新規片頭痛治療薬レイボー(成分名:ラスミディタン)が発売されました(2022/6/9)
2022年6月24日
小児へのトリプタン製剤の使用歴を追記しました。
米国で2019年10月に医薬品収載されている片頭痛治療薬「レイボー錠」が日本国内でも医薬品承認され、2022年6月8日に発売されました。
薬価
レイボー錠50mg:324.7円
レイボー錠100mg:570.9円
「前兆のない片頭痛」あるいは「前兆のある片頭痛」に対して、発作時に1回100mgを経口投与する。
ただし、患者の状態に応じて1回50mgまたは1回200mgを投与することができる。
頭痛の消失後に再発した場合は24時間あたり総投与量200mgを超えない範囲で再投与可能
レイボー錠の作用について
片頭痛が起こっている時、脳内では痛みが広がり、末梢(脳や脊髄以外)の部位では三叉神経の活動が活発になっていると考えられています。
三叉神経とは顔を覆うように広がっている神経のことです。三叉神経は中枢(脳や脊髄)からの指令を顔に伝える神経です。「三叉神経の顔全体の広がり」を大まかに表現しますと、「おでこ~はな」「ほほ」「くち・あご」という3つの領域に枝分かれしています。(三叉:さんさ)
片頭痛発作時には三叉神経の活動が活発になっていると記しましたが、その活性化を誘導するのが「セロトニン」であるという仮説があります(三叉神経血管系仮説)
三叉神経および脳内の視床・大脳皮質には、片頭痛の引き金となる「セロトニン」を受け取る部分(セロトニン受容体)として”セロトニン1F受容体”という部分が広く発現していることが報告されています。
レイボー錠は「セロトニン1F受容体を刺激する」という特性があります。片頭痛時にレイボー錠を飲むと、セロトニン1F受容体が刺激され、セロトニン由来の神経活動が抑制されます。
すると、中枢での痛みの伝わりが抑えられるとともに、三叉神経から炎症や痛みを伝える物質が放出されなくなり、片頭痛発作がおさまるという効果が期待されます。
セロトニンという物質は「幸せホルモン」とも呼ばれており、不安感や不穏感を軽減する働きもあるのですが、レイボー錠は「片頭痛を引き起こすセロトニンの作用」以外には極力影響しないように配慮されて医薬品と考えられます。
(選択的セロトニン1F受容体と呼ばれます)
例えば「不安感・うつ気味」に関与するセロトニン1A受容体に対するレイボー錠の影響力はセロトニン1F受容体への刺激効果と比べて475分の1程度しかありません。
既存の片頭痛治療薬「トリプタン製剤」はセロトニン1B/1D受容体をターゲットとする医薬品ですが、レイボー錠のセロトニン1B/1D受容体への影響力は446分の1および617分の1程度しかありません。
セロトニン受容体には様々な種類が報告されているのでが、レイボー錠は各受容体への影響を極力小さくして、セロトニン1F受容体を選択的に刺激することを可能とした製剤と考えます。
片頭痛発作時に服用すると15分後までに血液脳関門を通過した(ラットでのデータ)という報告があるので、服用後の吸収スピード・効果発現は速そうなイメージです。服用から2時間後には中等度・重度の頭痛が消失した(100mgまたは200mg)ことが報告されています。
副作用(発現頻度1%以上)
不動性めまい(18.8%)、動悸、回転性めまい、悪心、疲労、異常感、筋力低下などが報告されています。
既存のトリプタン製剤との比較
上記がレイボー錠の特徴なのですが、既存のトリプタン製剤との違いについて記します。
トリプタン製剤もレイボー錠もセロトニン受容体をターゲットとした医薬品です。
上記がセロトニンの構造とトリプタン製剤の構造です。
トリプタン製剤には、どの成分にもセロトニン骨格が含まれていることがわかります。一方でレイボー錠の構造は以下の通りです。
明確なセロトニン骨格が含まれておりません。そのためレイボー錠は既存のトリプタン製剤とは異なる分類となります。
トリプタン製剤のターゲットとする受容体は5HT1Bと1Dであり、レイボー錠がターゲットとする受容体は5HT1Fです。
いずれの受容体も5HT1属に分類されます。5HT1属にセロトニンがくっつくと、それよりも下流の情報伝達が抑制されるという特徴があります。
例えば血管平滑筋の拡張を抑制する。例えば神経伝達物質の遊離を抑制する。例えば痛みの伝わりを抑制する。
といった感じです。
既存のトリプタン製剤もレイボー錠も「○○を抑制する」という点では同じです。あとは作用部位である受容体が「どの部位に多くあるか」という点を明確にすると理解が深まると私は考えます。
