エパデールEMカプセル2gの吸収性について(自分まとめ)
エパデールEMカプセル2㎎はエパデールカプセルをエマルジョン化した製剤であり、吸収性を高めたというメリットがある医薬品です。
既存のエパデールSを服用した場合、消化管で胆汁酸とエパデールSが混ざり合ってエマルジョンとんり、その後にミセルとなって小腸上皮細胞から吸収されるという経緯を経ていたわけですが、この場合、エパデールSを服用する直前に摂取した食べ物によって胆汁酸の分泌量がことなるので、エパデールSの吸収にはどうしてもバラツキが生じてしまうというのが実情でした。
しかし、エパデールEMではそれ自身がエマルジョン化した製剤ですので、胆汁酸の分泌量に大きく依存せず、小腸上皮細胞から吸収されるというメリットが期待される製剤です。
実際、エパデールEMを食直後に服用した場合と比較すると、空腹で使用した場合の吸収率は70%程度となり、吸収率は30%程度減少します。
一方で、既存のエパデールSでは食直後に服用した場合と比較して、空腹で使用した場合は血漿中のイコサペント酸の濃度の上昇はほとんどみられなかったという記載があることから、絶食下において、胆汁酸の分泌が無い状況下であるため、エパデールSがほとんど吸収されていないことが伺えます。
エパデールSもエパデールEMも半減期は40時間程度と長い製剤ですので、1日1回の服用でよいはずですが、エパデールSの場合は、一緒に摂取する食べ物によって(胆汁酸の分泌によって)吸収量が大きく異なると言うと特徴があるため、吸収量を平均化するという意味では1日2回、または3回に分けて飲む方が効き目が安定するのかもしれません。
一方でエパデールEMでは、エマルジョン化させることで、吸収率を大きく上昇させた製剤であるため、1日1回の使用で十分な効果が期待さえることが示唆されます。
最後に、適応症の「高脂血症」以外の作用として「抗血栓作用」「抗動脈硬化作用」についても下記します。
(ⅰ)血小板凝集抑制作用(ex vivo)3)
各種血栓性・動脈硬化性疾患患者(ASO等)にEPA-E 900~2700mg/dayを8週間経口投与したところ、コラーゲン(1.0μg/mL、1.5μg/mL)、エピネフリン(0.5μg/mL)惹起による血小板凝集は有意に抑制された。
(ⅱ)血小板粘着能抑制作用(ex vivo)3)
各種血栓性・動脈硬化性疾患患者(ASO等)にEPA-E 1800mg/dayを16週間経口投与したところ、血小板粘着能は、8週後より有意(p<0.01、Paired t-test)に抑制された。
抗動脈硬化作用
(ⅰ)摘出大動脈の伸展性保持作用(ウサギ)41)
EPA-E 30mg/kg/dayを1%コレステロール食飼育ウサギに12週間経口投与したところ、コレステロール負荷により低下した摘出大動脈の伸展性は有意に抑制され、普通食飼育ウサギの大動脈と同等の伸展性を保った。
すなわち、コレステロール食飼育による摘出大動脈の内圧上昇に要する緩衝液量の減少は、EPA-E投与により有意に抑制された。
(ⅱ)脈波速度(PWV)に及ぼす影響
・エパデールの高脂血症または閉塞性動脈硬化症患者への長期投与は大動脈脈波速度(PWV)値の上昇を抑制した 42)。
高血圧、高脂血症、糖尿病、痛風、脳血管障害、虚血性心疾患を含む動脈硬化群58例、動脈硬化性疾患を含まない対照群258例、高脂血症または閉塞性動脈硬化症を合併した動脈硬化群にエパデール1800mg/日を5年間投与したEPA投与群65例を対象に、観察期間である5年間の中で1年ごとにPWVを測定した。また、実際に検査したPWVに該当する検査年齢と被験者の暦年齢の差を⊿PWVageとした。⊿PWVから求めた回帰係数は、対照群に比し動脈硬化群が約1.9倍高い勾配で推移した。一方、EPA群は対照群を下回る低い勾配で推移し、動脈硬化群とは3年目から有意な差を認めた。
また、PWVの⊿検査年齢は5年後、対照群+1.0歳、動脈硬化群+7.2歳に対し、EPA群は-3.0歳で動脈硬化群との差は-10.2歳であった。
エパデールEMカプセル2gとロトリガ粒状カプセル2gを比較してみる?
