末梢神経に直接巻いて神経再生を促す手根管症候群治療薬の治験開始
大阪大学・材料研究機構・日本臓器製薬は、末梢神経に直接巻いて神経再生を促す薬剤含有ナノファイバーシートの開発を行い、手根管症候群を対象として2020年11月から探索的治験を開始することを発表しました。
末梢神経に直接巻いて神経再生を促す手根管症候群治療薬の治験開始
開発されたナノファイバーシートは、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)をエレクトロスピニング(電界紡糸)技術で超極細繊維の不織布様にしたもので、神経再生効果を持つ薬剤を含有しています。このシートの特徴としては、体液は通すが、神経の瘢痕化の原因となるマクロファージなどの炎症性細胞は通さないというと特徴があり、手術時に神経に被覆することで、術後の炎症反応から神経を保護し瘢痕形成を抑制することができます。
また、PCLの分子構造を精密に制御することで素材そのものの硬さを調節し、かつ、ナノファイバーからなる薄膜状に加工することで柔軟性が高くしなやかなさわり心地を実現しました。これにより神経への刺激を最小限に抑えることができ、必要なサイズに切って神経に貼ったり巻き付けたりと、加工性にも優れています。
さらに、薬剤はシート表面ではなく、超極細繊維の1本1本に均一に含有されているため、拡散によって長期間にわたり薬剤を一定速度で放出することができます。またPCL自身の加水分解によって1年以上かけてゆっくりと生分解されるように設計されており、術後の抜去も不要としています。
このナノファイバーシートを坐骨神経損傷モデルのラットに適用したところ術後6週間で神経の軸索が再生され、運動機能と感覚機能が回復したとしています。
探索的治験として2020年11月~2020年6月までの間に予定被験者33例を対象として手根管開放術および神経縫合術を要する患者さんを対象として行われる予定です。
手根管症候群の患者は国内に年間で数十万人いるとされます。本シートが実用化されれば、手根管開放術、神経縫合術、神経剥離術、神経移行術、神経交差縫合術、神経再生誘導術、神経移植術に使用でき、「末梢神経の外科的手術が必要な患者」を対象とした、年間約5万件の手術への適用が可能となります。
探索的治験とは同意を得た比較的少数の患者を対象として、主に治療薬・治験機器の安全性および有効性・用法・用量を調べるための試験です。