秋から冬にかけて冷え込みが厳しくなってくると、冷えからくる血流量の低下に伴う腰痛や関節痛が辛くなるケースがみられます。また豪雪地帯では雪かき作業が増えるため筋肉痛緩和に痛み止めの貼り薬の使用量が増えます。
先日、1年中モーラステープが処方されている患者さんにいつも通りモーラステープをお渡ししたところ、「モーラステープを貼って下着(薄手の上着)を着てそのうえから衣類に貼るカイロを貼ったらすごく効いた感じがするんだけどこれっていいの?」という質問をうけました。
確かに貼るカイロを塗布した部分の皮膚は弛緩するので吸収量は上がる気がします。さらに血流量も上昇するため血中濃度も多少あがるかなぁという気がしました。薬の効果によるものか、カイロによる血流改善によるものかは不明ですが、体感として改善することは十分考えられると思います。
ただしモーラステープを加温することになるので効能、耐久性、安定性、皮膚のかぶれ、などの心配が考えられます。
そこで今回は、モーラステープやロキソニンテープを貼っている部分を加熱(加温)したときの製剤的特徴および効果について検討してみました。
一般的な使い捨てカイロの平均温度は50度前後(最高65度前後)と言われます。また、カイロを使用した時の皮膚の温度は40度以下と言われています。(使い方にもよりますが最高で45度(低温やけど)まで上がることが報告されています。)
モーラステープの熱に対する苛酷試験を確認してみると60度では含量(有効成分)の低下傾向あり。それ以外の変化はなし。という記載があります。60度以上のデータは報告されていませんので、カイロのように60度を超す製品との併用は想定されていないことがわかります。
次に皮膚への吸収量についてみてみます。モーラステープには温度上昇にともなう吸収量の変化についてのデータはないのですが、同じ貼り薬であるノルスパンテープの薬物動態には局所加温にともなう吸収量の影響について考察があります。
データでは貼付部位を2時間38度で加温した時の血中濃度の上昇について確認しています。
非加温での血中濃度が130pg/mlなのに対し、2時間加温後の血中濃度は230pg/ml程度まで上昇しています。また、体内への吸収量を示すAUCを見てみると加温群は26~55%上昇しているデータとなっています。
2時間38度で加温してしまうと、元の血中度濃度(非加温時)まで下げるためには、加温を中止してから5時間経過する必要があります。(急冷すればこの時間は短縮されるかもしれません)。38度というのはカイロで皮膚を温めた温度に近い値ですので、他の貼り薬にも流用できるデータかと思いました。
モーラステープやロキソニンテープなどの痛み止めの貼り薬を使用する際に、その皮膚周辺、または貼り薬に重ねるようにして貼るカイロを使用することは避けた方がよい理由について
モーラステープやロキソニンテープの苛酷試験を確認したところ、いずれも60度までしか検討されていない。また温度が上がるにつれて含量低下や分解物の生成が確認されていることから高温での使用は控えるべきです。
薬剤吸収量に関しては、他剤ですがノルスパンテープのデータは流用すると、38度2時間の加温により血管拡張、血流量の増加が生じます。それにより貼り薬の血中濃度が2倍弱、薬剤吸収量が25~50%増加することが確認されています。そのため、血中濃度の上昇は胃腸障害や胃部不快感などの消化器症状の副作用をまねく恐れがあります。
また痛み止めの貼り薬は痛み止めの成分を6~12時間ほどかけてゆっくり放出するよう設計されていますが、加温により膏体(貼り薬の成分を含む部分)が柔らかくなると、放出速度があがることが想定され、短時間で効果がなくなってしまうことが示唆されます。
さらに貼り薬の粘着成分が温まると皮膚への粘着力がまし、かぶれや痒みなどの皮膚トラブルを引き起こす可能性がまします。
これらのことから痛み止めの貼り薬と貼るカイロの併用はさけるべきです。
ただし、モーラステープを貼付している部分を一時的にファンヒータなどの暖房器具で温める程度であれば、さして問題になることはありません。今回のデータでは一定時間(2時間)温め続けるということのリスクについて記載していることをご了承ください。