ドライアイスでなぜ人は倒れるのか?徳島大事故と二酸化炭素の危険性
2025年10月、徳島大学の研究棟において、将来を嘱望されていた27歳の大学院生が命を落とすという痛ましい事故が発生しました。原因となったのは、停電時の薬品保冷のために室内に持ち込まれていた大量のドライアイスでした。そして事故から1年が経過した2026年11月、警察は事故現場となった部屋に二酸化炭素濃度測定装置を持ち込み、当時の危険な状況を科学的に再現・検証する実況見分を開始しました。
ドライアイスは、私たちが普段ケーキやアイスクリームを持ち帰る際にも使われる、非常に身近な冷却剤です。しかし、使い方を一歩誤れば、音もなく人の命を奪う恐ろしい凶器へと豹変します。
なぜこれほど身近な物質が死亡事故を引き起こしてしまったのでしょうか。また、高濃度の二酸化炭素や低酸素の空気を吸い込んだとき、人間の体内では一体どのような薬理的・生理的反応が起こるのでしょうか。徳島大学の事故の詳細と、体内における作用メカニズムを掘り下げて解説します。
徳島大学で起きた悲劇と警察による現場検証
事故が発生したのは、徳島大学大学院薬学研究科の研究棟1階にある「低温培養室」という部屋でした。
2025年10月20日の月曜日の朝、研究室に入った大学院生が倒れているのが発見されました。すでに死後硬直が始まっており、救急隊やAEDによる蘇生処置も叶わず、その場で死亡が確認されました。死因は「酸素欠乏症」と見られています。
部屋の中には、週末に実施された施設の計画停電に備え、保管中の試薬や薬品が温度上昇によって変質するのを防ぐ目的で、31キログラムものドライアイスが設置されていました。
2026年11月4日から始まった警察の検証では、事故当時と同じ31キログラムのドライアイスを培養室に持ち込み、時間経過とともに室内の二酸化炭素濃度や酸素濃度がどのように変化したのかを3日間にわたって詳細に測定しています。事件・事故の両面から、当時の安全管理や過失の有無を法的に明らかにするための捜査が進められています。
密閉空間における31キログラムのドライアイスの威力
なぜ、これほどの事故が起きてしまったのでしょうか。その背景には、ドライアイスという物質が持つ物理的な特性と、部屋の構造が組み合わさった危険性があります。
750倍に膨らむ気体の恐怖
ドライアイスは、二酸化炭素に圧力をかけて冷却し、固体にしたものです。その温度は約マイナス78.5度であり、融解して液体になるのではなく、直接気体へと変化(昇華)します。
固体から気体に昇華するとき、体積は約750倍に膨れ上がります。わずか1キログラムのドライアイスであっても、気化すれば約500リットル以上の二酸化炭素ガスに変わります。
徳島大学の低温培養室は、幅約3.06メートル、奥行き約3.16メートル、高さ約2.45メートルで、容積は約23.75立方メートルという小さな密閉空間でした。事故調査委員会の報告書によると、持ち込まれた31キログラムのドライアイスが完全に気化した場合、発生する二酸化炭素の体積は約17.13立方メートルに達します。
計算上の二酸化炭素濃度は44%以上
通常の大気は、約78%の窒素、約21%の酸素、そしてわずか約0.04%の二酸化炭素などで構成されています。
しかし、この小さな部屋の中で31キログラムのドライアイスが気化して元の空気と混ざり合うと、室内の二酸化炭素濃度は計算上「44.3%」に跳ね上がり、酸素濃度は「12.2%」まで低下します。
さらに恐ろしいのは、二酸化炭素は空気よりも約1.5倍重いという点です。ファンなどで完全に撹拌されていない限り、発生した二酸化炭素は床面付近から溜まっていきます。つまり、人が立ったときの足元から腰、そして呼吸をする顔の高さにかけて、計算値よりもはるかに高濃度の二酸化炭素の層が形成されていた可能性が高いのです。
調査報告書でも「入室した瞬間に即座に意識を失う可能性がある、極めて危険な環境」と断じられています。
体内では何が起きるのか?二酸化炭素と酸素欠乏の薬理作用
この事故の本質を理解するためには、高濃度の二酸化炭素と低酸素の空気が人間の身体にどのような薬理作用を及ぼすのかを知る必要があります。
多くの方は「息が苦しくなって窒息したのだろう」と想像するかもしれません。しかし、実際の体内反応はそれほど単純なものではありません。人間は苦痛を感じて助けを求める間もなく、まるで電気のスイッチを切られたかのように倒れてしまうのです。
人間が息苦しさを感じる仕組みの盲点
私たちが普段息を止めたとき、胸が苦しくなって「息を吸いたい」と感じるのはなぜでしょうか。実は、体内の酸素が減ったからではありません。血液中の二酸化炭素が増えたことを、脳の延髄にある「呼吸中枢」が感知しているからです。
呼吸中枢は、血液中の二酸化炭素濃度が上がると「二酸化炭素を排出しなければならない」と判断し、呼吸のペースや深さを増すよう筋肉に指令を出します。
