ビオフェルンやビオスリー、ミヤBMといった整腸剤を飲んでいる間は腸内に生息している善玉菌が優勢に生息して、悪玉菌の増殖を抑えることが報告されています。一定期間、整腸剤の服用を続けることで腸内細菌のバランスが正常化してお腹の具合が改善します。
整腸剤の服用を中止した後、整腸剤に含まれる乳酸菌やビフィズス菌や酪酸菌がその後も腸内に住み続けることができるか(定着できるか)どうかについて調べてみました。
整腸剤の服用を中止した場合、整腸剤に含まれる善玉菌の定着は難しい
2週間、AH1206というビフィズス菌製剤を飲んでから4週間休薬したところ、30%の人で服用をやめてもAH1206ビフィズス菌が腸管内に6か月間定着した。
定着したビフィズス菌の量は非常に少量であり、既存の腸内細菌の比率に対して大きな影響をおよぼさない。
(服用したビフィズス菌が既存の腸内細菌叢のエサとなって、その構成比に影響をあたえるだけであって、AH1206ビフィズス菌自体が大量増殖することはない)
定着したビフィズス菌は服用中止日から徐々に減っていった(服用中止から200日の時点)
AH1206に似たビフィズス菌を腸内にもっている人ほどAH1206は定着しなかった。既存の細菌叢にAH1206に似たタイプがいない人では定着する率が高い結果となった。
マウスに整腸剤(乳酸菌およびビフィズス菌)を投与したところ、飲んでいる間は増加が確認されたが、服用を中止すると元に戻った
国内で承認されている整腸剤の中で「定着性にすぐれた」という記載があるのはビオフェルミン錠剤(ビフィズス菌)だけですが、ビオフェルミンを8週間連続服用しても腸内細菌叢のビフィズス菌の増加は確認されなかった
各種整腸剤の薬理作用を確認してみると、もともと腸内に生息している乳酸菌・ビフィズス菌の育成を促進する作用は記されています。服用中止後も整腸剤自体の善玉菌が腸内に定着するかどうかについてはしるされておりません。ビオフェルミン錠については「定着にすぐれた」という記載があるものの、具体的なデータは記されておりません。
注)2019年11月21~24日に行われた第27回日本消化器関連学会週間において以下の報告がなされました
慢性便秘症の被験者31例(平均年齢63.7歳、男性11名・女性20名)を対象として、ビオフェルミンを8週間連続服用した際の排便状況を検討したデータによると、連続服用にともない便形状・排便回数・いきみの程度・残便感などの排便症状が軽減していることが報告されました。特に既存で便が硬いタイプの患者さんほどビオフェルミンの服用で排便回数が増えたことが報告されました。
腸内細菌叢の解析結果によると、ビオフェルミン(ビフィズス菌属)の増加はみられないものの、サルシナ属というグラム陽性球菌は増加が確認され、バクテロイデス属という腸内細菌の低下が確認されました。つまり、ビオフェルミンを8週間飲み続けると、ビオフェルミンに含まれる菌(ビフィズス菌)は腸内で増えないものの、既存の腸内細菌叢のバランスにビオフェルミンが影響を与えた結果、排便状況が改善されたと私は解釈します。
整腸剤の効果・使用方法・違いについて(ビオフェルミン・乳酸菌・糖化菌・酪酸菌)
小腸や大腸はトンネルのような筒状構造をしておりますが、その内側の壁(内壁)はムチンと呼ばれる粘液でおおわれています。(ムチンは唾液の粘り気の成分です)
乳酸菌やビフィズス菌は腸内の内壁の粘液層(ムチン層)に生息しています。整腸剤を飲むと、乳酸菌やビフィズス菌が小腸や大腸の中を“ウォータースライダーに乗る”ようにして流れるわけですが、その多くは内壁にくっつくことができずに、下流まで流れて便として排泄されます。
乳酸菌やビフィズス菌の構造(体の形)を確認してみると、各菌の体の周りには“アドヘシン”と呼ばれる手が複数でております。このアドヘシンがムチン(粘液)とくっついた時、菌はその場に留まることができます。さらに「くっついた菌に、次の菌がくっついて、さらに次の菌がくっついて」といった感じで菌体同士の凝集が進み、コロニー(細菌叢)の形成が成立すすむと、菌は腸壁に定着することができます。
既に腸管内には多数の常在菌が生息しているわけですが、整腸剤を飲むことで新規の善玉菌が入り込んだ場合、常在菌の住みかに少量の新規菌が入り込むことになります。そのため新規の菌の定着は容易ではありません。
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23人の被験者を対象として2週間AH1206という名前のビフィズス菌を摂取し、服用中および服用中止後の糞便中に排泄されるAH1206の量を調べたデータが報告されています。
服用開始から14日までは23人すべての被験者の糞便中からAH1206が検出されていいますが、服用中止後4~28日以内に14人の被験者の糞便中からAH1206は検出されなくなりました。しかし、8人の被験者については、その後半年間にわたりAH1206が検出されつづけました。(日数の経過とともに、AH1206の検出量は低下していきました)
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被験者の腸内にAH1206と似た菌が、すでに生息している場合、AH1206は定着しにくくなることがデータで示されています。この研究では評価対象ではないものの、被験者の食生活がAH1206の定着に寄与していた可能性があると考察で述べられています。
AH1206が定着したことで、既存の常在菌の割合に影響はありませんでした。
AH1206服用中の糞便中の微生物の分類学的組成に変化は見られませんでした。またAH1206の定着(長期間のコロニー形成)についても糞便中の微生物の安定性に関連しておりませんでした。
興味深いデータとして、すでに腸内で生息していたビフィズス菌のうちAH1206と類似した菌の活動が活発になった点です。これはAH1206の新規参入により既存の菌の生息域が危ぶまれると判断してAH1206を排除したのかもしれません。
整腸剤の効果・使用方法・違いについて(ビオフェルミン・乳酸菌・糖化菌・酪酸菌)
整腸剤を飲む前に腸内に生息している常在菌は、日常生活の食生活や胃酸・胆汁酸の分泌量、免疫状態、ストレスなど影響をうけて長い年月をかけて育まれています。この状況下で整腸剤の服用を開始した場合“既存の状況にビフィズス菌を追加した”だけです。環境要因に変化はありませんので、整腸剤に含まれるビフィズス菌が定着したとしても、今回のデータ結果にもありますように
定着したビフィズス菌の量は既存の腸内細菌の比率に対して大きな影響をおよぼさない
という結果となります。定着したビフィズス菌の占有面積を広げるためには、定着したビフィズス菌の餌となる食事や環境要因(免疫状況や腸内環境要因)も必要となります。腸内環境関連のホームページに多数記されていますが、ビフィズス菌の餌(大豆やゴボウなどのオリゴ糖を含む食品)を取り続けることがポイントとなります。つまりは食生活の改善という話になってしまう気がします。
整腸剤を飲んでいる間は、善玉菌の優勢、悪玉菌の抑制が期待できます。
整腸剤の服用を中止すると、30%の方には整腸剤に含まれる菌が腸内に定着するかもしれません。
整腸剤の服用を中止したあと、腸内に定着した善玉菌は少しずつ減っていきます。
整腸剤による善玉菌の補充・定着は“きっかけ”に過ぎず、それ以降は日々の食生活の改善・日常生活の改善が腸内環境の変革に重要と考えます。
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