60歳以上の心血管イベント抑制にアスピリンは使わない方がよいという報告(2022/5/22)
20年ほど前までは、「低用量アスピリン(バイアスピリン100mgなど)は1錠あたり10円未満と安くて、血液サラサラ効果があるから、医療経済的に優れている」と言われていたことを記憶しています。しかし、どうやらそのように考えられていた時代は終わったのかもしれません。
米国予防医学専門委員の調査いによると、将来の心血管リスク(冠動脈疾患、脳梗塞、末梢動脈疾患)を予防する目的で低用量アスピリン(バイアスピリン錠100mg)を継続的に飲み続けることにメリットがあるかどうかに関して、この先10年間の心血管リスクが10%以上の40~59歳の方の場合は「ヒトによる」、60歳以上の方では「開始すべきでない」との見解を示しました。
低用量アスピリンを飲むと血小板に含まれるシクロオキシゲナーゼという酵素を阻害することで、トロンボキサンA2の作りにくくし、血小板が固まるのを防ぐと同時に、血管が収縮することも防ぎます。つまり、低用量アスピリンを飲むと血液がサラサラになるというわけです。
一見すると血液サラサラは、健康に良さそうに聞こえますが、どうやらそうでもないようです。
米国予防医学専門委員の報告によると
・低用量アスピリンは確かに心血管リスクを低下させる効果はあるものの、消化管出血、頭蓋内出血、出血性脳卒中のリスクを増大させることが報告されている
・ヒトは年齢を重ねるにつれて、心血管リスクだけでなく消化管出血リスクや頭蓋内出血リスク、出血性脳卒中リスクも増悪する
・この先10年間において心血管リスクが10%の60歳以上の方の場合、低用量アスピリンの服用すると、血液サラサラによるメリットよりも、出血リスクのほうがマズイ
という感じです。
心血管リスクをざっくりと表現すると「血管が詰まる、血管の内腔が細くなって血液が流れにくくなる状態」です。
低用量アスピリンを飲み続ける理由は「血管のつまりを予防するため」なのですが、年を重ねると、血管壁が弱くなってきますので出血リスクも高くなってしまいます。すると「〇〇出血」が起こりやすくなるわけです。
今回の報告によると、将来の心血管リスクを考慮した時に、リスクが〇〇%程度の方で△△歳の場合はメリットよりもデメリットの方が多い場合がありますよ。という内容となります。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2791399
抗凝固剤と抗血小板剤の併用についてアスピリンが必要かどうか
血をサラサラにするタイプの薬には抗凝固剤と抗血小板という2種類があります。
抗凝固剤はワーファリンやリクシアナ、エリキュースといった医薬品があり、心房細動が原因で生じる“血の塊(血栓)”をできにくくする働きがあります。
抗血小板薬とはプラビックスやアスピリン、シロスタゾールといった医薬品があり、動脈内で血小板がこびりついて、血液の流れを細くしてしまう症状を予防する効果があります。
上記の2剤の併用に関する報告がありましたので、読んでみました。
PCI術後の心房細動患者さんにおける薬剤について
心臓の周囲の血管が細くなって血液が十分供給されていない方対して経皮的冠動脈形成術(PCI)と呼ばれる治療を行うケースがあります。細くなっている部分の血管を広げて、そこにステントと呼ばれる網状の金属を血管内に置換して広がった状態を保つ治療のことです。
血管内に置換された金属周辺に血小板が沈着しないよう、抗血小板薬を2剤飲むことがガイドラインに記されています。PCIを受けた患者さんのうち、5~8%が心房細動を起こすことが報告されており、その際は心房細動による血栓予防として抗凝固剤を飲みつづけるという治療があります
PCI後に心房細動を発症した方は、抗血小板薬2剤と抗凝固剤1剤あわせて3種類の血液サラサラ薬を飲むことになり、出血リスクが気になるところです。そこで、PCIを受けた心房細動患者さんについて必要な抗凝固剤・抗血小板剤に関する報告を調べてみました。
被験者は抗凝固剤としてエリキュースまたはワーファリンを服用しており、抗血小板剤として92.6%の方がプラビックスを服用している状態で、アスピリンを飲むまたは飲まない場合の治療成績および副作用を比較しています。
(プラビックス + 抗凝固剤で2剤を服用し、これにアスピリンが必要か不要かを検討したデータです)
出血リスクについて
抗凝固剤 + プラビックス + アスピリンを使用した群2277人中367人で出血リスクの増加が確認されました(16.1%)。
一方、抗凝固剤 + プラビックス + プラセボを使用した群2279人では204人で出血リスクが報告されました(9%)
アスピリンを飲んだ群の方が出血リスクが1.89倍高いという結果です。
死亡または入院のリスク
抗凝固剤 + プラビックス + アスピリンを使用した群2277人中604人の方で死亡または入院リスクが確認されました。(26.2%)。
一方、抗凝固剤 + プラビックス + プラセボを使用した群2279人では569人の方で死亡または入院リスクが確認されました。(24.7%)
6か月後のアスピリン群またはプラセボ群での死亡および入院のリスクに関しては同等と評価されています
(ハザード比は1.08となりアスピリンを飲んでいる方が若干ですが死亡および入院のリスクが高いようにも見えますが、有意差はありません)
死亡または虚血イベント
抗凝固剤 + プラビックス + アスピリンを使用した群2277人中149人の方で虚血イベント(心筋梗塞・ステント血栓症・脳卒中など)を発症しました。(6.5%)。
一方、抗凝固剤 + プラビックス + プラセボを使用した群2277人中168人の方で虚血イベント(心筋梗塞・ステント血栓症・脳卒中など)を発症しました。(7.3%)。
アスピリン群、プラセボ群で有意差はありませんが、プラセボ群の方が虚血イベントは若干ですが、発生しやすいようなデータとなりました。
筆者らは上記のデータより、PCTを受けた心房細動患者さんに関しては抗凝固剤(特にエリキュース)とプラビックスの併用が有益と考えると記しています。アスピリンを加えて3剤とした場合、出血リスクが高い一方で死亡率・入院率・虚血イベント発生率がプラセボと比較して差がないため、アスピリンを含まない選択肢を考慮すべきとしています。