原発性腋窩多汗症治療薬「ラピフォートワイプ2.5%」が発売開始(2022/5/24)
マルホ株式会社より腋窩多汗症治療薬「ラピフォートワイプ2.5%」が発売されました。
ラピフォートワイプ2.5%は抗コリン薬(グリコピロニウムトシル酸塩水和物)を含有しており、汗の産生を抑える効果が期待されます。
特徴的な点として「1日1回、個包装されている不織布1枚を開封して両方の腋窩に塗布する」という1回使い切りの製剤であるという点がポイントとなります。
薬価は1包あたり262円で設定されています。
前立腺肥大症の方、閉塞隅角緑内障の方は使用することができません。
ラピフォートワイプ2.5%の使用方法
使用方法としては
・脇をタオルなどでぬぐい、清潔で乾いた状態の脇の下にラピフォートワイプ2.5%を塗布します。
・1枚で左右の脇の下(両方の腋窩)を塗ります
・1回使い切りです
・使用後は直ちに手をよく洗います。(薬液が付いた手で目を触れないこと)
ラピフォートワイプ(グリコピロニウム)使用による血中濃度
ラピフォートワイプの薬効成分は「グリコピロニウム」なのですが、グリコピロニウムを含む医薬品には「塗り薬」だけでなく「吸入薬(シーブリ)」が医薬品として承認されています。
1日1回両脇にラピフォートワイプを使用した場合と、1日1回シーブリを吸入した場合に、血液中を流れる「グリコピロニウム」の量はどの程度なのかを添付文書で見てみると
ラピフォートワイプの血中濃度
1日1回左右の腋窩に4週間塗布した場合:最小値:10.2pg/ml、最大値:201pg/ml
1日1回左右の腋窩に52週間(1年間)塗布した場合:最小値:10pg/ml、最大値:585pg/ml
シーブリ吸入50μgを1回だけ吸入した時の血中濃度
最大値:181pg/ml
塗布剤と吸入薬の血中濃度を単純に比較することは難しいのですが、1年間ラピフォートワイプを脇に塗ることで血液中を流れる薬効成分は吸入薬よりも多くなるかもしれないなぁとデータをみて思いました。
「両脇に塗るだけだから、副作用はあまりきにしなくても・・・・」という安易な想像は適切ではないと感じました。
原発性手掌多汗症治療薬「アポハイドローション20%(オキシブチニン塩酸塩、久光製薬)」が医薬品として承認されました。
追記)2023/5
原発性手掌多汗症治療薬として「アポハイドローション20%(オキシブチニン)」が薬価収載されました。エクリン汗腺からの発汗を抑えるムスカリン受容体拮抗薬です。1日1回就寝前に両手掌全体に塗ります。
腋汗治療の新規塗り薬「エクロックゲル5%」が承認されました(2020/9/28)
厚生労働省は9月25日、原発性腋窩多汗症外用薬(塗り薬)エクロックゲル5%(ソフピロニウム臭化物)を医薬品として承認されました。
エクロックゲルはボトルに充填されており、使用時はポンプをワンプッシュし、塗布具(アプリケーター)にゲルを吐き出させ、塗布具を使用して腋窩に塗布するタイプの薬です。(手に直接エクロックゲルをとって塗布しないこと。手に付着した場合は直ちに手を洗うこと)
*:初めてお薬をお渡しする際は、塗布時の取り扱いを患者様へお伝えする必要があります。
使用量:各腋窩にワンプッシュ分を使用します。
販売包装:20g入りボトル×1本
気温や精神的な負荷を原因として、手のひらや足の裏、わきの下などから大量の発汗を生じる症状のうち、特にわきの下(腋窩)からの多汗症に対する適応についてエクロックゲル5%が承認されました。
エクロックゲル5%は神経伝達物質(アセチルコリン)の働きを抑える(アセチルコリンが受容体にくっつくことを妨げる)ことで汗腺からの発汗を抑える効果が期待されます。夏場の気温上昇に伴い、発汗量が増すことも多いように思いますので、非常に需要がある製剤となるかもしれません。
腋汗治療の新規塗り薬”エクロックゲル”が有効性を示す(2020/6/23)
科研製薬が開発している腋汗を抑える新薬(原発性腋窩多汗症の治療薬)について、第三相臨床試験に関する報告が行われました。
原発性腋窩多汗症は、気温上昇や精神的な負荷によって腋下から大量の汗が流れる症状です。日本では重度の原発性腋窩多汗症に対してボツリヌス毒素療法が保険適用されています。
科研製薬が開発している新薬は、腋汗を助長するアセチルコリンの作用を阻害する(抗コリン作用)がある新薬“エクロックゲル(ソフピロニウム)”を含む塗り薬で、1日1回患部に塗布した場合の効果・副作用について臨床試験が行われました。
被験者:原発性腋窩多汗症患者281名(12歳以上)、以下の評価で3以上または、腋窩発汗重量が50mg/5分以上の患者を対象としています。
発汗量の評価:自覚症状を以下の4段階に分類し使用後の改善度合いを評価しています。
- 全く気付かない、邪魔にならない
- 我慢できる、たまに邪魔になる
- どにか耐えられる、しばしば邪魔になる
- 耐え難い、いつも邪魔になる
上記のうち、3)、4)を重症の指標としています。
ソフピロニウム使用群(141例)とプラセボ(偽薬)群(140例)に割り付けて、6週間後の効果・安全性を評価しています。
結果
6週後に発汗量の評価が、1)または2)であり、腋窩発汗重量が治療開始前と比較して0.5以下となった被験者の割合は
ソフピロニウム使用群:53.9%
プラセボ使用群:36.4%
(有意差あり)
治療結果の詳細(副次評価)
発汗量の評価が1)または2)の被験者の割合
