をつづけるとエディロール0.5㎍で2.2%、0.75㎍で2.6%上昇することが確認されています。さらに大腿骨近位部に関しては、エディロール0.5㎍では0.8%低下しているものの、0.75㎍では0.6%上昇しています。このためエディロールカプセルの常用量は0.75㎍となっています。0.5㎍という量を使用している患者様は私の体感では数%程度だと感じています。
さらに既存のビタミンD製剤であるアルファロールとの比較データでは、服用3年後の腰椎骨密度データを比較してみるとアルファロールでは0.11%上昇したのに対し、エディロールでは3.42%上昇しています。大腿骨近位部骨密度ではアルファロールで2.3%低下しているのに対し、エディロールでは0.4%上昇することが確認されておりアルファロールからエディロールへ変更することは有用であることがわかります。
これらのデータから骨粗しょう症ガイドラインにおいて骨密度上昇効果はグレードAの評価を得ています(アルファロール、ロカルトロールはグレードB)。
以上のことからエディロールカプセル0.75㎍の服用は骨密度上昇に寄与することが確認されました。一方で、薬を何も飲まないと腰椎骨密度や大腿部近位部骨密度が1年間で0.7~0.8%低下するという経年劣化の事実も確認できました。薬を使用せずに骨密度を維持するためには「適度な運動」という言葉を耳にしますが、具体的にどの程度のことを言うのか曖昧でしたので調べてみることにしました。
骨の再構築(リモデリング)には荷重刺激が効果的であり運動による刺激が骨量の増加に寄与します。荷重の差が骨密度の増加に寄与する例としては、新体操の選手の踏切足が良い例です。新体操選手の下肢骨密度を計測したデータでは踏切足の骨密度が着地足に比べて優位に高い値を示したというデータがあります。
若年層であれば運動による骨密度の上昇は顕著ですが、閉経後の女性ではそうではありません。骨形成までに必要な運動量が閉経後女性では増えることが報告されています。つまり閉経後女性では、軽い運動程度をした程度では骨密度上昇に有効であるという評価がされていないのです。
ではどの程度の運動であれば骨密度の上昇を体感できるのでしょうか。閉経後の女性136名を対象としたデータでは、ウォーキングを週3回、1回45分、6km/hという運動を1年間継続した結果、骨密度が前年度比で低下しなかった(維持された)というデータがあります。
週3回、1回45分のウォーキングという運動量は、国が指標としている「健康づくりのための運動指針」で示された運動量の2倍です。現在の骨密度を運動療法で維持するためには、週3回、1回45分のウォーキングを続ける必要があるということです。年を経るごと体への負担は大きくなりますので、この運動量を維持することは容易ではありません。さらに、雪が降る地域では足元が滑りやすくなりますので1年を通して続けることは難しいかもしれません。
食事や運動により骨密度を維持することができれば理想かとは思いますが、数値として確認していみると「維持」すること思ったほど容易ではないことが分かりました。既存のビタミンD製剤であるアルファロールやロカルトロールに比べて、エディロールを服用する意義は高く、具体的な骨密度上昇作用も数値として表れているので患者様へお薬をお渡しするときには使用する意義を具体的にお伝えしていこうと思います。