私が勤務する調剤薬局には、高齢の患者さんが多く来局されます。秋から冬にかけて気温が下がってくると手のしびれ感を訴える女性患者さんが増えます。そのたびにメチコバールが新規で処方されます。全員とはいいませんが、メチコバールを服用している患者さんのうち、20~30%の方は「この薬を飲んでもしびれ感があまり改善しないのですが・・」と主張されることがあります。
当薬局のメチコバールのお薬説明書(薬情)には「この薬はビタミンB12製剤です。末梢のしびれや痛みに効果があります」と記載されています。しびれの改善を期待してメチコバールを初回服用される患者さんへの説明としては、服用意義を明確にするため、もう少し具体的に伝えたが方が治癒率が高まるのではないかと私は考えています。
治療において薬識を得ることは非常に大切で「薬の効果は理解(効くという思い込み)が大切」と私は感じています。そこで患者さんにメチコバールの効果を最大限理解してもらい効果を最大限感じいただくためにメチコバールの特徴および効能効果を私の言葉で記載してみます。
チョコラB12(CN-B12)、ハイコミンOH-B12、ハイコバール(DBCC)
これら3剤のB12製剤は悪性貧血に伴う神経障害や巨赤芽球性貧血、またB12の欠乏又は代謝障害が関与すると推定される疾患が適応です。つまりB12補充剤です。
しかしメチコバール(CH3-B12)の適応症は「末梢性神経障害」のみです。B12補充剤としての適応はありません。つまりメチコバールはB12の欠乏症とは無関係に「末梢性神経障害」という効能効果を取得している製剤なのです。この理由はメチル基(CH3基)が付加されたことで疎水性が増し、各組織や神経組織への移行性に優れていることがあげられます。
特に脳血管関門を通過して神経細胞内小器官へよく移行することがわかっています。また薬理学的には障害された神経組織を修復するはたらきが見出されています。具体的には神経細胞からのびた軸索の骨格蛋白の輸送を正常化します。さらに変性神経の出現を抑制する効果があります。シナプス伝達の遅延や減少を回復する効果も見出されており、神経線維の興奮性を高めることにより終板電位の誘発を早期に回復する効果が報告されています。
上記のように、薬理作用の良い点だけをみると良く効きそうな薬に思えます。一方で、本当に効果があるのかなという文面がインタビューフォームに記載されています。安全性薬理試験を確認してみたところ
「CH3-B12を大量に与えた場合の生体におよぼす影響を種々の面から検索したが、特に強い薬理学的作用は認められなかった。」
という記載を見つけました。たくさん飲んでも薬理学的作用がない薬って・・・効かないのかなぁと思ってしまいます。しかし、治療をすすめる上でこの分面をそのまま患者さんに伝えることは治療の妨げとなりますので、違った表現で遠まわしに伝えればよいかなと私は感じました。
(以上、各種薬理作用についてはインタビューフォームより抜粋しました)
上記案件を踏まえ、しびれ感を改善したいと期待している患者さんへお伝えする内容を考察します
「このお薬は神経組織へよく浸みわたるビタミンB12製剤です。傷ついてしまった神経組織を補修(修復)して、神経を流れる電気の伝わり方を回復する効果が期待できるお薬です。」
(お薬お渡しする時に、図を描いて神経細胞と軸索を描くのであれば、軸索の流れを正常化すること及び、変性神経(間違った神経)が出来にくくする働きも説明すれば理解が深まると思います)
もし一定期間使用してみても効果が全く期待できない場合は漫然と飲み続ける薬ではないので主治医にその旨を伝えてください。
と説明します。メチコバールに限った話ではないですが、治療を期待して薬を飲む場合は、治療効果を高める(症状が緩和してきていると思い込む)ためにも薬効を十分理解して患者さんに薬を使用していただきたいと私は感じています。
メチコ―バル錠は後発医薬品です。メチコバール錠の成分である”メコバラミン製剤”に関しては先発医薬品はありません。メチコバール錠(後発)薬価はそれ以外のメコバラミン錠「〇〇」に比べて薬価が2倍~3倍高めに設定されています。「調剤薬局でジェネリック医薬品でお願いします」といった場合はメチコバール錠で調剤する事もできますし、メコバラミン錠「〇〇」で調剤することもできます。「値段の安い後発で調剤してください」と言えんメコバラミン錠「〇〇」を選択することになります。
以下にメコバラミン錠「〇〇」の薬物動態についてメチコバールと比較したデータを添付いたします。
メコバラミン錠を製造販売している各メーカーの添付文書・インタビューフォームを確認したのですが、メコバラミン錠についての薬物動態(効き目)を開示しているメーカーと開示していないメーカーがあることがわかりました。