前兆を伴う片頭痛患者には低用量ピルは禁忌なのに、ピル以外のエストロゲン製剤には「片頭痛禁忌」の文言がない件について(自分まとめ)
私は脳神経外科の門前薬局で勤務しているのですが、ピルを定期服用している女性が頭痛で病院を受診し「片頭痛」と診断をうけて片頭痛の薬をもらいに薬局に来られることがあります。
ピルを定期服用していることを確認後、片頭痛治療薬をお渡しする際には
「前兆(閃輝暗点、星型閃光等)を伴う片頭痛」であるかどうかは必ず確認します。前兆を伴う片頭痛である場合は、脳血管障害(脳卒中など)のリスクが高くなる報告がありますので、ピルを定期処方している医師へ「前兆を伴う片頭痛とピル」について相談するよう促します。
上記の流れは私のルールブックなのですが、「前兆を伴う片頭痛とピル」については、なんかこう自分の中ではっきりしない点があるなぁと感じていたので、以下のポイントに関して自分まとめを作成しました。
・低用量ピル(エストロゲンとプロゲステロン)と片頭痛の関係
・低用量ピルと脳血管障害の関係
・エストロゲン製剤(プレマリン錠やディビエゲル錠)には「片頭痛禁忌」が記載されてない点
1:低用量ピル(エストロゲンとプロゲステロン)がもたらす片頭痛の作用について
前兆を伴う片頭痛に禁忌とされる低用量ピルには、エストロゲン製剤として「エチニルエストラジオール」が含まれており、プロゲステロン製剤として「レボノルゲストレルなど」成分が含まれている(プロゲステロン製剤、医薬品ごとに成分が異なります)
片頭痛や脳血管障害と関連する成分はエストロゲン製剤(エチニルエストラジオール)ですので、以下はエストロゲン製剤に話を絞って記載します。
脳内において、エストロゲンの量が急激に減少すると、セロトニン神経の働きが低下し、脳の血管が拡張することが報告されています。拡張した脳血管は三叉神経を刺激して片頭痛を引き起こすわけです。
例えば女性の場合は、妊娠中はエストロゲン分泌が上昇するため片頭痛が起こりにくくなることが報告されています。逆に月経サイクル期間ではエストロゲンの変動が片頭痛発作を引き起こす要因と示唆されています。
低用量ピルを服用する場合、3週間連続でピルを服用後に1週間のプラセボ(偽薬)服用機関をもうける場合があります。このプラセボ(偽薬)服用中は体内にエストロゲンは投与されませんので、エストロゲンが減少することによる片頭痛が引き起こされるケースがあるわけです。
(ピルを服用している女性は服用していない女性と比較して片頭痛の発症リスクが1.4倍という報告があります。)
休薬期間に片頭痛発作発症を改善する目的で2017年からは連続投与用のピルが日本国内でも販売することができるようになっています。
ここまでの内容を踏まえると「毎日ピルを飲んでいる状態であれば、エストロゲン減少に伴う片頭痛は生じにくいはずなので、大丈夫なんじゃない?」と考えたくなるわけですが、ピルを継続服用すると「血栓症」の問題が出てくるわけですね。
そこで次の話題「低用量ピルと脳血管障害」へ話が進みます。
低用量ピルとして処方される薬剤は以下の通りです。
アンジュ
レボノルゲストレル0.05mg
エチニルエストラジオール0.04mg
シンフェーズ
ノルエチステロン0.5mg
エチニルエストラジオール0.035mg
ジェミーナ配合錠
レボノルゲストレル0.09mg
エチニルエストラジオール0.02mg
トリキュラ
レボノルゲストレル0.05mg
エチニルエストラジオール0.03mg
ファボワール
デソゲストレル0.15mg
エチニルエストラジオール0.03mg
マーベロン
デソゲストレル0.15mg
エチニルエストラジオール0.03mg
ヤーズ配合錠
ドロスピレノン3mg
エチニルエストラジオール0.02mg
ラベルフィーユ
レボノルゲストレル0.05mg
エチニルエストラジオール0.03mg
ルナベル配合錠
ノルエチステロン1mg
エチニルエストラジオール0.035mg
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2.低用量ピルと脳血管障害について
低用量ピルに含まれているエストロゲンは肝臓で血液を固まらせる成分の合成を促す作用を持っています。そのためエストロゲン製剤を服用する際は、静脈系の血栓(二次止血の促進)について十分な注意が必要となります。
一般的に女性の脳梗塞発症リスクは1年間で10万人にあたり3.56人と報告されていますが、片頭痛を有する女性がピルを使用している場合の脳卒中発症リスクは1年間で10万人あたり7.02人と2倍程度上昇しております。
前兆を伴う片頭痛患者がピルとともに喫煙歴があると、脳卒中発症リスクは10人にまで上昇すると報告されています。
2018年の報告では、ピルを定期服用する片頭痛患者のうち、前兆を伴わない片頭痛患者の脳梗塞発症リスクは1.77倍であったのに対し、前兆を伴う片頭痛患者における脳梗塞発症リスクは6.1倍であったという報告があります。尚、エチニルエストラジオールの含有量と脳梗塞の発症リスクに関する影響については報告が確認できませんでした。
3.エストロゲン製剤(プレマリン錠やディビエゲル錠)には「片頭痛禁忌」が記載されてない点
これまでの調べで、前兆を伴う片頭痛患者が低用量ピルを使用すると「脳梗塞の発症リスク」が6倍に上がるという報告があるため禁忌です。ということはわかりました。では低用量ピルで使用することがないエストロゲン製剤について添付文書の禁忌項目を確認してみます。
プロキセソール0.5mg(エチニルエストラジオール0.5mg)
この薬は前立腺癌、閉経後の末期乳癌患者に使用する製剤です。低用量ピルに含まれるエストロゲン製剤と同じ成分を1度に10~15倍の量を飲む製剤ですが、「前兆を伴う片頭痛に禁忌」のコメントはありません。
プラノバール(エチニルエストラジオール0.05mg/ノルゲストレル0.5mg)
この薬は「中用量ピル」に」該当します。低用量ではないため「前兆を伴う片頭痛に禁忌」のコメントはありません。
ジュリナ0.5mg(エストラジオール)
エストラーナテープ(エストラジオール)
ディビゲル1mg(エストラジオール)
上記3剤はエストロゲン製剤ではありますが、エチニルエストラジオールと比較すると主成分の力価が低いと言われる「エストラジオール」製剤です。
それが理由かどうかは知りませんが「前兆を伴う片頭痛に禁忌」のコメントはありません。
また、増量することはあっても定期的な減量や休薬サイクルを行う製剤ではないため、エストロゲン製剤としての体内動態に大きな変動がないことも要因なのかもしれません。
まとめ
・前兆を伴う片頭痛患者に低用量ピルが禁忌の理由は、脳梗塞発症リスクが6倍程度まで上昇するため
・体内のエストロゲン量の減少がセロトニンを減少させ脳血管を拡張させることで三叉神経経由の片頭痛が生じる
・低用量ピル以外のエストロゲン製剤については「前兆を伴う片頭痛に禁忌」のコメントはない。