既存のトリプタン製剤:5HT1Bと5HT1Dにくっついて、それより下流の情報伝達を抑制する作用
5HT1B受容体:中枢神経全体、頭蓋内血管平滑筋に存在する
トリプタン製剤が5H1Bにくっつくと、拡張した血管が元のサイズに戻る(頭蓋血管が収縮する)
5H1D受容体:頭蓋血管周辺の三叉神経週末に存在する
トリプタン製剤が5H1Dにくっつくと、神経ペプチドの遊離が抑えらえれ、それより下流に情報が伝わりにくくなる。すると刺激が低下し、片頭痛症状が軽減する。また頭蓋血管平滑筋に作用し、血管収縮効果を有する
上記がトリプタン製剤を飲んだときに片頭痛がおさまる作用です。
レイボー錠の作用
レイボー錠は何度も記していますが5H1Bおよび1Dへの選択制は1/400~1/600と非常に低い製剤です。5H1Fへの選択性が高い製剤す。
5H1F受容体:上記の受容体と比較するとまだ情報が少ないのですが、中枢神経系(CNS)に分布していると記載があります。
レイボー錠が5H1Fにくっつくと、それより下流への疼痛情報の伝達が抑えられると同時に、三叉神経からの神経伝達物質(CGRPやグルタミン酸)などの放出を抑制することで、片頭痛発作がおさまります。
余談ですが、トリプタン製剤の小児への使用状況に関する報告が2021年6月に東京医科大学小児科医より上がっていましたので下記します。
小児へのトリプタン製剤の使用例
小児期6~12歳
スマトリプタン点鼻液20mg
リザトリプタン:40kg未満は5mg、40kg以上は10mg
思春期:13~17歳
スマトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタン、ゾルミトリプタン:1回1錠
スマトリプタン50mg+ナプロキセン2~3錠(100mg/錠)
上記データは、
「2021年6月15日放送 小児の頭痛の診断と治療 東京医科大学 小児 准教授 山中 岳」より
上記以外ですと、海外の臨床データ、治験データをいくつか調べたところ
リザトリプタン:6歳以上、体重20~39kgならば5mg、40kg以上ならば10mg(24時間に1回まで)
スマトリプタン:10~17歳を対象に25mgを使用。4時間で痛みが軽減した割合63.5%(プラセボと比して有意差なし)(日本国内臨床試験)
ナラトリプタン:12~17歳300人を対象としてプラセボ、1mg、2.5mgを臨床試験した。有効性なし
といった感じのデータがあるようです。
小児へのトリプタン製剤を選択する場合はリザトリプタン(マクサルト)の使用例が多いようです。
余談でした。
新規片頭痛治療薬レイボー(成分名:ラスミディタン)がFDAに承認(2019年10月20日)
2019年10月11日、新規作用機序の片頭痛治療薬レイボー(成分名:ラスミディタン)がFDAに承認されました。
ラスミディタンは選択的5-HT1F受容体作動薬です。セロトニン受容体に作用するものの、5HT1B受容体と比較して、5-HT1F受容体への選択制が470倍も親和性が高いため、血管収縮関連の副作用が少ないことが報告されております。
従来のトリプタン製剤では虚血性心疾患やレイノー現象(手足の小動脈の収縮現象)のある患者さんでは使用しにくいという難点がありましたが、新薬のレイボー錠(ラスミディタン)では、このあたりが改善・軽減されている製剤となっています。(ラスミディタン錠の最高血中濃度2~2.5時間)
レイボー錠(ラスミディタン)の治験データを確認すると1カ月に1~18回片頭痛発作が生じる被験者を対象としたデータでは、50mg、100mg、200mg、400mgの投与量と相関して頭痛が改善していることが示されています。
FDAの承認時の注意要綱にはレイボー錠服用後、最低8時間は機械の操作や運転作業を避けること・アルコールや中枢神経抑制薬との併用は注意することと記されております。
レイボー錠(ラスミディタン)による明確な薬理作用は不明ですが、5HT-1B受容体への作用が低いにも関わらず片頭痛症状を改善していることから、血管拡張があまり関与しないタイプの薬理作用なのではと示唆されています。
5HT-1F受容体について
5HT-1F受容体は脳幹三叉神経核・脳幹三叉神経核のシナプス前終末および三叉神経節・延髄の三叉神経脊髄路核などに分布する受容体で、その作動薬は神経細胞に対する抑制的な作用を示すことが知られています。5HT-1F受容体は血管収縮に関与していることが示唆されているため、ふらつき・転倒といったリスクを軽減できるのではと期待されています。