おじさん薬剤師の日記

調剤薬局で勤務するおじさんです。お薬のはたらきを患者様へお伝えします

抗コレステロール薬

ベンペド酸によるLDLコレステロール低下作用(スタチン療法への上乗せ効果)

投稿日:2020年7月15日 更新日:

ベンペド酸を最大耐用量スタチンを服用している患者へ上乗せした際の有効性について

追記:2020年7月15日

最大耐用量のスタチンまたは他の脂質異常症治療薬を服用している以下の疾患群にベンペト酸を投与した比較データが公開されました。

 

動脈硬化性心疾患または家族性コレステロール血症ヘテロ接合体、または両方を有する群に対して

1日1回180mgのベンペト酸を投与した場合と、プラセボを投与した場合の12週間後のLDL値の変化量

試験前の平均LDL-C値は107.6mg/dlでしたが12週間後には

ベンペト酸投与群:-16.0%

プラセボ投与群:+1.8%

 

同様にスタチン不耐性群に対して1日1回180mgのベンペト酸を投与した場合と、プラセボを投与した場合の12週間後のLDL値の変化量

試験前の平均LDL-C値は144.4mg/dlでしたが12週間後には

ベンペト酸投与群:-23.0%

プラセボ投与群:+1.5%

 

どちらの比較試験においてもベンペト酸を追加服用することでLDL-C値の減少が確認されました。また52週間の長期追跡試験においてもLDL-C値低下作用が維持されていたことが報告されております。ベンペト酸追加群にみられた主な有害事象は尿酸値上昇、痛風、GFR低下などでした。

ベンペト酸を追加した場合のLDL-C値ノ低下について

第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「CLEAR Wisdom試験」(2019年11月25日追記)

被験者:最大耐用量のスタチンで治療を受けているにもかかわらずLDLコレステロール値が70mg/dl以上の高コレステロール血症患者779例

1日1回:ベンペド酸180mgを服用した群(522例)

1日1回:プラセボ(偽薬)を服用した群(257例)

52週間投与を続けたデータです。

12週間服用時点での有効性について

LDL-コレステロール値

ベンペド酸服用群:-15.1%

プラセボ群:2.4%

総コレステロール値

ベンペド酸服用群:-9.9%

プラセボ群:1.3%

アポリポタンパクB値

ベンペド酸服用群:-9.3%

プラセボ群:3.7%

上記のデータより、スタチンを服用している患者さんに対してベンペド酸を追加投与することは悪玉コレステロール値をさらに低下させることがことが示唆されました。

筆者らは「長期服用による安全性を評価する必要がある」とまとめています。

有害事象:鼻咽頭炎・尿路感染症・高尿酸血症

ベンペド酸服用による悪玉コレステロール低下作用

ベンペド酸によるLDLコレステロール低下作用(スタチン療法への上乗せ効果)

 

ベンペド酸によるLDLコレステロール低下作用に関する報告が2019年3月14日付のThe New England Journal of Medicineに掲載されました。被験者は既存でスタチンの最大容量を服用しており、それに上乗せしてベンペド酸を追加したときにコレステロールの低下作用が確認されたとまとめられております(第三相試験)。以下に今回の報告内容の概要とベンペド酸の薬理作用、第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験に関する情報をまとめました。

ベンペド酸によるLDLコレステロール低下作用(第三相試験の概要)

 

被験者

アテローム性動脈硬化・家族性コレステロール血症(ヘテロ)またはその両方をもつ患者2230名。被験者は既存で最大耐用量のスタチン療法を受けており、それに上乗せする形でベンペド酸を服用した場合の有効性・安全性について調査が行われました。(52週中12週目のLDLコレステロールレベルに関する報告です)

ベンペド酸によるLDLコレステロール低下作用(第三相試験)

結果

被験者2230名中、1488名がベンペド酸を服用し、742名はプラセボ(偽薬)を服用するよう割り当てられました。

ベンペド酸服用群のLDLコレステロール値の平均変化(服用から12週目時点)

103.2mg/dl→84mg/dl(19.2mg減少を確認、ベースラインからの変化は-16.5%、対プラセボとの変化率:-18.1%)

最大耐用量のスタチン療法に追加してベンペド酸を服用することは、LDLコレステロール値を有意に減少させる結果となりました。

パルモディア錠(ペマフィブラート)とリピディルとの比較データ

有害事象

ベンペド酸服用群:1167人/1487人(78.5%)

プラセボ服用群:584人/742人(78.7%)

 

