インフルエンザのシーズンがやってきました。先日、夫婦でインフルエンザにかかった患者様が薬局にいらっしゃいました。
夫:体重82kg
処方
ゾフルーザ20mg:4錠:すぐに服用する
ロキソニン60mg:1日3回毎食後、1回1錠(解熱鎮痛剤):5日分
アストミン錠10mg:1日3回毎食後、1回2錠(咳止め):5日分
ムコソルバン錠15mg:1日3回毎食後、1回1錠(痰切り):5日分
アレグラ錠60mg:1日2回朝夕食後、1回1錠(鼻水止め):5日分
妻:体重55kg
処方
ゾフルーザ20mg:2錠:すぐに服用する
ロキソニン60mg:1日3回毎食後、1回1錠(解熱鎮痛剤):5日分
アストミン錠10mg:1日3回毎食後、1回2錠(咳止め):5日分
ムコソルバン錠15mg:1日3回毎食後、1回1錠(痰切り):5日分
アレグラ錠60mg:1日2回朝夕食後、1回1錠(鼻水止め):5日分
ゾフルーザ錠は体重によって服用する量が異なります。
上記の場合、旦那さんは体重が80kg以上ありますので、ゾフルーザ20mgを4錠飲みます。
奥さんは体重が80kg未満ですのでゾフルーザ20mgを2錠飲みます。それ以外の薬は同じ内容です。
海外で使用されていないイナビル吸入粉末剤はインフルエンザ治療に効果が「ある」のか「ない」のか
ゾフルーザ20mgは1錠あたり¥2394.5円(2018年12月現在)ですので、旦那さん、奥さんが飲んだゾフルーザ錠の自己負担額を計算してみると
旦那さん(3割負担):2394.5円×4錠×0.3(3割負担)=2873.4円
奥さん(3割負担):2394.5円×2錠×0.3(3割負担)=1436.7円
となります。
上記は服用したゾフルーザ錠の薬価だけの計算式ですが、これに基本料やその他の薬(ロキソニンやアストミンなど)などの医療費が加わると
旦那さんの支払額:3000~3500円程度
奥さんの支払額:2000円程度
という計算となります。体重が80kgの方がゾフルーザ錠によるインフルエンザの治療を受けると1000~1500円ほど支払額が高くなるという実態があります。
ゾフルーザ錠は成人の体重によって服用量が異なりますが、それ以外のインフルエンザ治療薬(タミフル・リレンザ・イナビル)にはそのようなルールはありません。(体重によって服用量が異なることはない)
インフルエンザにかかった成人が使用する際の医療費(3割負担の場合)
インフルエンザウイルスの空気感染リスクに関しての報告(2018年1月18日)
タミフルカプセル
272円(薬価)×10(カプセル)×0.3(3割負担)=816円
(1日2回、5日間服用)
リレンザ
147.1(薬価)×20(ブリスター)×0.3(3割負担)=882.6円
(1日2回、1回2ブリスター、5日間服用)
イナビル吸入粉末剤
2139.9(薬価)×2(キット)×0.3(3割負担)=1284円
ゾフルーザ錠(80kg未満の成人)
2394.5(薬価)×2錠×0.3(3割負担)=1436.7円
ゾフルーザ錠は、イナビル吸入粉末剤と同様に1度の使用で抗インフルエンザ作用が期待されますので、同等の薬価が設定されたことが確認できます。しかし、薬価設定の際に80kg以上の方がゾフルーザ錠を使用することまで想定されていたかどうかは疑問です。
日本人の中で体重が80kg以上の割合はどの程度か確認してみました。しかし、身長が高ければ体重も増えるわけで、体重だけを分布表としたデータはなかなか見つかりませんでした。(BMIを指標としたデータしかありません)。しかしそんな中で、日米の体重分布比較を行ったデータを確認したところ
16歳以上の男性において、80kg以上となる割合は“10%程度”というデータを確認することができました。
(Health and Health Care-ISSP 2011より)
また調査規模はググっと小さいですが、「調布市」の成人調査の結果を確認したところ80kg以上の割合は
男性:8.5%
女性0.5%
というデータが確認できました。
調布市の体重分布
おそらくですが、日本人男性において体重80kg以上の割合は10%~程度なのでしょう。女性においても0.5%~程度であることが示唆されます。
注意:体重は身長と比例して増えますので健康管理においてはBMIが指標となります。今回はゾフルーザ錠の使用量に着目して、調べているため80kgという数字に着目して記しています。
血液中を流れるゾフルーザ錠の濃度が一定量を超えると、抗インフルエンザ作用があるのですが、この血中濃度は体重およびゾフルーザの服用量に依存するという背景があります。そのためゾフルーザ錠は体重によって使用量が異なります。
推定薬物動態パラメーター
体重10kg~20kgの方がゾフルーザ錠10mgを服用した場合の最高血中濃度:76.9ng/ml
体重20kg~40kgの方がゾフルーザ錠20mgを服用した場合の最高血中濃度:100ng/ml
体重80kg未満の方がゾフルーザ錠40mgを服用した場合の最高血中濃度:102ng/ml
体重80kg以上の方がゾフルーザ錠80mgを服用した場合の最高血中濃度:126ng/ml
海外で使用されていないイナビル吸入粉末剤はインフルエンザ治療に効果が「ある」のか「ない」のか
上記のデータより、血液中を流れるゾフルーザ錠の最高濃度が80~120ng/ml程度となるように体重ごとにゾフルーザ錠の服用量を選択することがインフルエンザの治療に有効であることが示唆されます。
尚、他剤で使用量のデータを確認したところ、
タミフルかプセルおよびイナビル吸入粉末剤:腎排泄型薬剤であるため、腎機能が低下した患者さんが服用すると効き目が強くなる(体内から薬が排泄されにくい)ため、重度の腎機能障害を有する患者さんには投与量を検討する必要があります。
リレンザ吸入:腎排泄型薬剤ですが、海外では腎機能低下患者さんに対して減量の必要はないとされているが、国内においては安全性・薬物動態は検討されておりません。
・体重80kg以上の方がゾフルーザ錠を飲んだ場合、自己負担額が3000円を超える
(他のインフルエンザ治療薬(内服または吸入)では2000円以下で収まる)
・ゾフルーザ錠は効果を発揮するために最高血中濃度80~120ng/ml程度が必要であるため、体重ごとに服用量が決められている
・日本人の中で体重が80kgを超える人の割合は10%程度
・ゾフルーザ錠は胆汁を介して糞便中に排泄されるのに対して、タミフル・リレンザ・イナビルは腎臓から排泄される