北海道大学の研究チームが「肥満が上皮組織からがん細胞の除去を抑制する」ことをマウスをつかった実験で明らかになったことを米国のインターネット雑誌「Cell Reports」公開しました。
同研究者は以前、消化管の内側を作っている細胞(上皮細胞)に初期の癌細胞が作られてしまった場合、その周囲にある正常細胞が、初期がん細胞を管腔側(消化管の筒の部分)へ押し出して排出させることを報告していました。イメージとしては「びっしりトウモロコシの粒がつまっていて、その中で1粒だけ腐った粒があった。まわりの粒が協力して腐った粒を、引っこ抜いて放り投げ、その空いた部分を自身が移動して埋める」といったかんじでしょうか。
今回の報告では、正常マウスと肥満マウスにおいて、初期のがん細胞の除去能力にどれくらい違いがあるかを報告しています。高脂肪食を与えて肥満を誘発させたマウスと正常食を与えたマウスを解析した結果、小腸および膵臓において変異細胞(初期の癌細胞)が除去されずに消化管の内側を作っている細胞内に留まってしまう確率が高くなってしまう(除去率が低下している)ことを筆者らは報告しました。さらに、膵臓においては残った初期のがん細胞が1か月後に増殖し、腫瘍の塊を形成していたと記されています。この現象は肺では起こらず、正常食マウスも肥満食マウスもどちらも肺においては変異細胞(初期の癌細胞)の除去率は同程度であると報告しています。
正常な上皮細胞の中にできてしまう変異細胞(初期のがん細胞)が押し出されてしまう仕組みについて筆者らは「ミトコンドリア機能の低下」と「解糖分経路の亢進」という2つの代謝変化が引き金と考えています。
さらに、筆者らによると短期間の高脂肪食はマウスの体重増加に影響しなかったが、小腸および膵臓における変異細胞(初期のがん細胞)の除去能力は、正常食マウスに比べて低下していることを報告しています。長期間の高脂肪食はさらにこれを助長します。
この結果をそのままヒトに当てはめるかどうかは読み手によるかとは思うのですが、体重が増えない程度に脂肪分の多い食事をとった場合、少なからず正常食に比べると膵臓や小腸の上皮細胞は傷む可能性があるのかもしれないなぁと感じました。
肥満による慢性炎症が変異細胞の除去を妨げる
次に筆者らは慢性炎症が変異細胞(初期のがん細胞)の除去を妨げる可能性について調べています。必須脂肪酸は主にエネルギーとして消費されますが、その過程でアラキドン酸に代謝されます。このアラキドン酸は腸および膵臓を含むさまざまな臓器で慢性炎症を引き起こしうることが報告されています。筆者らは必須脂肪酸として大豆油または亜麻仁油をマウスに与えて慢性炎症を引き起こさせたときの、変異細胞の除去率について調べています。結果は、大豆油を与えたマウスの小腸および膵臓において変異細胞(初期のがん細胞)の除去が大きく減少していました。(亜麻仁油は大豆油ほどではないものの減少していた)。この結果より、慢性炎症が初期がん細胞の排泄を抑制していることがしめされています(抗炎症薬であるアスピリンを高脂肪食ラットに投与したところ、変異細胞の除去が促進していることも報告しておりますので、炎症が癌細胞の排泄を抑制したことが示されました)