重篤な有害事象

ベンペド酸服用群:216人/1487人(14.5%)

プラセボ服用群:104人/742人(14.0%)

両群間での有害事象の発生率に有意差はありませんでした。

 

投与中止に至る有害事象発生率

ベンペド酸服用群:162人/1487人(10.9%)

プラセボ服用群:53人/742人(7.1%)

 

痛風発生率

ベンペド酸服用群:18人/1487人(1.2%)

プラセボ服用群:2人/742人(0.3%)

ベンペド酸がLDLコレステロール低下させる薬理作用

 

ベンペド酸はATPクエン酸リアーゼ(ACL)のはたらきを阻害することでLDLコレステロールの合成を抑えるはたらきがあります。

 

ATPクエン酸リアーゼは肝臓や白色脂肪組織などの脂質を合成する組織に多く発現している酵素です。ヒトのコレステロール生合成経路は以下の図のようにクエン酸とATPとCoAからアセチルCoAを生成することが起点となるわけですが、ATPクエン酸リアーゼは、この合成段階を阻害することで、LDLコレステロールの合成を抑制する働きがあります。

スタチン系の薬はHMG-CoA還元酵素を阻害する働きでコレステロールの合成を抑制する働きですので、ベンペド酸はその経路の上流段階を阻害する働きであることがわかります。

スタチンとフィブラートの併用が可能になる(2018年10月16日)

ベンペド酸の特徴

 

内服薬です。

1日1回の服用で半減期は15~24時間

内服後は小腸から吸収されるのですが、ベンペド酸は分子量が小さい製剤であり、肝臓に取り込まれる際の肝臓表面の受容体(入口)はスタチン系のトランスポーター(入口)とは異なります。そのため、スタチン系の薬と競合して肝臓に取り込まれることはありません。

(肝臓へ取り込まれる際にスタチン系の薬とベンペド酸が互いの働きを阻害することはありません)

 

ベンペド酸はプロドラッグであり、肝臓にあるアシルCoAシンテターゼによって活性をうけてから肝臓におけるコレステロールの合成を抑制します。理論的には肝臓で活性化されて効果を発揮する薬ですので、スタチン系のような筋肉痛関連の副作用は生じにくいのではないかと示唆している記述がみられました。

 

ベンペド酸による第Ⅰ相試験

健康な被験者24人に2週間ベンペド酸を投与したデータによると、1日140mg、180mg、220mgを被験者に投与したところ、プラセボ群(偽薬服用群)のLDLコレステロール値が4%上昇したのに対して、ベンペド酸220mg服用群でLDLコレステロール値の36%減少が確認されています。重大な有害事象は確認されておりません

 

ベンペド酸第Ⅱ相試験

ベンペド酸を1日1回80mgを2週間服用後、次の2週間は1日1回120mgへ増量した結果、4週間後のLDL-コレステロール値のが平均で43%減少した(プラセボは4%)

スタチン不耐性患者におけるゼチーアとベンペド酸との比較および併用効果

 

スタチンが効かない“スタチン不耐性患者さん”に対してゼチーアとベンペド酸を比較または併用したときのデータとしては12週間のデータによると、ゼチーア単独服用群と比較してベンペド酸単独服用群ではLDL-C値の減少率が最大で30%有意に高いデータが観察されております。さらにベンペド酸服用群におけるLDL-C減少は服用開始から2週間以内に効き目があらわれています。

 

スタチン不耐性患者さんにおいて、ベンペド酸治療における筋肉関連の有害事象に関しては、ゼチーア服用群と比較して増加は確認されておりません。

 

ベンペド酸とゼチーアを併用した群では最大で48%のLDL-C低下作用が確認されました。2剤組み合わせによる安全性・認容性は高いことが示唆されています。

 

高用量スタチンについて

 

スタチン系の医薬品はLDL-Cの低下作用によって冠状動脈疾患・心血管疾患のリスクを軽減することが知られていますが、有効性の高いスタチン系製剤は、筋肉関連の副作用(横紋筋融解症な)が知られているため、最大用量で処方することが懸念されるという背景もある薬です。ベンペド酸は現在第三相試験が行われている製剤ですが、スタチン系と比較して、“筋肉関連の副作用が少ない”という現在の報告が維持されるのであれば、臨床上非常に有用な薬剤となる可能性を秘めています。

ベンペド酸によるコレステロール低下作用の報告(第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験を含む)

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-抗コレステロール薬
-LDL, コレステロール, スタチン, ゼチーア, ベンペド酸

執筆者:ojiyaku


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