1回経口飲みきりタイプのインフルエンザ治療薬:キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬の薬理作用
2017年7月24日、塩野義製薬は1回経口飲みきりタイプのインフルエンザ治療薬の開発に関して、第Ⅲ相臨床試験(CAPSTONE-1)で有効性を確認したことを公開しました。
報告内容によると
AまたはB型インフルエンザウイルス感染者を対象として、S-033188を40mgまたは80mg単回経口投与した際の有効性と安全性について、プラセボならびにタミフルカプセル(1日2回5日間反復経口投与)を対象とした比較試験です。
塩野義製薬:インフルエンザ治療薬S-033188の第Ⅱ相臨床試験報告
塩野義製薬:インフルエンザ治療薬S-033188の第Ⅲ相臨床試験報告
結果
~インフルエンザ罹病期間~
・S-033188はプラセボに対する優越性を示した
・S-033188はタミフルとの比較試験において統計的有意差はないが、タミフルと同程度のインフルエンザ症状の罹病期間短縮効果を示した。
(タミフルを服用すると症状緩和までの時間が7日→6.3日に減少する。0.7日間、回復が早くなるとも言えます。S-033188を服用することで同程度に回復が早まると考えられます。)
~インフルエンザウイルス力価~
・S-033188を1回経口服用すると、患者体内から感染性を有するインフルエンザウイルス粒子が検出されなくなるまでの時間が、プラセボおよびタミフルに対して優越性を示した。(S-033188は、タミフルに比べて、体からウイルスが出続ける期間が短い)
~安全性~
・有害事象(副作用)の発現率はプラセボと同等
・タミフルよりも副作用発現率が低い
S-033188は2015年10月に厚生労働省より“先駆け審査指定制度の対象品目”に定められておりますので、承認申請後6ヶ月を目指して承認審査が進められる見込みです。製薬は2017年度中に製造販売承認申請を行う予定としています。
既存の抗インフルエンザ治療薬の薬理作用がノイラミニダーゼ阻害薬であるのに対して、S-033188の薬理作用は“キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬という作用なので効果が異なります。
~キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬とは~
私なりの“キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬”という言葉の解釈を記します。
インフルエンザウイルスのゲノム(vRNA)は一本鎖RNAです。インフルエンザウイルスは、ヒトやトリに感染して細胞核内に潜り込むことで、インフルエンザウイルスのゲノム(vRNA)をもとにしてmRNAの合成・複製を行い、新たなインフルエンザウイルスを作り出します。
インフルエンザウイルスは自身のゲノム(vRNA)をヒトの細胞核内に潜り込ませるわけですが、それだけではインフルエンザウイルスのmRNAの合成はできません。合成を開始するための“きっかけ(スタートとなる部分)”が必要となります。
インフルエンザウイルスは、この“きっかけ(スタートとなる部分)”をヒトのmRNAから切り出して、それを自身のmRNA合成をスタートする始点とします。ヒトのmRNAから切り出した“きっかけ(スタートとなる部分)”を始点として自身のmRNAの転写反応を行い、インフルエンザウイルスはmRNAの合成・複製を行うことで自分のそっくりのウイルスを合成(複製)することが可能となります。
この “きっかけ(スタートとなる部分)”のことを“キャップ構造を含むプライマー“と呼びます。キャップとは”先端・最初・スタート“という意味で、プライマーとは”mRNAの断片(きれはし)“を意味します。
インフルエンザウイルスは上記の流れによって、ヒトのmRNAからスタートとなる断片を切り出して、自身のmRNAの合成を行っている生き物であることがわかりました。
加えて、ヒトのmRNAの中間部位をカットする酵素のことをエンドヌクレアーゼと呼び、キャップ部位近くを選択的にカットする酵素をキャップ依存性エンドヌクレアーゼと呼ぶことがわかりました。
以上を踏まえましてキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬のはたらきを記します。
ヒトに感染したインフルエンザウイルスは自身の分身を大量に作るために、まずは自身のmRNAの合成を行います。しかし、自身のmRNAを合成するためのには、合成の開始部分となる “キャップ構造を含むプライマー”をヒトのmRNAから切り出して利用しなければなりません。
“キャップ部位に近いmRNAの切り出し“に使用する酵素をキャップ依存性エンドヌクレアーゼと呼びます。インフルエンザウイルスが持っているこの酵素を阻害するとインフルエンザウイルスは自身のmRNAを合成することが出来なくなります。
以上の作用機序によりS-033188はインフルエンザウイルスの増殖を抑制することで罹病期間を縮小することが可能となります。