トラマドールの依存性について/トラマドールを服用している患者さんの死亡率に関する報告
2019年5月31日追記
トラマドール・トラムセットがクセになる(習慣性・依存性について)
術後の痛み止めとして、麻薬性鎮痛薬のヒドロコドンや短時間作用型の麻薬性鎮痛薬オキシコドン、トラマドールなどの痛み止めが米国で処方されているのですが、麻薬性鎮痛薬と比較してトラマドールは依存性を検証したデータによると、トラマドールの依存性は他の短時間作用型麻薬性鎮痛薬と同程度か、やや高いという結果が公開されました。
術後の痛み止めとしてオピオイドを初めて飲む患者さん44万4764人を対象として長期間の使用状況を確認した報告によりますと、35万7884人が退院時に1種類以上のオピオイドが処方されていました。(ヒドロコドン:212987人(53%)、オキシコドン:150785人(37.5%)、トラマドール:16059人(4%)、コデイン:12377人(3.1%)、ヒドロモルフォン:4831人(1.2%)、プロポキシフェン:4825人(1.2%))
麻薬性鎮痛薬の使用状況について
退院時に処方されたオピオイドの量が多い患者さんほど、オピオイドの長期間使用リスクが高い事と関連しておりました。特に退院時に処方されたオピオイドがモルヒネミリグラム当量換算で500MME以上であった被験者は、低用量群(モルヒネミリグラム当量換算1~199MME)と比較して、長期使用リスクが5倍、追加使用リスクが1.5倍高いという結果となりました。この結果に関しては、痛みが強いため退院時に多くのオピオイドが処方され、使用期間・追加使用量がともに多いというデータと解釈できますので、理にかなった結果と感じます。
一方、退院時にトラマドールが単独で処方された患者さんは、他の短時間作用型麻薬性鎮痛薬を処方された患者さんと比較して、追加でオピオイドを使用するリスクが6%高く、持続的にオピオイドを使用するリスクが47%高く、10回以上の処方または120日用量以上のオピオイド使用リスクが41%高いという結果となりました。
筆者らはディスカッションの中で、依存性の観点から考えると、トラマドールを急性期の疼痛緩和として処方した場合、他の短時間作用型麻薬性鎮痛薬(麻薬)の処方と同程度に依存性・習慣性について注意を払うべきであると注意喚起を行っています。
以下、2109年3月26日に記載しましたトラマドールと死亡リスクに関する報告のまとめです
日本国内ではトラマドール(トラムセット)を小児に使用することはありませんが、(小児への適応なし)米国でも2017年5月に呼吸抑制の副作用による死亡例が報告されているため12歳未満の小児に対してトラマドールの使用が禁止されたという経緯がありました。
2019年に入り、トラマドールを服用している成人に関して死亡率が高いという内容の報告が2つありましたのでその概要を記します。
2019年1月10日トラマドール服用患者における全死亡率(韓国)
被験者:19443人
トラマドール服用群の死亡率は、飲んでない群と比較して1.77倍死亡率が高い
75歳以上のトラマドール服用群では2.61倍、腎疾患群では2.9倍、肝疾患群では2.09倍死亡リスクが高まる
2019年3月変形性関節症患者におけるトラマドール服用群の全死亡率(イギリス)
被験者:50歳以上の変形性膝関節症患者(平均年齢70.1歳)
トラマドール服用群(44451人)
ナイキサン服用群(12397人)
ボルタレン服用群(6512人)
セレコックス服用群(5674人)
エトリコキシブ服用群(2946人)
コデイン服用群(16922人)
調査方法
トラマドールと他の5つの鎮痛薬を比較して、トラマドール服用後1年以内の全死亡率を比較した
結果
トラマドールVSナイキサン
トラマドール服用群の年間死亡人数:23.5人/1000人
ナイキサン服用群の年間死亡人数:13.8人/1000人
トラマドール服用群の死亡率が1.71倍高い
トラマドールVSボルタレン
トラマドール服用群の年間死亡人数:36.2人/1000人
ボルタレン服用群の年間死亡人数:19.2人/1000人
トラマドール服用群の死亡率が1.88倍高い
トラマドールVSセレコックス
トラマドール服用群の年間死亡人数:31.2人/1000人
セレコックス服用群の年間死亡人数:18.4人/1000人
トラマドール服用群の死亡率が1.70倍高い
トラマドールVSエトリコキシブ
トラマドール服用群の年間死亡人数:25.7人/1000人
エトリコキシブ服用群の年間死亡人数:12.8人/1000人
トラマドール服用群の死亡率が2.04倍高い
トラマドールVSコデイン
トラマドール服用群の年間死亡人数:32.2人/1000人
コデイン服用群の年間死亡人数:34.6人/1000人
トラマドールとコデインでは死亡率に有意差なし
筆者らは結論として50歳以上の変形性膝関節症患者では、NSAIDSと比較してトラマドールの初期治療が1年間の追跡調査における高い死亡率と関連している。軽傷の疼痛患者に対するオピオイド(トラマドールやコデイン)の使用には注意が必要である。死因にトラマドールが直接関連していると判断するには、さらなる調査が必要と記されています。
国内の整形関連の痛み止めには様々な薬がありますが、NSAIDSを長期間服用すると消化管障害や腎障害のリスクが高くなるというイメージがありますが、今回のトラマドールの報告は服用開始から1年後の死亡率が2倍になるという報告です。
私のイメージですが、整形領域の処方ではNSAIDSを長期間服用し続けると腎障害や消化管障害のリスクが高くなるため、その代替薬としてリリカやサインバルタ、トラムセット、カロナールなどに代わることが多いように感じております。NSAIDSから他剤へ変更する際のイメージは”NSAIDSの長期間服用によるリスクを軽減させるため”という処方意図があります。
今回報告があったトラマドールによる死亡リスクは短期間(1年服用)のよる全死亡リスクですので、上記の長期間服用リスクとは話が異なります。
トラマドールと全死亡リスクに関しては、まだはっきりとした見解はでていませんので、今後の報告に注視する感じでしょうか。