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喫煙によってジプレキサ(オランザピン)の効き目はどれほど低下するのか

喫煙によってジプレキサ(オランザピン)の効き目はどれほど低下するのか

 

ジプレキサ錠(オランザピン)の効き目は喫煙によって低下することが添付文書にしるされています。その程度は性別や喫煙本数によりことなるため、一概に言及することはできませんが、今回はジプレキサ錠の効果が喫煙によりどの程度低下するのかを調べてみました。

添付文書には以下のように記されています。(抜粋)

 

喫煙:喫煙は肝薬物代謝酵素(CYP1A2)を誘導するため本剤のクリアランスを増加させる。本剤の血漿中濃度を低下させる。

頓服で使用されるリスパダール内用液の効き目を検討する

喫煙者におけるオランザピンのクリアランス値は非喫煙者より約35%高かった。これは喫煙がCYP1A2の誘導作用を有するためと推定された。

喫煙者におけるオランザピンのクリアランスは非喫煙者よりも約40%高かった

cigarette-olanzapine

ジプレキサ錠の代謝経路

服用後のジプレキサは主に5種類の経路により体外へ排出されます。メインルートは肝臓における「グルクロン酸抱合」であり、次に「CYP1A2」による代謝という順となります。

グルクロン酸抱合:CYP1A2による代謝率は44:31

であることが報告されています。

 

喫煙者の場合、肝薬物代謝酵素CYP1A2が誘導されてCYP1A2働きが上昇しますので、より多くの血中ジプレキサを代謝することになります。

日本人における薬物動態パラメーターを確認してみると

非喫煙者(男性):11.7(L/hr)→喫煙者(男性):14.3(L/hr)

非喫煙者(女性):11.0(L/hr)→喫煙者(女性):12.4(L/hr)

デパス・リーゼ・ソラナックス・ワイパックス・レキソタンの安定剤として効き目を薬物動態から考える

性別を問わず喫煙によりクリアランス(排出量)が上昇していることが確認されます。

ここまでは製薬メーカーが示しているデータを記しましたが、以下に学会誌などで報告されているデータを記します。

報告例1(Carrillo 2003/4/  J Clin Psychopharmacol.)

対象群:喫煙者8名に1日1回ジプレキサ10mgを15日間服用

比較対象群:非喫煙者9名に1日1回ジプレキサ7.5±2.5mgを15日間服用

頓服で使用されるリスパダール内用液の効き目を検討する

結果:喫煙によりCYP1A2活性が6倍上昇し、ジプレキサの血中濃度が非喫煙者の1/5にまで低下した。BPRS(簡易精神症状評価尺度:値が高いほど症状が重い)の減少率は非喫煙者で30.4±10%であるのに対し、喫煙者では12.5±14%であり非喫煙者で有意にBPRSの改善が確認された

 

副作用発現頻度は喫煙者:3名、非喫煙者:6名

 

報告例2(Haslemo 2006/12 Eur J Clin Pharmacol)

喫煙者59人(喫煙本数20本以上:28人、13~19本:18人、7~12本:13人)がジプレキサを服用すると、非喫煙者と比較して血中濃度が1/2に低下する。1日7~12本タバコを吸えば、ジプレキサを代謝するための肝薬物代謝酵素CYP1A2が最大限誘導に達する。

 

禁煙後の薬剤代謝クリアランスへの影響

喫煙者が禁煙を始めても、薬剤代謝への影響がすぐに表れるわけではありません。禁煙後のCYP1A2活性について調べてみると、1日20本以上14日間タバコを吸っていた12人(男性8人、女性4人)が禁煙した場合、CYP1A2の活性は徐々に低下していくわけですが、その活性低下の半減期は平均で38.6時間(27.4~54.4時間)と報告されているものがありました。

 

禁煙によるCYP1A2の活性半減期が27.4~54.4時間とすると、禁煙後に非喫煙者レベルまでCYP1A2の活性が戻るために必要な日数は6~12日と算出されます。このためジプレキサを服用している方が禁煙する場合は用量調節が必要な場合があります

 

まとめ

・喫煙者がジプレキサ(オランザピン)を服用した場合、非喫煙者と比較して効果が低下する(40%ほど低下する)

・1日7~12本程度の喫煙本数でCYP1A2が最大限誘導に達する。(それ以上喫煙本数が増えてもCYP1A2の誘導率と相関しないものと思われます)

・禁煙後、CPY1A2の誘導率が非喫煙者レベルまで低下するには6~12日間ほどの日数がかかるため禁煙をしたい場合は医師へその旨を伝えること

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ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業