しかし、呼吸する空気そのものの二酸化炭素濃度が極端に高い場合、この生命維持システムが逆に牙をむくことになります。
肺胞における「逆流現象」と瞬時の意識消失
通常、私たちが息を吸い込むと、肺の奥にある小さな袋(肺胞)を通じて、空気中の酸素が血液中に取り込まれ、血液中の二酸化炭素が肺胞へと排出されます。この気体の移動は、「濃度の高い方から低い方へと分子が移動する」という自然な拡散現象(分圧差)によって行われています。
ところが、二酸化炭素濃度が数十%に達し、酸素濃度が低下した空間で息を吸うと、肺胞内の状況が一変します。
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酸素の逆拡散:吸い込んだ空気の酸素濃度が低いため、肺胞の中よりも血液中の方が酸素濃度が高くなります。その結果、血液に取り込まれるはずの酸素が、逆に血液から肺胞へと吸い出されてしまいます。
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二酸化炭素の急速な流入:肺胞内の二酸化炭素濃度が血液中よりも圧倒的に高いため、排出されるべき二酸化炭素が、血液中へ一気に押し寄せてきます。
肺を通過した血液は、心臓を経由してわずか数秒で脳へと送り届けられます。つまり、高濃度二酸化炭素と無酸素状態の空気を「たった1回あるいは2回」深く吸い込んだだけで、酸素をまったく含まない血液が脳を直撃するのです。
この瞬間、大脳皮質の神経細胞は活動を停止し、人間は何が起きたのかを認識する間もなく、一瞬で意識を失って崩れ落ちます。これが「即時ノックダウン」と呼ばれる現象です。
急激な血液の酸性化(急性アシドーシス)の薬理メカニズム
二酸化炭素には、単に酸素を奪うだけでなく、それ自体に強力な毒性作用があります。
二酸化炭素(CO₂)は水(H₂O)と結びつくと炭酸(H₂CO₃)になり、すぐに水素イオン(H⁺)を放出して血液を急速に酸性へと傾かせます。これを医学用語で「呼吸性アシドーシス」と呼びます。
人体の血液のpH(ペーハー)は、通常7.35〜7.45という非常に狭い弱アルカリ性の範囲に厳密にコントロールされています。体内の酵素や細胞の受容体は、このpH環境でしか正常に働くことができません。
高濃度の二酸化炭素を吸入すると、体内のpH調節機能(重炭酸緩衝系など)が追いつかず、血液のpHが一気に危険域まで急降下します。この急激な酸性化は、全身の細胞や器官に致命的なダメージを与えます。
脳血管の拡張と中枢神経麻痺(二酸化炭素ナルコーシス)
二酸化炭素は、血管に対して強い薬理作用を持っています。特に脳の血管に対しては、強力な拡張作用を示します。
二酸化炭素濃度が上がると、脳血管が限界まで拡張し、一時的に脳血流量が激増します。これにより激しい頭痛や頭蓋内圧の上昇が起こりますが、高濃度ではそれ以上に「中枢神経抑制作用」が勝ります。
二酸化炭素は、昔は麻酔薬の研究対象にもなっていたほど、強い麻酔作用(中枢神経抑制作用)を持っています。過剰な二酸化炭素は神経細胞膜の興奮性を奪い、脳の機能を麻痺させます。これを「二酸化炭素ナルコーシス」と呼びます。
意識を失うだけでなく、呼吸をコントロールしていた呼吸中枢そのものも麻痺してしまうため、自発呼吸が完全に停止してしまいます。
心臓に対する直接的な毒性
急性アシドーシスと酸素欠乏のダブルパンチは、心臓の筋肉(心筋)にも壊滅的な影響を与えます。
心筋細胞の収縮にはカルシウムイオンの働きが不可欠ですが、血液が急激に酸性化すると、カルシウムイオンが心筋細胞内でうまく働けなくなります。その結果、心臓が血液を送り出す力(心筋収縮力)が急激に低下します。
さらに、刺激伝導系と呼ばれる心臓のリズムを司る電気系統が乱れ、重篤な不整脈(心室細動や心停止)が誘発されます。
入室して倒れた学生は、息苦しさに苦しんで部屋から脱出しようとする時間すら与えられず、数秒で意識を奪われ、数分以内に心停止へと至ったと考えられます。
濃度によって現れる症状の違い
二酸化炭素は、濃度によって人体にさまざまな影響を及ぼします。その変化を整理すると、以下のようになります。
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0.04%前後(通常の大気):健康に全く問題のない正常な状態です。
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0.1%〜0.2%(1000〜2000ppm):換気が不十分な会議室や満員電車などで到達するレベルです。眠気を感じたり、集中力が低下したりします。
