抗ヒスタミン剤「ビラノア錠20mg(ビラスチン)」の特徴について
2016年11月頃に発売予定となっている抗ヒスタミン剤「ビラノア錠20mg」について調べてみました。
Meiji Seikaファルマと大鵬薬品との併売で発売されます。1日1回タイプの抗ヒスタミン剤(アレルギー性鼻炎・蕁麻疹・皮膚湿疹に伴う掻痒)です。
既存で発売されている抗ヒスタミン剤との違いとしては、いわゆる抗ヒスタミン剤特有の「眠気を催すことがあるため自動車等危険を伴う機械操作には従事させないよう十分注意すること」といった注意喚起はされておりません。
という記載があります。
抗ヒスタミン剤で運転に対して注意喚起がない製剤としては、これまでに「アレグラ(フェキソフェナジン)」と「クラリチン(ロラタジン)」がありましたのでビラノア錠20mg(ビラスチン)は3剤目となります。
アレグラとクラリチンに共通している点は、どちらもP糖蛋白の基質であることです。そのため両剤は血液脳関門の毛細血管内皮細胞に発現しているP糖たんぱくにより、脳内から体側に排泄される製剤といえます。このP糖タンパクのはたらきにより、アレグラおよびクラリチンの脳内濃度が上がらず、眠気の副作用が出にくいと考えられています。
今回発売される「ビラノア錠20mg」もP糖たんぱくの基質であることが添付文書に記載されていますので、脳内への移行性が低いことが示唆されます。
抗ヒスタミン剤“ルパフィン錠10mg”とクラリチン錠10mgの違いについて
ただ、P糖たんぱくの発現量には個人差があるため、「ビラノア錠20mgは眠気が出にくい薬です」と言い切ることは避けた方が無難かもしれません。
ちなみに、タリオンやアレロックのインタビューフォームにもP糖蛋白の基質である記述が1行ほどありますが、アレグラとクラリチンのインタビューフォームには具体的な記載があるため、P糖蛋白の基質として強い印象を受けます。
また他剤との比較データとしてはフェキソフェナジンとの通年性アレルギー性鼻炎を対象とした比較試験成績で同等性がしめされています。プラセボに対しては有意な減少がしめされています。
さらに添付文書に記されたデータとして、ヒトのヒスタミンH1受容体に対する拮抗作用として
ki値:64nmol/l(in vitro)
という解離定数が記されています。
ザイザルのヒトヒスタミンH1受容体への解離定数Ki値は2.5nmol/L
ジルテックのヒトヒスタミンH1受容体への解離定数Ki値は6.1nmol/Lです。
あくまで、試験管内データですが、この数値は少なければ少ないほど、受容体への結合力が高い(よく効く薬)という意味合いで理解できるかと思います。
それ以外の抗ヒスタミン剤にはヒトヒスタミンH1受容体への解離定数が記されておりませんが、モルモットやラットヒスタミンH1受容体への解離定数が記されておりました。
私の中では良く効くイメージがあるアレロック錠のラットおよびモルモット組織ヒスタミンH1受容体への解離定数Ki値は16nmol/L
アレグラ錠はラット大脳皮質膜標本におけるKi値として176nmol/Lという記載があります。
クラリチンの活性代謝物によるモルモット肺ヒスタミンH1受容体への解離定数Ki値は2.5nmol/L
となっています。タリオン、アレジオン、エバステルにはKi値に関する記載はありませんでした。あくまで試験管内データであり、種差や実験条件の違いがありますので、これらの数字を単純に比較することはできません。
効果はあくまで個人差がありますので、Ki値は抗ヒスタミン作用を示す指標の一つ程度にとどめるよう認識しております。
第一世代、第二世代など抗ヒスタミン剤が多種発売されている理由は、その”需要の多さ”と”薬効には個人差がある”という2つの要素につきるかと思います。アレルギーや痒みに関する治療は「効いた」と実感することが大切です。そのため「自分にあった抗ヒスタミン剤」を見つけるまで、いろいろな製剤をトライすることができるのは、必要としている患者様にとって非常に有用なことだと感じます。
〜ビラノア錠20mgのまとめ〜
・アレグラやクラリチンのように眠気が出にくい抗ヒスタミン剤です。1日1回服用で、アレグラと同等の抗ヒスタミン効果が確認されています。
・P糖蛋白の基質であるため、効果および眠気の副作用には個人差がでやすい。
・グレープフルーツジュースと一緒に飲むと効き目が6〜7割ほどに下がります。
(吸収量低下のため)
・半減期10時間(定常状態あり)
・空腹時に服用する。食後に服用すると50%ほどしか効かない
・20mgのみの販売であり、小児用量なし
・用法に適宜増減の記載もないため、成人に1日1回20mg空腹時服用という用法しかない
・排泄経路は未変化体のまま尿中33%排泄、糞中67%排泄