2018年に米国で「フェブリクはザイロリックに比べて心血管リスク20~30%増えるのではないか?(CARES試験)」というう報告がなされ、米国ではザイロリックで効果不十分な患者のみフェブリク錠を使用するルールとなっています。日本国内のルールとしては厚生労働省が2019年に「心血管リスクは欧米人に多く、本人には少ないので、これまで通りフェブリク錠は使用できる」というルールを公開しています(2019/6/27)
2020年11月9日、Lancet誌オンライン版に欧州医薬品庁が「フェブリク錠はザイロリック錠と比較して心血管イベントは非劣勢である。長期投与による死亡あるいは重篤な有害事象のリスク増加は確認されない(FAST試験)」という安全性を報告しました。
欧州医薬品庁「フェブリク錠とザイロリック錠は心血管リスクは同等」
FAST試験の概要
英国・デンマーク・スウェーデンの18施設において血清尿酸値6mg/dl未満を達成するようザイロリックの服用量を最適化した60歳以上の痛風患者に対して、ザイロリック継続服用群とフェブリク錠群(80mgスタート、120mgまで増量可能)に1対1で割り振り、心血管イベントの有無を評価しています。
被験者:6128例
ザイロリック群:3065例
フェブリク群:3063例
試験期間:2011年12月20日~2018年1月26日
結果
心血管イベント(心筋梗塞・急性冠症候群による入院、脳卒中、心血管死)の発現頻度
ザイロリック群:241例(100人あたり2.05例)
フェブリク群:172例(100人あたり1.72例)
死亡例
ザイロリック群:263例(8.6%)
フェブリク群:222例(7.2%)
重篤な有害事象例
ザイロリック群:1812例(59.4%)
フェブリク群:1720例(57.3%)
以上の結果よりフェブリク錠とザイロリック錠の心血管リスクを比較したFAST試験の結果、心血管リスク因子を有する痛風患者さんに関して、フェブリク錠はザイロリック錠と比較して心血管イベントは非劣勢であると欧州医薬品庁は報告しています。
2018年3月29日、高尿酸血症でザイロリック錠を飲んでいる人よりもフェブリク錠をの飲んでいる人の方が死亡リスクが20~30%高いのでは?という報告(CARES試験)が米国でなされ、米国のFDA(日本における厚生労働省)はフェブリク錠の使用に関して、心血管リスクに関する注意喚起を行うとともに「ザイロリックによる治療が効果不十分または忍容性がない患者」に限定する指示を示しました。
この報道を受けて、日本国内におけるフェブリク錠の使用ルールについて2019年6月26日厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会で話し合いが行われました。
会議の結論としては
「フェブリク錠の位置付けを変更する措置は必要ない」=いままで通り使用できる
ということとなりました。
それだけでは、CARES試験を否定するようなことにもなりかねませんので「その他の注意」に心血管死という重篤な事象があることを記すことと、「重要な基本的注意」において心血管疾患の発現に注意喚起をすることが加わりました。
米国のような「フェブリク錠はザイロリックが効かない人に限定すること」といった厳格な管理にはいたりませんでした。
その経緯について記します。
米国ではフェブリク錠40mg~80mgを使用したことで死亡リスクが高まったという報告があったわけですが、国内の心血管関連の副作用報告は63例70件であり、心血管疾患の合併のある症例、本薬と同時期に使用した併用薬がある症例、同時期に発現した他の有害事象が起因となっている可能性がある症例等の因果関係の判断が困難な症例も含まれているが、報告された副作用情報からは、フェブリク錠と心血管関連事象又は死亡との因果関係が否定できない症例はなかった。
言い回りは難しいのですが、内容としては63例70件の心血管副作用に関してフェブリクが原因であると断定できる症例はなかったそうです。
(他に飲んでいる薬が原因かもしれないので、絶対にフェブリクが原因で心血管副作用が生じたと言い切る理由がないというニュアンスです)
上記を主な理由として、それに追加する理由として
・米国での報告ではアジア民族の組み入れが3%しかなく、ほとんどが欧米人でのデータであること
・一般的に心血管リスクは欧米人で高く、日本人では低い事
・フェブリク錠とザイロリック錠の心血管リスクまたは死亡リスクに差異はないという報告もあること
・尿酸降下作用についてはフェブリク錠の方が良く効くこと
