a大動脈瘤・大動脈解離とフルオロキノロン系抗菌薬の関係について
2019年1月10日、厚生労働省は重大な副作用としてフルオロキノロン系抗菌薬に「大動脈瘤・大動脈解離」を追加すること日本製薬団体連合会に通知しました。
フルオロキノロン系抗菌薬リスト
・アベロックス錠
・オゼックス錠・細粒
・クラビット錠・細粒・点滴
・グレースビット錠・細粒
・シプロキサシン錠・点滴
・ジェニナック錠
・スオード錠
・タリビット錠
・バクシダール錠
・バレオンカプセル・錠
・パシル点滴
・パズクロス点滴
経口フルオロキノロン系抗菌薬と大動脈瘤・大動脈解離の関係について(台湾)
フルオロキノロン系抗菌薬と動脈瘤・動脈乖離の関係について
大動脈瘤・大動脈解離とフルオロキノロン系抗菌薬に関しては数多くの報告がなされているのですが、その中でも非常に詳細なデータを公開しているなぁと感じたのが台湾の政府管掌保険データを使用して調査を行った報告です。
報告例
台湾の人口(2400万人)の中から無作為に99万8787人を抽出したところ、大動脈瘤・大動脈解離患者が1231人確認された。
大動脈瘤・大動脈解離発症前の60日の期間にフルオロキノロン系抗菌薬を使用した群(19例)において、大動脈瘤・大動脈解離の発症リスクが2.05~2.52倍と有意に高くなることが報告されました。(調整因子・要因因子の調整によりリスク比は異なります)
フルオロキノロン系抗菌薬の投与期間と大動脈瘤・大動脈発症リスクの関係
フルオロキノロン系抗菌薬の使用期間が3日未満の群と比較して3~14日間投与した群において大動脈瘤・大動脈解離発症リスクが2.41倍、14以上の投与群では2.83倍と高くなるデータも報告されています。
フルオロキノロン系抗菌薬と大動脈瘤・大動脈解離の関係(スウェーデン)
大動脈瘤・大動脈解離発症前60日間にフルオロキノロン系抗菌薬を使用した場合のリスク比
大動脈瘤・大動脈解離発症前の60日間にフルオロキノロン系抗菌薬を使用した場合の発症リスクを10日単位で区切ったときの発症リスクが報告されておりました。
経口フルオロキノロン系抗菌薬と大動脈瘤・大動脈解離の関係について(台湾)
1~10日前:3.02倍
11-~20日前:1.81倍
21~30日前:2.43倍
31~40日前:3.50倍
41~50日前:3.47倍
51~60日前:2.30倍
上記平均:2.52倍
上記データは台湾の報告を記しましたが、同様の報告例は多数あがっており、スウェーデンの報告を確認してもフルオロキノロン系抗菌薬を使用することで大動脈瘤のハザードリスクが1.9倍、大動脈解離のハザードリスクが0.93倍(有意差なし)になると記されておりました。
フルオロキノロン系抗菌薬が大動脈瘤・大動脈解離を引き起こす原因について
フルオロキノロン系抗菌薬と大動脈瘤・大動脈解離に関する明確な原因は解明されておりませんが、フルオロキノロン系抗菌薬がコラーゲン合成に影響を与えることで大動脈壁の安定性を妨げることが原因ではないかと示唆されております。
フルオロキノロン系抗菌薬と大動脈瘤・大動脈解離の関係(スウェーデン)
別の報告なのですが、マウスに対してシプロキサシンを投与したことで大動脈瘤・大動脈解離のリスクを検証した報告によると、シプロフロキサシンが投与されたマウスにおいて、コラーゲンの集合および安定化に重要な酵素の発現量が減少していたことが報告されています。その結果弾性繊維の断片化、大動脈の肥大も確認されています。
試験管内のデータですが、シプロフロキサシンを培養細胞に添加すると、リシルオキシダーゼという酵素の発現量および活性化が減少するという報告があります。リシルオキシダーゼとはコラーゲンとコラーゲンを結びつける働きがある酵素です。シプロフロキサシンによりリシルオキシダーゼが減少したことでコラーゲンの断片化(コラーゲンがブチブチ切れる)が生じたことが、大動脈解離・大動脈瘤とどのような関係にあるかについては、今後の検討となるのではないでしょうか。