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2%〜3%:呼吸中枢が刺激され、自律的に呼吸の回数や換気量が増加します。軽い頭痛やめまい、耳鳴りを感じることがあります。
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5%〜6%:激しい呼吸困難、頻脈、血圧上昇、頭痛、めまいが生じます。この状態が数分続くと、判断力が失われて適切な行動が取れなくなります。
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10%以上:数分から数十秒以内に意識を失います。けいれんを起こし、呼吸が麻痺して死に至ります。
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30%以上:1〜2回の呼吸で即座に昏睡状態に陥り、不可逆的な脳損傷や心停止を引き起こします。
徳島大学の現場で試算された「44.3%」という数値は、まさに吸い込んだ瞬間に生命維持が不可能になる致死レベルの濃度だったのです。
1992年に起きた北海道大学の事故と忘れられた教訓
実は、日本の大学において、寒剤による窒息事故が起きたのはこれが初めてではありません。1992年、北海道大学でも同様の悲劇が起きていました。
南極の貴重な氷を守ろうとして
1992年8月10日の朝、北海道大学工学部の低温実験室で、助手と大学院生の2名が倒れているのが発見され、病院に搬送されましたが低酸素血症によって亡くなりました。
原因は「液体窒素」でした。実験室には、南極から採取された氷河期の貴重な氷試料が保管されていました。古代の大気組成を記録した替えのきかない試料です。冷却装置の故障によって氷が溶けてしまうのを防ごうとした2人は、約17平方メートルの実験室内に80リットルもの液体窒素を持ち込みました。
液体窒素は気化すると体積が約700倍になります。気化した大量の窒素ガスが一瞬で室内の酸素を追い出し、2人は試料を守る行動の最中に意識を失ってしまったのです。
「鉄板の安全教育」だったはずが
この事故を受け、北海道大学工学部は事故の起きた日を「工学部安全の日」と定め、全学を挙げて安全衛生管理体制を見直しました。以来、日本の大学や研究機関において、「密閉された空間で寒剤(液体窒素やドライアイス)を扱うことの危険性」は、実験室に入る学生が最初に叩き込まれるべき基本中の基本となりました。
理系の大学院であれば、誰もが一度は耳にするはずの教訓だったのです。
しかし、33年という歳月は、その痛ましい記憶を風化させてしまいました。徳島大学の事故は、過去の教訓が現場の隅々まで引き継がれていなかった現実を浮き彫りにしました。
事故報告書が明かした複数の「油断」と「構造的問題」
2026年6月、徳島大学の事故調査委員会は35ページにおよぶ調査報告書を公表しました。そこには、個人のミスという言葉だけでは片付けられない、組織的な問題が赤裸々に記されていました。
年々増えていたドライアイスの量
驚くべきことに、低温培養室へのドライアイス設置は、事故が起きた年に突然始まったわけではありませんでした。
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令和5年(2023年):5キログラム
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令和6年(2024年):17キログラム
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令和7年(2025年):31キログラム
研究室で使用する試薬の量が増えるにつれ、停電対策として用意するドライアイスの量も毎年増やされていました。
しかも、その調達は個人の判断ではなく、学部の事務課が大学の会計課を通じて正式に業者へ発注し、薬学部全体で277キログラムを一括購入するという正規のルートで行われていました。毎年無事に乗り切れていたという「成功体験」が、かえって危険への警戒心を麻痺させ、31キログラムという致死量に至るまで疑問を抱かせなかったのです。
「換気扇が回っている」という思い込み
ドライアイスの設置を学生に指示した教員は、調査に対して「室内のファンによって換気が行われていると思っていた」と述べています。
しかし、そのファンは部屋の中の冷気を循環させるための装置であり、外の新鮮な空気を取り込んで室内の空気を排出する「換気機能」は一切備わっていませんでした。密閉された箱の中で扇風機を回しているのと同じ状態だったのです。
専門知識を持つはずの教員ですら、設備の構造を誤認し、「短時間の作業だから大丈夫だろう」という感覚的な油断に支配されていました。
部屋の共用化と情報の断絶
もう一つ、極めて深刻だったのが「研究室間の情報共有の欠如」です。
