2型糖尿病治療薬であり世界初の経口GLP-1受容体作動薬「リベルサス錠」が2021年2月5日発売開始となりました。
GLP-1受容体作動薬は、これまで注射薬(オゼンピック皮下注)しかありませんでしので、糖尿病治療における注射薬に抵抗がある患者様には初期導入しにくい医薬品でした。この度発売したリベルサス錠は効き目が同じ飲み薬ですので、注射剤に抵抗のある患者様にとっての治療選択肢が拡大したことになります。
同一成分の注射薬「オゼンピック皮下注」は週に1回使用する注射剤であり、その薬価は1日当たり以下の金額となります。
オゼンピック皮下注0.25mgSD 1547円/キット(1日あたり221円)
オゼンピック皮下注0.5mgSD 3094円/キット (1日あたり442円)
オゼンピック皮下注1.0mgSD 6188円/キット(1日あたり884円)
「リベルサス錠」3mg:143.20円
「リベルサス錠」7mg:334.20円
「リベルサス錠」14mg:501.30円
リベルサス錠の薬価が上記の金額ですので、オゼンピック皮下注と比較するとコストパフォーマンスが高い医薬品と考えます。
神戸大学を含む研究チームは、糖尿病治療で使用されているDPP-4阻害薬やGLP-1製剤などインクレチン関連薬による血糖降下作用を解明したことを米科学誌「Journal of Clinical Investigation」にオンラインで報告しました。
健常者では血糖上昇に伴い膵臓のβ細胞からインスリンが分泌される際に、Gsタンパク質という受容体がスイッチの役割を担っています。Gsタンパク質にインクレチンと呼ばれるホルモンがくっつくと、膵臓のβ細胞のエンジンがONの状態となり(脱分極:細胞内がプラスのイオンが流入した状態)インスリンが分泌されるシステムとなっています。
一方で、糖尿病患者では24時間にわたり血糖値が高い状態が続いています。そのためGsタンパク質はインスリンを分泌させるために、常にONの状態を維持しようとします。この状態を”持続的脱分極状態”と表現します。短時間であればONの状態を続けることは可能ですが、24時間365日にわたりONの状態を続けることは不可能です。膵臓のβ細胞が作り出すインスリンにも限界があります。その結果、私たちの体はインスリンを作り出すスイッチをGsタンパク質からGqタンパク質へ変更するという”荒業”を成し遂げます。
筆者らは「持続的脱分極したβ細胞におけるGsシグナルからGqシグナルへの切り替え」と表現しています。
インクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬やGLP-1製剤は、Gqタンパク質に作用するという働きがあります。つまりインクレチン関連薬は糖尿病患者さんの体内で新たに作られたインスリンスイッチである”Gqタンパク質を押す”という効果を持っていることを神戸大学の研究者らが新たに解明したことになります。
インクレチン関連薬はGqタンパク質に作用するこで、より強力にインスリン分泌を促進して、血糖値を改善していることを解明しました。
筆者らは、この研究成果は既存の糖尿病薬の薬理作用を解明しただけでなく、新しい治療薬の開発にもつながる」と記しています。
1日1回、経口投与のGLP-1受容体作動薬リベルサス錠(主成分:セマグルチド)が薬価収載承認されました。
これまで注射剤しかなかったGLP-1製剤に飲み薬が発売となりました。患者様にとって非常に有益な薬剤と感じます。
1日1回3mgから開始し、4週間以上経過後に1日1回7mgに増量します。(7mgが維持量です)
1日1回7mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合には1日1回14mgまで増量できます。
空腹時に服用します。(服用後すぐの食べ物摂取は不可です)
薬価:
3mg1錠 143.20円
7mg1錠 334.20円(1日薬価:334.20円)
14mg1錠 501.30円
追記:2020年6月2日
インスリン製剤・DPP-4阻害薬・SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬の製品の外観の特徴がひとめでわかる「インスリン製剤早見表(2020-2021)が公開されました。
インスリン製剤早見表(2020-2021)
リベルサス錠には「サルカプロザートナトリウム」と呼ばれる吸収促進剤が含有されており、この成分が胃のおけるリベルサス錠の吸収を促進する作用があり、リベルサス錠の効き目に寄与しています。(GLP-1受容体作動薬が経口投与可能となった理由です)そのため、リベルサス錠は空腹時に服用し、その後すぐには食べ物を食べないようにすることと添付文書に記載することとなりました。
