追記2019年4月5日
日本人の慢性心不全患者254人を対象としたイバブラジンの有効性・安全性に関する報告がありましたので記載いたします。
J-SHIFT試験(国内第3相試験):2015年9月~2018年9月
被験者:NYHAの新機能分類が2~4程度、洞調律下での安静時心拍数が75回/分以上、左心駆出率(EF)が35%以下の慢性心不全患者さん254例をイバブラジン群またはプラセボ群(偽薬群)に振り分けて、イバブラジンの有効性・安全性を評価しています。
服用前の患者情報:心拍数82回/分、血圧116/71mmHg、EF27%、BMI82%、平均年齢:61歳
イバブランジン投与群(127例)
服用量はイバブラジン2.5mgを1日2回から開始して、心拍数が50~60回/分で安定して忍容性があればイバブラジン5mgを1日2回、イバブラジン7.5mgを1日2回まで増量しています。
プラセボ投与群(127例)
服用後の安静時心拍数の変化について
イバブラジン服用群:-15.2回/分
プラセボ服用群:-6.1回/分
イバブラジン服用群で有意に心拍数が下がることが確認されました。
左室駆出率(LVEF)の増加
イバブラジン服用群:11.1%
プラセボ服用群:6.6%
イバブラジン服用群で有意に左心駆出率が増加することが確認されました。
症候性の徐脈は報告されませんでした。
心血管死または心不全悪化による入院の割合
イバブラジン服用群:26例(20.5%)
プラセボ服用群:37例(29.1%)
心血管死に関しては、両群で差はなかったものの、心不全悪化により入院する割合についてはプラセボ群に比してイバブラジン群が1/2程度でした。(ハザードリスク:0.53)
有害事象
軽度の光視症
イバブラジン服用群:6.3%
プラセボ服用群:3.1%
心房細動
イバブラジン服用群:2.4%
プラセボ服用群:5.5%
有害事象として報告された心不全
イバブラジン服用群:31例(24.4%)
プラセボ服用群:49例(38.6%)
日本人慢性心不全患者さんを対象としてイバブラジンの有効性・安全性については海外での報告(SHIFT試験)と同等で、忍容性(副作用の程度が低く飲み続けられるかどうか)も良好であった。
イバブラジンは「洞調律下での安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全」という適応症で、小野薬品が国内製造承認を行っております。
以下は2018年12月31日に記載したイバブラジンの効果についてです。
小野薬品は慢性心不全治療薬“イバブラジン”を国内申請しました。イバブラジン(商品名:プロコララン)は2005年に欧州医薬品庁、2015年に米国食品医薬品局に承認されており、世界各国で使用されている医薬品です。世界的には100か国以上で“安定狭心症”
の適応症を有している医薬品なのですが、“慢性心不全“の適応症に関しては2012年以降に各国での承認が進んでいます。
イバブラジンは2006年に安定狭心症治療薬として発売された医薬品なのですが、2010年に慢性心不全患者を対象としたSHIFT試験が行われ、その結果、心不全による入院リスクを18%低下させたことや1年間の継続服用により心拍数抑制効果が確認されたため2012年に欧州において慢性心不全の適応症が追加された経緯があります。米国で2015年から医薬品として承認されています。
イバブラジン(ONO-1162)を国内承認申請
イバブラジンは心臓の洞結節のペースメーカーIfチャンネルを用量依存的に阻害することにより、心拍数を低下させる効果がある医薬品です。β遮断薬やカルシウム拮抗薬では心拍数に加えて心収縮力も低下してしまうのですが、イバブラジンはこれらの薬とは異なり、心収縮力を低下させることなく心拍数だけを抑えることが可能です。心拍出量を維持した状態で心拍数を抑えることが可能ということは、少ない拍動数で十分な血液を全身に送り流すことができるということですので、心臓の負担を軽減させることができます。
6505例の心不全患者(安静時心拍数70回以上/分、左心室の駆出率35%以下)を対象として、イバブラジン群(3264例)、プラセボ群(3264例)に分けて心拍数の変化・再入院・死亡リスクを調査した試験です。
イバブラジン服用群
心拍数減少作用
28日間服用で10.9回/分の心拍数減少作用が確認された
1年間服用で9.1回/分の心拍数減少作用が確認された(終了時点では8.1回/分の減少作用)
心不全悪化による入院数
イバブラジン群:514例
プラセボ群:672例
(相対的な入院リスクを26%抑制する効果が確認されました:有意差あり)
心不全による死亡数
イバブラジン群:113例
プラセボ群:151例
(相対的な入院リスクを26%抑制する効果が確認されました:有意差あり)
有害事象
イバブラジン群
徐脈:150例
眼内閃光:89例
プラセボ群
徐脈:32例
眼内閃光:17例
有害事象で報告された“眼内閃光”に関しては、網膜におけるIhイオンチャネルが心臓のIfチャネルとよく似たチャネル構造であることから、イバブラジンが網膜におけるIhチャネルを遮断したものではないかと示唆されます。イバブラジンによる眼内閃光は軽度・一過性・可逆的な副作用です。服用から平均して40日あたりで眼内閃光が発生していると報告されていいます。(眼内閃光の副作用により約1%の方がイバブラジンの服用を注意しています)
徐脈に関しては、イバブラジン7.5mg、10mg服用群において2~5%の割合で報告されています。
それ以外の有害事象としては頭痛(2.6~4.8%)、心室期外収縮、めまい、かすみ目などが報告されています。
イバブラジン塩酸塩(ONO-1162)を国内承認申請を行った小野薬品は
「洞調律したでの安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全」の効能効果でイバブラジン塩酸塩を承認申請しました。
日本人を対象とした国内臨床試験
国内で実施した最善の既存治療下、NYHA心機能分類がⅡ~Ⅳ度、洞調律下での安静時心拍数が75回/分以上、左心駆出率35%以下の日本人慢性心不全患者254例を対象として(J-SHIFT試験)が行われています。