エパデールSを製造販売している持田製薬から、新たに「エパデールEMカプセル2g」が医薬品として承認申請されました。
既存のエパデールSの効能効果が
「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善」
であったのに対して、新発売される「エパデールEMカプセル2g」の効能効果は
「高脂血症」
です。用法用量は1日1回の食直後(1回4g、1日1回まで増量可能)となっています。
注)エパデールEMカプセル2gの開発コードは「MND-2119」です。
何となくですが、武田薬品が製造販売している「ロトリガ粒状カプセル2g」と、そっくりではないですか?と思ったのでロトリガ粒状カプセル2gの適応症・用法用量を確認してみると
ロトリガ粒状カプセル2g
適応症:「高脂血症」
用法用量:1回2g1日1回、食直後に経口投与する。ただし、トリグリセライド高値の程度により1回2g、1日2回まで増量できる
としています。
唯一の違いは、エパデールEMカプセル2gが1回4gを特徴としているところでしょうか。
エパデールEMカプセル2gは臨床試験段階で1日1回投与で投与設計されていました。その特徴として、主成分であるイコサペント酸エチルに乳化剤を加えて、消化管からの吸収を工夫したために1日1回の投与が可能となったとしています。
以下にエパデールEMカプセル2gとロトリガ粒状カプセル2gに違いがあるのかどうか私なりの解釈を記します。
結論から先に記しますと、私個人としては「同じだろうなぁ」です。
エパデールEMカプセル2gの臨床データが開示された段階で、高脂血症に対する上記2剤の臨床データを比較してみようと思いますが、おそらく大差ないだろうなぁと思っています。
2022年6月にエパデールEMカプセル2gの承認を取得した理由としては、2022年6月に「ロトリガ粒状カプセル2gのジェネリック医薬品が発売されるため」、いわゆるオメガ3系の高脂血症治療剤を見直す良い機会となる可能性があり、その時に「ババーン:新商品のエパデールEMカプセル2gです」とアピールできれば、ロトリガ粒状カプセル2gが占めていたシェアをエパデールEMカプセル2gが獲得できるかもしれない!という狙いがあるのかなぁ・・・と個人的には想像したりします。
以下にエパデールEMカプセル2gとロトリガ粒状カプセル2gに違いがあるのかどうかに関して、私なりの解釈を記します。
エパデールEMカプセル2gの主成分は「イコサペント酸エチル」であり、ロトリガ粒状カプセル2gの主成分は「オメガ‐3脂肪酸エチル」です。
ロトリガ粒状カプセル2gの成分について言及しますと、「オメガ‐3脂肪酸エチル」とは”イコサペント酸エチル”と”ドコサヘキサエン酸エチル”をという2つの脂肪酸をメインとして総称した名前です。
ロトリガ粒状カプセル2gの添付文書やインタビューフォームには「イコサペント酸エチル」と「ドコサヘキサエン酸エチル」という2つの成分の含量は記載されていませんが、ロトリガ粒状カプセル2gについて記した個人のホームページをいくつか調べてみたところ
ロトリガ粒状カプセル2g中に
イコサペント酸エチル:750mg
ドコサヘキサエン酸エチル:930mg
が含有されていると記載されたページがいくつか散見されました。残りの320mgはその他のオメガ3系脂肪酸が含まれているのでしょう。
ここで度々記載される「オメガ-3」という表現について補足します

ω3
オメガとは一番左という意味で、「3」とは左から数えて3番目の炭素に二重結合があるという意味です。
上図で確認してみると、イコサペント酸エチルもドコサヘキサエン酸エチルも左から三番目の炭素(C)に二重結合があることがわかります。
ここ最近では、「オメガ3」または「n-3系」とも表現されることがあります。
オメガ3系脂肪酸治療薬
ここで、オメガ3系の脂肪酸に関して、血液サラサラ効果に関する根本的なデータを記します。
北欧系の住民である、グリーンランド イヌイットとデンマーク人の血液成分を比較したところ
アザラシや魚を多く摂取するグリーンランド イヌイットの方ではオメガ3系脂肪酸の割合が26.5%、オメガ6系脂肪酸の割合が0.8%であったのに対して、肉食がメインのデンマーク人ではオメガ3系脂肪酸の割合が0.2%であったのに対して、オメガ6系脂肪酸の割合が12.4%でした。
興味深いことに、グリーンランド イヌイットの方は狭心症や心筋梗塞といった血管が細くなって生じる心臓病の発症率が5.3%であったのに対し、デンマーク人の心臓病発症率は34.7%でした。
同様のデータは日本国内でも報告されており、千葉県の疫学調査によると、家畜農業中心の方のオメガ3脂肪酸摂取量は1日1gであったのに対し、漁業地域の方のオメガ3脂肪酸摂取量は1日2.5gでした。家畜農業中心の方の脳血管疾患死亡率が10万人あたり90人程度であるのに対し、漁業地域の方の脳血管疾患死亡率は10万人あたり50人程度でした。
上記のデータから、魚の油由来のオメガ3系脂肪酸を1日2g程度摂取すると、血管がつまりにくくなり、心筋梗塞や脳梗塞の発症を抑えられるのではないか?
