産後の腰痛のために、痛み止めの湿布剤やテープ剤が処方されることがあります。国内での使用量が多いモーラステープについて、貼付後の乳汁中への移行性および乳児に対する安全性についてしらべてみました。
妊娠後期:禁忌
妊娠後期以外、授乳婦:安全性は確立されていない。有益性が危険性を上回る場合に使用する
よく目にする内容が記載されています。より具体的な内容を調べてみたのですが湿布剤/テープ剤に関する具体的な情報を得ることはできませんでした。
しかし、モーラステープの成分であるケトプロフェンを服用または静脈注射した時のデータをLACTMEDで確認することができました。
産後2~3日間、1日2回ケトプロフェン100mgを18人の女性に静脈内投与した後、母乳中に含まれるケトプロフェン濃度を測定したデータを確認しました。それによると、採取した母乳61サンプル中、17サンプルでは、ケトプロフェン濃度が20μg/L以下だったため測定することができませんでした。検出不能サンプルについてはケトプロフェン濃度を20μg/Lと仮定し、検出可能サンプルとの平均ケトプロフェン濃度を57μg/Lと算出しています。
完全授乳児の場合、上記の仮定では1日でケトプロフェンを8.5μg/kgを摂取することになります。母親のケトプロフェン投与は1日で2.69mg/kg(静注)ですので、約300分の1量(0.31%)を乳児が経口摂取したことになります。このデータにはケトプロフェンを0.31%濃度で摂取した乳児の体調に関しての記載はありません。
次に、フランスの報告によると授乳婦がケトプロフェンを服用した場合、174例中8例の乳児で有害反応が確認されたという報告があります。
このためケトプロフェン製剤の内服や注射に関しては、母乳中への移行性は低いものの、副作用報告があるため、新生児や低出生体重児の場合は、他剤の方が好ましいという解釈がLACTMEDによりなされています。以上のことからわかることは投与量は不明ですが母親が内服または注射をすると乳児4~5%という率で乳児に有害反応が現れる可能性があるということです。
ここまではケトプロフェン製剤の内服や注射剤の話です。今回のテーマは「授乳婦とテープ剤」ですので、テープ剤を使用したときのケトプロフェン製剤の体への蓄積、乳汁中への移行について、上記データをもとに推測してみます。
日本国内ではケトプロフェン製剤の内服薬はありませんが、下部消化管からの吸収経路の薬では坐剤がありますので坐剤を使用した場合を例に考察してみます。
ケトプロフェン坐剤1本75mgを投与すると血中に入る薬の総量は15500ng/ml(AUC)となります。坐剤は1日2回まで使用できますので、単純にAUCが2倍となるかはわかりませんが、仮に2倍とすると31000ng/ml(AUC)とします。フランスでの内服による副作用報告(8/174例)での投与量がわからないのですが、常用量であれば内服剤と坐剤に極端なAUC差はないものと想定します。
ケトプロフェンの注射剤にはケトプロフェン筋中50mgという製剤が国内にあります。最大使用量は適宜増減を含めて1日200mgまでです。先ほど記載した産後2~3日間に使用した注射剤のデータは静脈注射でしたので厳密には投与経路が違うのですが、200mg/日(2.69mg/kg)で使用したデータとなっていますので、国内の添付文書に記載されている血中濃度とリンクさせてみます。
ケトプロフェンを注射剤として200mgを投与した場合、母親の血中に入る薬の総量はおよそ40000ng/ml(AUC)となります。
最大量の坐剤を投与した際のAUCが31000ng/mlで、最大量の注射剤を投与した際のAUCが40000ng/mlですので、おそらくですが、30000~40000ng/ml程度のケトプロフェン量が1日最大投与量なのでしょう。
さて、ここでモーラステープ20mgを24時間貼付したときのAUCを確認してみると
モーラステープ20mgを1枚貼付した時のAUC:2447ng/ml
モーラステープ20mgを8枚(モーラステープ40mgを4枚)貼付した時のAUC:18210ng/ml
上記のデータからモーラステープは貼付量におおよそ比例して吸収量が増えることが示唆されます。
内服または坐剤のAUCと比較すると、モーラステープ20mgまたはモーラステープL40mgを1枚背中に貼ると24時間で、ケトプロフェン坐剤や点滴を最大使用したときの5~10%程度が体に入ることがわかります。
憶測の領域は超えませんが、最初に記載した海外での使用データと間接的に比較しますと、モーラステープL40mgを24時間貼付すると、ケトプロフェンを最大量静脈投与または坐剤から投与した場合の約10%程度が血液中に入る計算となるものと示唆されました。
モーラステープを1枚貼付した際に、母乳を介して乳児がケトプロフェンを摂取する具体的な量はわかりません。上記のことを踏まえると、おそらく測定限界以下となるでしょう。海外のデータでは母体静脈注射後の乳児の摂取量が対母親摂取比で0.31%とされていましたので、テープ剤の場合は、その10分の1程度または、それ以下(0.031%以下)となり計測限界を下回ることが示唆されます。
記載したデータはすべて想定と仮定をもとにしており、添付文書に記された数値を並べているだけです。あくまでも憶測ですが、私の個人的なまとめを記します。
モーラステープの成分”ケトプロフェン”などのNSAIDS剤は、酸性、低脂溶性、高いたんぱく結合率という特徴を備えているため、血中から母乳中には移行しにくいという特徴がある製剤です。さらに上記しました血液中のモーラステープ成分が母乳に移行する量を踏まえますと
「授乳中なんですがモーラステープL40mgを1枚腰に貼ってもいい?」
と質問を受けた場合は
「母乳中には、ごく微量しか薬の成分が含まれませんので、乳児に血液関係の病気(血小板減少症など)がないのであれば、差し支えありません」
とお伝えします。
「授乳婦でモーラステープL40mgを腰と両腕で1日4枚(AUC:18210ng/ml)以上貼りたいという方がいらっしゃれば、有益性が危険性を上回るかどうか念のため主治医に確認します」
という対応をとります。
(モーラステープL40mg4枚のAUC量は内服薬に匹敵する血中濃度を示すため、小児への有害事象の可能性がゼロではないと考えるためです。)