おじさん薬剤師の日記

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外用ステロイド薬に貼り薬が少ないわけ(ステロイドテープ剤が少ないわけ)

投稿日:2017年11月18日 更新日:

外用ステロイド薬に貼り薬が少ないわけ(ステロイドテープ剤が少ないわけ)

外用薬のステロイド製剤の種類を確認してみると、軟膏やクリーム、ローションは多くの種類があるのに対して、貼り薬が2種類しかありません。ドレニゾンテープとエクラープラスターです。今回は外用ステロイド薬に貼り薬が少ない理由をしらべてみました。

〇外用ステロイド貼付薬”ドレニゾンテープ”について

ドレニゾンテープの成分はフルドロキシコルチドですが、フルドロキシコルチド軟膏(またはクリーム)という製剤はありません。仮にフルドロキシコルチコヂオ軟膏という製剤があったとして、この製剤をステロイドランクで分類すると「weak」に相当します。一番弱いわけです。しかし、これが密封テープ剤として使用されると「strong」(上から3番目)相当までに強さがランクアップします。

ステロイド含有貼り薬であるエクラープラスターの強さを調べる

密封型ステロイドテープ剤を患部に貼付すると、文字通り患部が密封されます。すると汗の発汗や表皮内のリンパ迷路がもたらす水分の蒸散が防止されます。そのため角質層が柔らかくなり「角質層バリア」が破壊されます。

さらに毛のう内物質も軟らかくなりステロイドの浸透が促されます。(イメージとしてはぬるま湯に指をつけてフヤフヤになった状態がずっと続いている皮膚にステロイドを塗るような感じでしょうか。)その結果、軟膏やクリームにくらべてステロイドテープ剤の吸収量が数倍に増えることがわかっています。weakの強さであるドレニゾンをテープ剤にすることでstrongに強さが増したのもこれが理由です。

小児がステロイド軟膏をなめる、少量たべるとどうなるか

〇ステロイド剤の密封療法(ODT)・重層療法について

ステロイドテープ剤の種類が少ないかわりに、皮膚科医は軟膏やクリーム剤の使用方法を変えることによって、その効果を増幅しています。

・重層療法
患部にステロイド軟膏を塗布し、その上から亜鉛華軟膏が塗られたシート(ボチシートなど)を貼りつけます。ジクジクとした湿疹を保護できるほか、ひっかき傷も防止することができます。さらに、湿疹部位から出てくる浸出液を亜鉛華軟膏が吸収してくれます。

また、亜鉛華軟膏が湿疹部位からでてくる角質やかさぶたを取り込む効果も期待されます。亜鉛華軟膏シート(ボチシート)は患部を半密封することができるので患部の角質バリア層がくずれステロイドの吸収量が増えます。これによりステロイド軟膏の単純塗布に比べてすぐれた効果を得ることができます。

 

・密封療法(閉鎖包帯療法、ODTと言うこともあります)
皮膚の疾患部位に塗り薬の効果を増やしたい時に短期間に使用する方法です。皮膚に軟膏やクリームを塗布し、ラップフィルムで患部を覆って密封します。

すると患部からの水分蒸発がさまたげられ患部の角質バリア層が破壊されるためステロイド軟膏の吸収量が上がり数倍の薬効が期待できます。角質層を水分で満たして破壊する手法であるため軟膏よりもクリーム剤(より水溶性)の方が効果が増します。

つまり、軟膏やクリームがあればその使用方法を変えることでドレニゾンテープのような効果が期待できるわけです。しかし、効果が数倍にあがることから、患者さん個人の判断で行うのではなく医師の指示のもとに行うべき手技であることがわかりました。

次に、密封療法を行うと効果が数倍になるという記載は多く見られますが具体的に何倍程度になるのか、また吸収量が上がることで体内への負担はどれほどふえるものなのかを調べてみました。

 

〇密封療法(ODT)を行った時の効果について

ステロイドのデータではないのであくまで参考程のデータなのですが、単純塗布と密封療法の比較データとしてボルタレンゲルを1日7.5g1週間反復投与したときの吸収量を確認したデータがあります。体に蓄積していく薬の量(AUC)で吸収量を見てみると1日で単純塗布25ng時/mlに対して密封療法では821ng時/mlにまで吸収量が増えます。

具体的な鎮痛効果はわかりませんが、吸収量(体内に吸収され肝臓や腎臓で排泄される必要がある量)が30倍以上に増えるということを意味します。また、ボルタレン錠25mgを1錠飲んだ時のAUCが998ng時/mlであることから密封療法における皮膚からの吸収量は内服薬に相当する量が吸収されていることがわかります。

1週間反復投与を行った結果、単純塗布のAUCは27ng時/mlであり1日目と数値に大きな変化はありませんが、密封療法ではAUCg2348ng時/mlにまで上がったというデータがあります。ボルタレンゲル7.5gという量は極端な例かなとも想いますが、密封療法の具体的な吸収量が記載されていたので参考にさせていただきました。

またリンデロンVクリームのインタビューフォームにはリンデロンVクリーム10g/日、30g/日を夜間14時間の間だけ密封療法(ODT)連続塗布したときの血漿コルチゾール低下量について示されたデータがあります。一般的な血漿コルチゾールの正常域は12μg/dlほどですが、リンデロンクリームを夜間14時間密封療法を行うと10g塗布で5μg/dl、30g塗布で2.5μg/dlにまで血漿コルチゾール値が低下します。(塗布中止後は速やかに回復します)

さらに、塗り薬の密封療法での体内吸収量と内服薬の吸収量を比較してみます。
リンデロン錠1錠(0.5mg)=strongestステロイド軟こう(クリーム)5gを密封療法で塗布=strongestステロイド軟こう(クリーム)10gを単純塗布
というデータがあります。

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軟膏が皮膚から吸収されるまでの時間について

J-stageで掲載されている皮膚科領域のPDFをいくつか確認したところでは密封療法により3倍~効果が上がるという記載がみられました。

〇まとめ

ステロイド密封療法を行うと効果及び体内への吸収量は確実に上昇します。それと同時にステロイド作用により免疫力がさがり患部の角質層バリアがくずされるため感染率があがることが懸念されます。これらのことから密封療法は皮膚科医の指示のもとに行う治療であることがわかりました。そのため医療用医薬品として認可されている密封型ステロイドテープ剤の種類が少ないことの理由なのかなぁという終着点としました。

 

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執筆者:ojiyaku


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