ソフピロニウム使用群:60.3%
プラセボ使用群:47.9%
腋窩発汗重量が治療開始前と比較して0.5以下となった被験者の割合
ソフピロニウム使用群:77.3%%
プラセボ使用群:66.4%
腋窩発汗重量の治療前からの変化量
ソフピロニウム使用群:―157.1mg
プラセボ使用群:―128.1mg
有害事象
重篤な有害事象なし
咽頭炎(14.2%)
適用部位皮膚炎(8.5%)
適用部位紅斑(5.7%)
抗コリン作用に関する有害事象
口喝(1.4%)
便秘(0.7%)
散瞳(0.7%)
多汗症治療薬“プロバンサイン錠”の効き目を患者様へお伝えする
多汗症の治療薬としてプロバンサインが処方されることがあります。具体的なプロバンサイン錠の薬物動態を調べることで、プロバンサインを使用するタイミング・効果・副作用の可能性について自分なりに勉強してみました。
プロバンサインの薬物動態
平均排泄半減期:1.56時間
平均最高血中濃度:20.6ng/ml
最高血中濃度到達時間:1時間
AUC:62.2ng・hr/ml
プロバンサイン錠の添付文書・インタビューフォームには薬物動態についてのグラフが記されていないのですが、上記の数値をもとにザックリと薬物動態のグラフを描くと以下のようになります
掌蹠多汗症が生じる仕組み
掌(手のひら)や蹠(足裏)には汗をかくエクリン汗腺が1平方メートルあたり700個ほどあり、この数は体のほかの部位(頭や背中)と比較しても圧倒的に多い数となっています。そのため、何かをきっかけとして手掌多汗症の方が手汗をかくと、止まらないほどの汗がしたたり落ちることとなります。(汗腺の数は健常人も多汗症の方もかわりありません)
手汗はコリン作動性交換神経というシグナルが関与しておりますので、コリンを抑制する“抗コリン薬”を服用することが治療となります。プロバンサイン錠は抗コリン作用により手汗を抑制する働きがあります。
プロバンサイン錠30mgを1錠飲むと、30分程度で効果が実感されます。効果持続時間には個人差はありますが、服用後2~4時間程度の汗を抑制する効果が期待されます。
プロバンサインには定常状態がない
プロバンサイン錠の添付文書には1日3~4回服用することと用法が記されております。
飲み薬のタイプを大きく分けますと2種類に分類することができます。
「飲めば効く・飲まなければ効かない」頓服タイプの薬(痛み止め・睡眠導入剤など)と、「24時間に渡って効果が持続する薬」定常状態タイプ(血圧の薬、コレステロールのなど)です。
頓服タイプは症状が出た時に使用する薬であるのに対して、定常状態タイプは常に効き目を維持させることで予防的・維持的に治療する薬です。
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プロバンサインは半減期が1.5時間しかありませんので、薬の効果は前者「飲めば効く・飲まなければ効かない」タイプの薬と言えます。
1日4回プロバンサイン錠を飲んだ時の状態について計算してみますと
投与間隔 ÷ 半減期 = 6 ÷ 1.5 =4
(1日24時間でプロバンサインを4回飲む場合は、投与間隔が24÷4=6時間となります。)
一般的に、上記の答えが4以上であれば定常状態が無い薬と考えます。プロバンサイン錠は4となりましたので、定常状態が無い薬=頓服タイプの薬という解釈となります。
多汗症の症状は人の情動的刺激に相関するため、起きている時間帯(10~18時)に発汗の増加がみられるのに対して、睡眠中は大脳皮質の活動が低下するため発汗も抑制されるという報告があります。
例えばプロバンサイン錠を1日3回飲む方の場合、仕事によるストレスや情動的刺激による発汗のタイミングを把握したうえで、8時、12時、16時というタイミングで使用することは有益なタイミングの一つと私は考えます。
この用法で使用し場合、16時に服用したプロバンサイン錠は22時あたりでは効き目がなくなります。この時点で体内には極微量のプロバンサインは流れている状態ですが、効果はほぼ消失していると考えて差し支えありません。そのまま就寝した場合、翌朝にはプロバンサインの効果は0と試算されます。
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長期間の服用について
薬が効いてくると汗は止まりますが、それと同時に口渇・頭痛・ほてり・動悸・便秘といった自覚症状が生じるケースがあります。すべて抗コリン作用の効果です。薬の効果が切れれば副作用も軽減します。
長期間、高用量の服用をつづけると目の調節障害を引き起こす可能性があります。プロバンサイン錠の抗コリン作用が持続的に続くと眼圧調節がうまくいかずに視野に障害が生じる方がおります。緑内障の方は服用できません。定期服用する方の場合は、念のため眼科の定期受診を推奨します。
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多汗症に対するプロバンサインの推奨レベル
掌蹠多汗症:C1
腋窩多汗症:C1~C2
頭部 顔面多汗症:B~C1
多汗症診療ガイドラインを確認したところ、掌蹠多汗症の第一選択肢としては20~50%塩化アルミニウム外用塗布、就寝時の閉鎖密封法(ODT)、イオントフォレーシス(手足に直流電流を流す治療)、などが記されており、内服薬は上記の治療に併用するか、上記の治療で効果がない場合に内服する感じの取扱いとなっています。