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水虫(足白癬)の薬が効かなくなることはないのか(足白癬と耐性菌について)

水虫(足白癬)の薬が効かなくなることはないのか(足白癬と耐性菌について)

皮膚科の門前薬局で患者さんにお薬をお渡ししていると「水虫の薬が効かなくなってきたように感じる」「5年間も同じ水虫の薬を使っているんだけど効くの?」と相談される方がおります。

その気持ちは非常によくわかります。薬を毎日使用していても、家庭内に保菌者がいる場合は、感染源や感染経路対策が不十分となり水虫の再燃再発を繰り返すケースが多々あります。さらに水虫治療は完治までに時間がかかるため治療を継続くする強い意志も必要となります。「同じ水虫薬がずっと効くのだろうか」という疑問はごもっともです。
そこで今回は抗真菌薬(水虫薬)と効き目について調べてみました

2015年現在、表在性真菌薬に対して浅在性白癬(水虫菌)の耐性菌は報告されていません。(注意:肺などの臓器感染(深在性真菌症)では耐性菌が報告されています。また、カンジダ属の真菌であるCandida aurisは抗真菌薬への耐性が確認されています)

水虫菌が感染するまでの速度について

表在性真菌症の場合は塗り薬が適切な濃度で真菌へ到達するために耐性菌が生じにくいものと思われます。では、水虫の塗り薬(抗真菌薬)は具体的にどれほどの濃度で皮膚に浸透しているかについて調べてみます。

ルコナック爪外用液とクレナフィン爪外用液を比較する

マイコスポール1%・ペキロン0.5%・メンタックス1%・エンペシド1%・アトラント1%・ラミシール1%・ゼフナート1%・アスタット1%・ルリコン1%

処方される水虫の塗り薬は、およそ1%前後の濃度であることが分かります。
1g中に10mgの薬成分が含まれています。

水虫の原因菌である白癬菌はケラチン蛋白(表皮の角質層)を栄養源とする真菌の一群ですので、一般的には皮膚の表皮に生息しています(表在性白癬)。ひっかき傷などで真皮内に入り込んで増殖することもありますが、これはごく稀なケースですので、今回は表皮に潜む白癬菌への治療について限局して考えをすすめます。0.1~0.3mmの厚さである表皮に抗真菌薬の塗り薬を塗るとどれほどの濃度で浸みこむのか、また浸みこんだ濃度は最小発育阻止濃度(MIC)を満たしているのかを検証します。

抗真菌薬は10g軟膏、クリームの製品が主流です。軟膏チューブの開口部を確認したところステロイド軟膏などの5g包装のものよりも開口部の直径が広く設計されています。
ラミシールクリームを1FTU(指の第一関節までの長さ)絞り出し、重さを計量したところ
1FTU=1gであることがわかりました。
1FTU=大人の両手(300平方センチメートル)を塗ることができるわけですから
1g/300平方センチメートル=0.003g/平方センチメートル=3mg/平方センチメートル
さらに、抗真菌薬の濃度はおよそ1%前後の医薬品が多いので実際の薬物濃度を計算すると
30㎍/平方センチメートル
皮膚表面1平方センチメートルあたり30㎍の医薬品が塗布された計算になります。

30㎍/平方センチメートルという薬物濃度で塗布された抗真菌薬が1.3mmの足の裏の表皮に浸みこんで殺菌作用を示します。
(注:表皮の厚みは体の部位により異なりますが、足の裏は非常に分厚く1.3mmと言われています)
0.13立方センチメートルあたり30㎍の薬剤が塗布されていることになります。
230㎍/立方センチメートル=230㎍/ml

つまり皮膚に塗った抗真菌薬がすべて皮膚に浸みこんだ場合230㎍/mlという濃度で水虫菌を退治することができるわけです。

しかし、実際には足の裏に抗真菌薬を薄く塗り広げたとしても、その上から靴下を履いたり、裸足だ歩き回ったりするため、塗り薬が全量吸収されることはありません。また、靴下および靴を履いて歩きまわる場合、汗をかいて抗真菌薬が流れてしまうケースも想定されます。また足の裏は皮が硬く、塗り薬の吸収率が最も低い体の部分のうちの一つです。

そのため、足の裏に塗布した抗真菌薬の吸収率は、おそらく非常に低いことが想定されます。残念ながら日常生活をおくる中で足の裏に塗布した薬がどれほどの割合で吸収されるかという具体的なデータを得ることができなかったため、ここでは計算上、塗布量の100分の1量が吸収されると仮定して話を続けたいと思います。
(100分の1というのは、ここでの想定であり、実際はもう少し高いことが推測されます)

水虫菌が感染するまでの速度について

皮膚に塗った抗真菌薬がすべて皮膚に浸みこんだ場合230㎍/mlという濃度となりますが、上記理由により、その濃度は100分の1になると想定すると
2.3㎍/mlという薬物濃度で皮膚に浸みこむことになります。
各抗真菌剤の白癬菌に対するMICは下図の通りです。

縦軸が白癬菌に対するMIC濃度、横軸がカンジダに対するMIC濃度です。今回は白癬菌に関するデータの確認として利用しますので、図の下に記載されている薬ほど少量で良く効く抗真菌薬と言えます。
●が各薬剤の幾何学的MICです。いずれの薬剤もおよそ0.1㎍/ml以下の濃度で除菌することができます。
これまでの想定から足の裏に塗布した抗真菌薬は2.3㎍/mlという薬物濃度で皮膚に浸みこむとすると、およそMICの20倍~2300倍という濃度で除菌していることが分かります。特にルリコンやアスタットの力価は非常に高い事がわかります。

おそらく表在性真菌に対して外用薬の耐性菌報告がない理由は、この皮膚組織内濃度の高さと各薬剤の力価が高いことが理由であると思われます。

ルコナック爪外用液とクレナフィン爪外用液を比較する

さて、これらのことから水虫の薬は品目によらず適切に使用すれば静菌および殺菌作用が十分期待できることが分かります。特にルリコンとアスタットに関しては最小発育阻止濃度(MIC)だけでなく、最小殺菌濃度(MFC)に関しても、白癬菌に対して十分な殺菌データが報告があり、有用な塗り薬であることが分かります。

足白癬(足水虫)のお薬を患者さんへお伝えする場合、使用している塗り薬に効果がある(耐性菌の報告がない)ことを明確にお伝えすることで患者さんに薬が効くことを理解してもらいます。それに加えて、白癬菌の感染源・感染経路を遮断する努力について理解していただくことが大切であると思います。

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ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業

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ojiyaku