胎児の先天性トキソプラズマ症の発症抑制を適応症として「スピラマイシン錠150万単位」がサノフィ株式会社から発売されました。トキソプラズマ症とは生肉や生野菜の摂取、飼い猫のトイレ掃除などを感染経路として、世界人口の1/3が感染している原虫感染です。
健康成人であれば、感染しても無症状または軽い風邪のような症状が出る程度で、数週間もすれば完治します。しかし、妊婦がトキソプラズマ症に罹患するとトキソプラズマが胎盤を介して胎児に感染し、胎児が先生性トキソプラズマ症を発症する可能性があります。
胎児にトキソプラズマが感染した場合、流産・死産・水頭症・網脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化などの重大な症状を発症する臨床データが方向されています。
日本国内ではトキソプラズマを適応症として承認された薬剤が無く、日本産婦人科学会は2014年11月に医療上の必要性が高い未承認薬として厚生労働省に開発要請をしていました。(海外70か国以上では、妊娠中にトキソプラズマを初感染した場合は「スピラマイシン錠150万単位」を使用することが承認されていました。)
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・、一度感染すると、妊娠期間を通して胎盤の感染が継続することを示唆する実験データがあるため、胎児感染が確認されない場合には、妊娠期間を通じて分娩までスピラマイシンを投与する(出産まで飲み続けます)
・スピラマイシン錠150万単位の効果はトキソプラズマの増殖抑制効果であり、殺原虫効果はありません。原虫を殺すことができないため、出産まで飲み続けることで増殖を抑制し続けるという薬です。
添付文書の記載では「1回2錠を1日3回服用すること」という用法が記されています。
上記以外の用法についての報告としては「21日間連続服用した後、14日間休薬する」というサイクルを分娩まで繰り返す用法がインタビューフォームに報告例として記されています。
・スピラマイシン2~3g/日を3週間連続服用した後、2週間の休薬というサイクルを分娩まで継続した結果、先天性トキソプラズマ症の発症率は投与群で26%、非投与群で63%というデータとなりスピラマイシンの投与は有意に感染を減少が確認されました。
・388例の妊婦ににスピラマイシンを投与した結果、先天性トキソプラズマ症の発症数は投与群で23%、非投与群で58%となり投与により有意な減少が確認されました。
・スピラマイシン1日3gを分娩まで投与したデータでは、投与群120例と非投与群115例を比較した結果、先天性トキソプラズマ症の発症率は投与群で58.3%、非投与群で73%となり、投与することで有意な減少が確認されました。また、重度の先天性トキソプラズマ症の発症率はは投与群で18.6%、非投与群で60.7%という結果です。
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服用期間は人それぞれなのですが、連続服用を続けることでの耐性化(抗原虫薬が効かなくなる)可能性について調べてみました。
スピラマイシン錠150万単位は16員環マクロライド系抗生物質という分類の薬です。16員環マクロライド系抗菌薬の特徴として“耐性誘導能が低い”という特徴があります。耐性誘導とは、抗生物質が作用するターゲット部分について、菌がその構造を自ら変化させることで、抗生物質の効果を無効化する働きのことです。16員環マクロライド抗生剤では耐性誘導が低いという特徴があるため、抗生剤のターゲット部分が変化せず長期間にわたって抗菌作用が継続されます。
スピラマイシン錠150万単位は16員環の特徴にくわえて、16員環の3位の側鎖構造を3種の有機塩基(スピラマイシンI:80%、スピラマイシンⅡ:5%以下、スピラマイシンⅢ:10%以上)の混合物として精製して医薬品としています。1錠の中で、側鎖構造の異なる3種類のスピラマイシンを配合することで薬剤耐性のリスクを軽減しています。
注:上記の構造のイメージですが、スピラマイシン錠の構造には多数の枝が生えているのですが、その中の1本の枝の構造について、80%は普通の枝、5%が一回り大きな枝、10%が二回り大きな枝に構造を微妙に変化させています。それら3種類のスピラマイシンを一定の割合で混合したものをスピラマイシン錠150万単位という名称で医薬品としています。