2019年7月29日追記
ノボノルディスクファーマが日本国内において、経口セマグルチドを2型糖尿病治療薬として承認申請したことを公開しました。
経口セマグルチドを国内で承認申請
日本人約1300人を含む9543人の成人2型糖尿病患者が参加したグローバル臨床開発プログラムによると、経口セマグルチドを単独、血糖降下剤との併用、またはインスリンとの併用で投与した結果、十分なHbA1cの低下が確認され、良好な忍容性を示したと報告されています。
高頻度で認められた有害事象:胃腸障害関連
セマグルチドは生体内で分泌されるホルモンであるGLP-1のアナログであり、経口セマグルチドはサルカプロザートナトリウム(SNAC)と呼ばれる吸収促進剤を含んだ製剤となっています。サルカプロザートナトリウムは胃におけるセマグルチドの吸収を促進する作用があり、セマグルチドの生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)を高めて、効果的な経口投与を可能にしています。
糖尿病治療薬の一つGLP-1受容体作動薬は注射製剤しかありませんが、その中のひとつオゼンピック皮下注の飲み薬バージョン“経口セマグルチド”について第Ⅲa相臨床試験において有益な報告が確認されております。
注意)オゼンピック皮下注の一般名称は“セマグルチド”です。
(現在、経口セマグルチドに関しては、米国FDA、欧州EMA、カナダ保健省で承認審査中であり、2019年6月時点で医薬品登録されている国はありません)
注射剤のオゼンピック皮下注は週に1回0.5mg(または1mg)を皮下注射する用法となっておりますが、経口セマグルチド1日1回セマグルチド錠14mgを朝食前(起床時、空腹状態で食前30分前に服用)に120mlの水で飲むという用法となっています(副作用が生じた場合は減量)。
以下に経口セマグルチドとプラセボ(偽薬)を使用した第Ⅲa相臨床試験の概要を記します。
被験者:2型糖尿病患者さん
試験期間中央値:15.9カ月
患者さんの役75%が1年以上にわたり経口セマグルチドを服用したデータです。
経口セマグルチド服用群:1591人
プラセボ(偽薬)服用群:1592人
62週間服用後の有効性
HbA1c
経口セマグルチド服用群:約7.0%
プラセボ(偽薬)服用群:約7.9%
体重
経口セマグルチド服用群:約90kg
プラセボ(偽薬)服用群:約94kg
また、収縮期血圧および低密度リポタンパク質、トリグリセリド値は経口セマグルチド服用群の方がプラセボよりもやや低い結果となっています。経口セマグルチドの服用群が体重減少・HbA1c減少を減少させていることが示されました。この結果はオゼンピック皮下注の(皮下投与)での結果と一致しています。
経口セマグルチド服用群:3.8%(61例/1591例)
プラセボ(偽薬)服用群:4.8%(76例/1592例)
(経口セマグルチドを飲むと心血管リスクが21%下がる(ハザードリスク0.79))
有意差あり
経口セマグルチド服用群:0.9%(15例/1591例)
プラセボ(偽薬)服用群:1.9%(30例/1592例)
(経口セマグルチドを飲むと心血管関連の死亡リスクが51%下がる(ハザードリスク0.49))
有意差あり
経口セマグルチド服用群:1.4%(23例/1591例)
プラセボ(偽薬)服用群:2.8%(45例/1592例)
(経口セマグルチドを飲むと死亡リスクが49%下がる(ハザードリスク0.51))
有意差あり
非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中・入院が必要な不安定狭心症・入院が必要な心不全のリスクに関してはプラセボ群と経口セマグルチド群で有意差は確認されませんでした
経口セマグルチド服用群
服用を中止した患者:11.6%(184例/1591例)
悪心・嘔吐・下痢症状を含む消化器関連の有害事象:6.8%(108例/1591例)
代謝・栄養関連の有害事象:1.2%(19例/1591例)
神経系症状:1.1%(17例/1591例)
プラセボ(偽薬)服用群
服用を中止した患者:6.5%(104例/1592例)
悪心・嘔吐・下痢症状を含む消化器関連の有害事象:1.6%(26例/1592例)
代謝・栄養関連の有害事象:0.4%(7例/1591例)
神経系症状:0.8%(13例/1592例)
1日1回経口セマグルチドを服用すると、プラセボと比較して体重減少・HbA1c減少作用が確認され、心血管関連の複合リスクおよび心血管関連の死亡リスクが減少することが示されました。現在、経口セマグルチド製剤は米国・欧州・カナダにおいて承認審査段階にある治験薬です。