大うつ病障害による自殺念慮に対してケタミンの投与が急性効果をしめす
24歳以下の患者様において、抗うつ薬の服用により、自殺念慮、自殺企図のリスクが増加するという報告があります。一方で、抗うつ薬に自殺念慮抑制の効果を期待して投与する場合もあるのですが、その際は作用発現までに数週間かかる場合があります。
今回、大うつ病障害による自殺念慮に対して、ドルミカム注と低用量ケタミン注を行った翌日の自殺念慮減少効果についてケタミン注の有用性に関する報告がありました。
対象
自殺企図評価尺度(SSI)のスコアが4以上の大うつ病性障害を有する成人80人(80人中43人が抗うつ薬を服用していました)をケタミン群・ドルミカム群に振り分けて、24時間後のSSIスコアで評価しました。
注)自殺企図評価尺度とは19項目からなる評価尺度です。自殺企図を持つ方を評価するために用いられます。最小スコア=0、最大スコア=38、値が大きいほど自殺念慮が高くなります。
結果
投与24時間後のSSIスコアはドルミカム群に比べてケタミン群で4.96ポイント低下していた。(自殺念慮が下がっていた)。
SSIスコアが50%以上低下していた割合は
ケタミン群:55%
ドルミカム群:30%
さらにケタミン群はドルミカム群と比較して疲労や鬱などからの気分状態改善率が高いことも示されました。
著者らは「ケタミン注投与により、うつ病患の自殺念慮抑制作用はドルミカムよりも効果的であり、即効性が期待できる」とまとめています
ケタミン注に関して、麻酔薬としての臨床データを確認してみると、ケタミンを筋中した場合3〜4分で効果が現れます。ケタミンの半減期は3時間程度となっていますが、実際の作用持続時間は30分〜1時間程度と考えられております。
体内でケタミンはノルケタミンなどへ代謝されるのですが、興味深いことにノルケタミンにはケタミンの1/3〜1/5程度の作用が認められており、さらにノルケタミンの半減期は12時間と長いため、ケタミン比較して持続的に作用するという特徴があります。
うつ病による自殺念慮を有する方へケタミン注を投与すると、ケタミンの即効性により一過性に症状が軽減し、その後ケタミンの代謝物であるノルケタミンが低力価ながら持続的に症状緩和を維持したのかも知れません。
尚、ケタミン投与による有害事象には血圧上昇などが起こり得ますが、いずれも軽度から中等度であり投与から1時間以内には治ると記されています。