上記の内容を勘案した結果、日本国内の対応としては
現時点でフェブリク錠の適用患者を限定する等、フェブリク錠の位置付けを変更する措置は必要ないと判断する。
という結論となりました。
(類似薬であるウリアデック/トピロリックにもフェブリク錠の試験結果について情報提供行うこととなりました)
日本国内の措置についてどう考えるかは、それぞれですが、私個人的な感覚としましてはCARES試験は血清尿酸値8.7mg/dl前後の患者さんを対象として初回フェブリク服用量を40mgと設定しており、40mgを飲んでも尿酸値が下がらない人は80mgまで増量することといった用量で行われた試験です。日本国内で使用されているフェブリク錠の用量は10mgまたは20mgが多い印象です。実際に使用量を確認してみると
フェブリク10mg:2億6千万錠
フェブリク20mg:2億3千万錠
フェブリク40mg:2千500万錠
といった具合にフェブリク40mgの使用量は他の1/10程度の量となっています。
これらの結果も踏まえたうえで、薬局で勤務している私が心に留めておくことは何かなぁと考えたことは、フェブリク40mgを使用している方に関しては、心血管リスクの前兆症状(動機・息切れ・頻脈・むくみ・胸痛・倦怠感)といった症状がでていないかを確認しながらお薬をお渡しすることかなぁと思いました。
以下は2018年4月に記しましたフェブリク錠がザイロリック錠よりも死亡リスクが高い報告がでて早期に試験が中止となった事例(CARES試験)についてです
痛風の患者さんは心血管リスクが増加する傾向にあります。心血管疾患を有する痛風患者さんを対象としてフェブリク錠とザイロリック錠について心血管リスクに関する調査が行われましたが、フェブリク錠服用群で全死亡・心血管死亡の発生率が高かったため、比較試験が早期に中止となりました。
心血管疾患を有する痛風患者6190名をフェブリク服用群とザイロリック服用群にランダムに振り分け試験をおこなったところ、フェブリク服用群で心血管リスクが高いデータが示されたため試験が早期に中止となりました。
フェブリク服用群(3098例)
患者背景:平均64歳、平均痛風期間11.8年、血清尿酸値8.7mg/dl
フェブリク錠を1日40mgから治療をスタートして、2週間後の血清尿酸値が6.0mg/dlを下回れば40mgで維持する。6.0mg/dl以上であれば、フェブリク錠を1日80mgで服用して維持用量とする
ザイロリック服用群(3092例)
患者背景:65歳、平均痛風期間11.9年、血清尿酸値8.7mg/dl
クレアチニンクリアランスが60ml/分以上の患者さんの場合は、ザイロリックを1日300mgでスタートし、尿酸値が6.0mg/dlを下回れば300mgで維持する。6.0mg/dl以上であれば600mgまで増量する(1カ月ごとに100mg増量)。
クレアチニンクリアランスが30~60ml/分の患者さんの場合は、ザイロリックを1日200mgでスタートし、尿酸値が6.0mg/dlを下回れば200mgで維持する。6.0mg/dl以上であれば400mgまで増量する(1カ月ごとに100mg増量)。
追跡期間:中央値32か月(約950日前後)
結果
投与開始から2週間後の血清尿酸値が6mgを下回った症例数
フェブリク服用群:60.8%
ザイロリック服用群:50.2%
その後の維持率に関してもフェブリク服用群の方が血清尿酸値を低下させる率が高いことが示されました。
心血管死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症等の発症リスク
フェブリク群:335例(10.8%)
ザイロリック群:321例(10.4%)
主要評価項目に関しては、フェブリク群はザイロリック群に対する非劣勢が確認されました。(ハザード比:)1.03)
一方で、全原因死亡・心血管死亡の発生率を確認してみると、フェブリク群がザイロリック群よりも高い発生率となっています。
(フェブリク群:ザイロリック群)
全原因死亡のハザード比:1.22
心血管死亡のハザード比:1.34
上記の比率を見ると、フェブリクを服用したほうが全死亡リスク・心血管死亡リスクがともに”1”を超えていますので、ザイロリックを飲むよりフェブリクを飲んだほうが何らかの原因で死亡するリスクが高いことを示しています。(有意差あり)
フェブリク群はザイロリック群に比べて22~34%ほど死亡率が高いという結果となりました。筆者らは薬剤間相互作用等の要因を考慮しており、原因を探るとしています。