経皮的冠動脈形成術(PCI)のステント留置後、3カ月間抗血小板薬を2剤服用後1剤へ減量した報告
経皮的冠動脈形成術(PCI)のステント留置成功患者を対象として、術後3カ月間はブリリンタ錠+バイアスピリンによる2剤併用を行った後、ブリリンタ錠単独使用へ切り替えた際の有用性に関する報告がありました。
被験者:7119例(PCI術後、ブリリンタ錠+バイアスピリンを3カ月間使用し、大出血イベントや脳卒中、心筋梗塞などの症状が発生しなかった患者)
使用薬剤
ブリリンタ錠+プラセボ群(3555例)
ブリリンタ錠+バイアスピリン群(3564例)
追跡期間:1年間
結果
出血リスク
ブリリンタ錠+プラセボ群:4.0%
ブリリンタ錠+バイアスピリン群:7.1%
全死亡、心筋梗塞、脳卒中リスク
ブリリンタ錠+プラセボ群:3.9%
ブリリンタ錠+バイアスピリン群:3.9%
上記のデータより、抗血小板剤2剤投与で開始後へ1剤へ減量することは、死亡リスクや心筋梗塞・脳卒中リスクを上昇させずに、出血リスクを低下させたと筆者らは報告しています。
PCI術後3カ月間は抗血小板薬を2剤服用し、その後1剤へ減量した報告
経皮的冠動脈形成術(PCI)のステント留置後の抗血小板薬2剤から1剤へ減薬
経皮的冠動脈形成術(PCI)のステント留置後は一般的に抗血小板薬2剤併用療法(DAPT:アスピリンとプラビックス、アスピリンとエフィエント)が行われます。2剤併用療法によりステント血栓症を6~7割減少させたことから推奨とされています。2剤併用の服用期間については留置する薬剤溶出性ステントによりことなりますが、最近の第三世代ステントでは2剤併用療法の期間が短縮されつつあります。
循環器門前の調剤薬局で勤務していると”アスピリンとプラビックスの併用”という処方箋を良く目にします。服用経緯を確認してみると多くの場合、過去にステント留置をしていたことが確認できます。調剤薬局で勤務していると、この2剤がいつ1剤に変わるのか、そのタイミングを知るすべはありません。実際、何年も2剤併用している患者さんもおれば、早いタイミングで1剤になる方もおります。
抗凝固・抗血小板療法に関するガイドラインの中から、カテーテルインターベンションのガイドラインを確認すると「薬剤溶出性ステント留置例は最低12カ月間、ベアメタルステト留置例では最低1カ月間の2剤併用投与を推奨していますが我が国におけるエビデンスは十分でない」とされています。
2015年11月7~11日、米国心臓協会学術集会においてPCI後の2剤併用療法を12カ月以上継続した際の虚血性イベント抑制効果を検討した試験「DAPT Study」についての発表がありました。ステント留置後に2剤併用療法を12カ月継続した1万1648例を対象として30カ月までの追跡試験を行っています。試験対象群としては、チエノピリジン系(プラビックスやエフィエント)群またはプラセボ群に無作為に割りつけ、アスピリンは両群で継続された状態で経過観察されています。
結果として、1年以上にわたる2剤併用療法はステント血栓症や心筋梗塞といったリスクを減少させる一方で、出血リスクも増えるという結果となっています。ここで著者らは2剤併用療法を継続すべきか、1剤へ減薬しても臨床的に問題ないかを判断する指標として「DAPTスコア」という考えを提唱しています。
DAPTスコアとは
年齢75才以上:-2点、65歳以上74歳未満:-1点、65歳未満:0点
糖尿病罹患:1点、喫煙:1点、PCIまたは心筋梗塞既往:1点、
うっ血性心不全または左室駆出率(LVEF)30%未満:2点、心筋梗塞症例:1点
静脈グラフトへのPCI:2点、ステント径3mm未満:1点
注:左室駆出率:左室から1回の拍出によって送り出す血液量の割合
注:静脈グラフト:冠動脈バイパス術に使用する血管(長期間追跡調査によれば静脈グラフトは動脈グラフトよりも開存率が低い)
これらDAPTスコアを計算し、2点未満の患者さんに関しては心筋梗塞またはステント血栓症の発現率が2剤併用群もアスピリン単独群ともに差がなかった。むしろ2剤併用群では消化管出血の発現頻度が上昇していることが確認されています。
一方、DAPTスコアが2点以上の場合は2剤併用群の方が心筋梗塞またはステント血栓症の発現率が低く、虚血性イベントが有意に抑制されたことが確認されています。
調剤薬局では、もちろんDAPTスコアのすべてを把握することはできません。しかし、基礎疾患や喫煙状況、年齢など確認できる要素もあるため、PCIのステント留置後の抗血小板薬2剤から1剤へ減薬となった場合は、変更理由とともにDAPTスコアについて、いくつかの要素を確認してみることは患者さんのためになるのではと感じました。