モーラステープとロキソニンテープは年間販売額および使用量が多い貼り薬です。厚生労働省の”代表的な湿布薬”の使用状況調査にも利用されていますので全国の医療機関で非常に多く処方されていることがわかります。
整形外科の門前薬局で貼り薬を患者さんにお渡ししていると、「ロキソニンテープとモーラステープはどっちがよく効の?」
「モーラステープとモーラスパップはどちらが効くの?」
といった質問をうけることがあります。貼り薬の効果は「本人の体感」によるものが大きく、一概にどちらが良いという話ではないのですが、2剤をデータ上から比較してみるとどのような結果が得られるか気になったので調べてみることにしました。
モーラステープとロキソニンテープを直接比較したデータを見つけることはできませんでしたが、モーラステープ、モーラスパップ、ロキソニンパップ、ロキソニンテープという4剤の比較データを組み合わせることで何か得られるデータがないかどうか検証してみました。
ロキソニンテープとロキソニンパップの効能効果は同じであることは、販売メーカーの第一三共がインタビューフォームの中で明示されています。ロキソニンテープに関する臨床データは少ないのですが、ロキソニンパップのデータは豊富にあります。そこでまずはロキソニンパップとモーラスパップの比較データを確認してみます。
モーラスパップXR120mgの効果とケトプロフェンテープ(後発医薬品)の膏体濃度について
○急性炎症モデル(ラットの浮腫をどれだけ抑制したかを示すデータ)
ロキソニンパップ1%:30%抑制した
モーラスパップ0.3%:25%抑制した
○慢性炎症モデル(ラットの足の腫れをどれだけ小さくしたかを示すデータ)
ロキソニンパップ1%とモーラスパップ0.3%とで同程度の作用を示している
○鎮痛作用(ラットを対象とした痛みに対する閾値の上昇度合)
ロキソニンパップ1%:+2
モーラスパップ0.3%:+0.75
いずれも上昇している
モーラスパップXR120mgの効果とケトプロフェンテープ(後発医薬品)の膏体濃度について
○鎮痛作用陽性例(痛みを与えた時に啼鳴しなかった回数)
ロキソニンパップ1%:1回
モーラスパップ0.3%:2回
あくまでラットを対象とした抗炎症、鎮痛作用を示すデータですが、抗炎症および鎮痛作用に関してロキソニンパップ1%がモーラスパップ0.3%と同程度あるいは、それ以上の作用を示したという報告を第一三共はIFの中で記載しています。
モーラスパップ0.3%とモーラステープ2%を健康成人の皮膚に貼ったときの角層中にモーラスの成分(ケトプロフェン)がどれだけ浸透したかを示すデータを確認してみると
貼付後4時間では
モーラスパップ0.3%:10㎍
モーラステープ2%:40㎍
貼付後12時間
モーラスパップ0.3%:12㎍
モーラステープ2%:40㎍
貼付後24時間
モーラスパップ0.3%:15㎍
モーラステープ2%:23㎍
上記データは、モーラステープを1日1枚、モーラスパップを12時間ごとに1日2回貼り替えて貼付した時の皮膚移行性を確認したデータです。その結果、モーラステープは貼付後、半日ほどしっかりとした鎮痛作用が続き徐々に効果が下がっていく製剤であることが分かります。
モーラスパップは1日2回貼り替えて使用すると、皮膚への浸透性はモーラステープに比べて低め安定した効果が続く(微増する)製剤であることが分かります。
モーラスパップが0.3%であるのに対してモーラステープは2%製剤ですので、その濃度差は6.7倍です。パップ剤とテープ剤ですので、それぞれの製剤特性はあるかと思いますが、6.7倍の濃度差の貼り薬を貼付すると4時間後の皮膚角層中の濃度差がおよそ4倍であることが分かります。
さらに上記皮膚角層中濃度を示した時の両薬剤についての血中濃度を確認してみると
モーララスパップ0.3%が30~40ng/ml
モーラステープ2%では100~130ng/ml
という血中濃度が確認できます。皮膚角層中濃度に比例する形で血中濃度でも3~4倍モーラステープの方が高いことが確認できました。
さらにこれらの濃度に比例して鎮痛作用も増えていくかというとそうではなく、モーラステープのインタビューフォームにはモーラスパップと同程度の有効性があると記載されているだけで、モーラステープの方がよく効きますという記載はありません。両製剤の鎮痛作用に関しては、貼り薬を使用したことで著明改善した割合を確認してみるとモーラステープの方が多いというデータがあるのですが、U検定の結果、効果に関して有意差なしと記載されています。
これまでのデータからモーラステープ2%とロキソニンパップ1%が、モーラスパップ0.3%に対して同等以上の抗炎症・鎮痛作用があることが示されました(ラット対象のデータを含む)。ロキソニンパップ1%とロキソニンテープの効果は同等ですので、ロキソニンテープもモーラスパップ0.3%に対して同等以上の作用があることが示唆されます。
臨床データとしては、両製剤ともに変形性関節症や筋肉痛に対して60~80%の効能が確認されており有用な薬剤であることにかわりありませんが、さらに詳細な効果の差を確認するために両製剤について、皮膚角層中への浸透度合いやロキソニンの活性代謝物の量なども検証してみた。
しかしモーラステープの成分「ケトプロフェン」とロキソニンテープの活性代謝物「trans-OH体」についての力価比(どれくらい効くかの割合)を探り当てる事ができず、両製剤の効果を具体的に比較するには至りませんでした。残念ながらモーラステープとロキソニンテープの効き目を比較することはできませんでしたが、調べていく中で確認できた製剤特性がいくつかありましたので記載します。
・モーラスパップ0.3%に比べて皮膚角層中への移行割合が4倍高い
・モーラスパップ0.3%と同等の鎮痛作用がある。
・貼付後12時間は鎮痛効果が安定し、その後効果は下がるものの24時間を通してモーラスパップ0.3%よりも角層中成分濃度が高い状態を維持することができる
・皮膚に浸透した成分がそのままの形で鎮痛作用をしめすため効き目が早い
・皮膚から吸収されたのち、一度皮膚または筋肉層にて活性代謝物trans-OH体へ代謝されてから鎮痛作用をしめす。
・未変化帯ロキソプロフェンは投与後4時間で血中濃度のピークとなるのに対し、trans-OH体は投与後6時間でピークをむかえる。そのためロキソニンテープは貼付後2時間ほど経過すると充分な作用が期待できるものと思われる
・皮膚に浸透した成分のおよそ4割がtrans-OH体となり鎮痛作用を示す。
・12時間貼付後にはがしても24時間まで効果が持続する
・ロキソニンテープ100mg中、成分の1割(ロキソプロフェン:10mg)が数時間かけて皮膚に浸透する