亡くなった大学院生は「研究室Ⅱ」に所属していました。一方で、ドライアイスを持ち込んだのは「研究室Ⅰ」の教員と学生でした。
もともとこの低温培養室は研究室Ⅰだけが使っていましたが、事故が起きた年度から研究室Ⅱとの共用スペースに変更されていました。しかし、ドライアイスを持ち込んだ側は「他分野も使っている」という共用の意識が希薄なままであり、室内に危険なドライアイスを大量に設置したことを研究室Ⅱ側に一切知らせていませんでした。
亡くなった大学院生は、扉の向こうに致死的な高濃度二酸化炭素が満ちていることなど夢にも思わず、普段通りの研究活動のために部屋に入り、犠牲になってしまったのです。
実験室だけではない、私たちの身の回りにある危険
今回の事故は大学の研究施設という特殊な場所で起きましたが、ドライアイスによる危険は日常生活のすぐ隣にも潜んでいます。
車内での運搬による中毒事故
レジャーや買い物、イベントなどで、ドライアイスを乗用車に乗せて運ぶ機会があります。このとき、エアコンを「内気循環」にしたまま密閉された車内でドライアイスを運ぶと、気化した二酸化炭素が車内に充満し、運転手がめまいや頭痛、ひどい場合には意識消失を起こして交通事故につながる危険があります。
車でドライアイスを運ぶ際は、必ず換気を行い、外気導入モードにして窓を少し開けるなどの対策が必要です。
葬儀・保冷の場での悲劇
近年、消費者庁や国民生活センターが強く注意を呼びかけているのが、葬儀の際に遺体を安置・保冷するためのドライアイスによる事故です。
棺の中に敷き詰められたドライアイスから二酸化炭素が発生し、棺の中に高濃度で溜まります。別れを惜しむ遺族が棺の中に顔を入れたり、寄り添って眠ったりしたことで、溜まっていた高濃度の二酸化炭素を吸い込み、そのまま意識を失って死亡する事故が実際に相次いで報告されています。
白く見える冷気の煙は二酸化炭素そのものではなく、冷やされた空気中の水分(水蒸気)です。気化した二酸化炭素は「無色・無臭・無刺激」であり、目に見えず、臭いもしません。危険を五感で察知することは不可能です。

悲劇を繰り返さないために必要な安全管理のあり方
徳島大学の事故から私たちは何を学び、どう行動を変えていくべきなのでしょうか。
1. 人間の感覚に頼らない「検知装置」の導入
二酸化炭素や低酸素の危険は、人間の目や鼻では絶対に察知できません。「空気が重い気がする」「少し変な臭いがする」と気づいたときには、すでに身体が麻痺して動けなくなっています。
寒剤やガスを扱う空間には、二酸化炭素濃度計や酸素濃度計を常設し、規定値を超えた場合には外から見えるパトランプが点灯したり、警報音が鳴り響いたりするインターロック(安全装置)の義務化が欠かせません。
2. 「経験」を過信しないリスクアセスメントの徹底
「去年も同じ方法で大丈夫だったから」「ほんの数分部屋に入るだけだから」という経験則は、安全管理において最も危険な落とし穴です。
取り扱う物質の量、部屋の容積、換気設備の有無を事前に計算し、最悪のシナリオを想定した「リスクアセスメント」を形式的ではなく実質的に行うことが求められます。
3. 情報の共有と危険の可視化
共用施設であればなおのこと、「誰が、いつ、何を部屋に持ち込んでいるか」を全員が把握できる仕組みを作らなければなりません。
ドアの前に「ドライアイス設置中・立入禁止」「二酸化炭素充満の恐れあり」といった警告看板を掲示する、施錠して鍵の管理を一元化するなど、物理的に人が立ち入れないようにする厳格なルールが必要です。
まとめ
徳島大学で起きた大学院生の死亡事故は、警察による現場検証が進む中で、身近な冷却剤であるドライアイスが引き起こした過酷な現実を改めて私たちに突きつけています。
31キログラムという大量のドライアイスが密閉された低温培養室の中で気化し、室内の二酸化炭素濃度は44%を超え、酸素濃度は激減していました。
高濃度の二酸化炭素を吸い込むと、肺胞でのガス交換が逆転し、酸素を含まない血液と大量の二酸化炭素が一瞬で脳へ送られます。これにより急性アシドーシス(血液の酸性化)や脳機能の麻痺が生じ、人間は苦痛を訴えたり助けを呼んだりする間もなく、1〜2回の呼吸で意識を失って倒れてしまいます。二酸化炭素は目に見えず、臭いもしないため、五感で危険を察知することは不可能です。
過去の北海道大学の事故から33年が経過し、安全であるはずの教育・研究の現場で同じような悲劇が繰り返されてしまいました。年々増えていた使用量、設備の換気機能に対する誤認、共用スペースでの情報共有の不備など、複数の油断が積み重なった結果でした。
ドライアイスは非常に便利で身近な存在だからこそ、その背後にある物理的・薬理的な危険性を正しく知る必要があります。「見えない気体」に対する過信を捨て、測定機器の設置や厳格な情報共有など、二度と尊い命が失われないための徹底した安全体制を築いていくことが強く求められています。