このようなデータを背景としてオメガ3系脂肪酸治療薬が開発されました。
ではイコサペント酸エチルとドコサヘキサエン酸エチルとではどの程度違いがあるのでしょうか?
エパデールEMカプセルにはイコサペント酸エチルが2g含有されています。
ロトリガ粒状カプセル2gにはイコサペント酸エチルが750mg、ドコサヘキサエン酸エチルが930mg、その他のオメガ3系脂肪酸320mg含有され、トータルで2gのオメガ3系脂肪酸が含まれています。
ドコサヘキサエン酸エチルは脳への移行性が高く、脳内における半減期が末梢における半減期の10倍程度まで伸びると報告しているデータもあります(ラット)。一昔前は「ドコサヘキサエン酸エチル(DHA)は脳に良い!頭がよくなる!」などをアピールしていた時期もあります。
補足ですが、DHAは脳内において神経新生、シナプス形成、神経細胞の分化、神経突起伸張、膜流動性の維持といった感じで脳機能を維持する効果が報告されていますので、認知症対策?になるのかも?という感じで考えている人もいるのかもしれません。
具体的にはドコサヘキサエン酸エチルは、脳および網膜に最も多く存在するオメガ3系脂肪酸であり、脳における多価不飽和脂肪酸(二重結合をもつ脂肪酸)の40%、網膜における多価不飽和脂肪酸の60%がドコサヘキサエン酸エチルです。DHAの欠乏が認知機能の低下と関連しているという報告や重症うつ患者の脳組織ではDHAレベルが低下しているとうい報告も上がっています。
今回は高脂血症に関してエパデールEMカプセル2gとロトリガ粒状カプセル2gを比較した場合はどうですか?というテーマでブログを書いておりますが
ロトリガ粒状カプセル2gを1日1回使用した場合と、エパデールS600mgを1日3回使用した場合の採血結果をザックリと比較してみたところ
トリグリセリド値
ロトリガ粒状カプセル2g:-10.9%
エパデールS600mg1日3回:-11.3%
悪玉コレステロール(LDL-C)
ロトリガ粒状カプセル2g:-2.1%
エパデールS600mg1日3回:-4.25%
総コレステロール値
ロトリガ粒状カプセル2g:-2.71%
エパデールS600mg1日3回:-4.25%
といった感じですので、ザックリと見た感じでは高脂血症に対する効果は同程度と私は考えます。
ということで、私個人的な解釈で恐縮ですが、エパデールEMカプセル2gとロトリガ粒状カプセル2gは、対高脂血症に対する治療成績は同程度と解釈します。
2022年7月7日追記
ω3脂肪酸を1日2~3g摂取すると血圧が下げる効果があるかもしれない?というデータが報告されましたので添付します。
18歳以上の成人を対象として4973例を対象としたデータです。
ω3脂肪酸の摂取量と血圧に関するデータを調査した結果
1日あたり2gのω3脂肪酸を摂取した場合:収縮期血圧-2.61mmHg/拡張期血圧-1.64mmHg
1日あたり3gのω3脂肪酸を摂取した場合:収縮期血圧-2.61mmHg/拡張期血圧-1.80mmHg
それ以上のω3脂肪酸を摂取すると、正常血圧が130mmHg未満のグループでは収縮期血圧が上昇するデータが報告されており、ω3脂肪酸は摂取しすぎればよいというわけではなく、1日あたり2g~3g程度がよいようです。
尚、心血管疾患リスクが高い集団においては1日あたり3g以上のω3脂肪酸を摂取することが血圧を低く抑えるために有益である可能性についても報告されています。
ω3脂肪酸を1日2~3g摂取すると血圧低下作用が期待されるかも?