サインバルタカプセルに「慢性腰痛症」の適応症が追加となる(サインバルタの鎮痛作用について)
2016年2月5日 薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会においてサインバルタカプセルに「慢性腰痛症」の適応症が追加承認されました。
サインバルタは精神科領域でよく使用されている薬です。副作用に自殺リスクがあるため、会議中に複数委員から整形外科医による処方に懸念が示されましたが、多数決により適応症追加申請が了承されました。
これまでのサインバルタの適応症は
・うつ病、うつ状態
・糖尿病性神経障害に伴う疼痛
・線維筋痛症に伴う疼痛
という3つでしたので、新たに「慢性腰痛症」が加わることになります。
海外の適応症を確認してみるとアメリカを含む29か国で「慢性腰痛症」の適応症が承認されています。アメリカの米食品医薬品局(FDA)では2010年に骨関節炎から生じる変形性関節症および慢性腰痛症を含む慢性骨格筋疼痛の適応症が拡大されています。一方、欧州では2011年に欧州医薬品庁から慢性腰痛症に対して否定的な考えが出たため適応承認されていません。
サインバルタカプセルの鎮痛作用について
手や足などの末梢に加えられた痛みは脊髄を経由して大脳皮質体性感覚野において”痛み”として認識されます。この時の痛みを和らげる神経として”下行性疼痛抑制系”という神経があり、この神経により痛みのレベルが適切に調節されています。下行性疼痛抑制系はセロトニンおよびノルアドレナリンによって賦活化されることがわかっており、セロトニンおよびノルアドレナリンの低下が慢性痛の原因の一つと考えられています。
サインバルタは脳および脊髄においてセロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害することにより(SNRI)下行性疼痛抑制系を活性化して鎮痛効果をしめすと考えられています。薬理作用といては「ノイロトロピン」のはたらきに近いですが、ノイロトロピンはセロトニン作動性の下行性疼痛抑制系を活性化するだけなのに対し、サインバルタはセロトニンおよびノルアドレナリンという両方の下行性疼痛抑制系を活性化するため、より確実な効果が期待できるのかもしれません。
~ラットによる鎮痛効果の検証~
ラットにサインバルタを投与して鎮痛効果を検証したデータでは用量依存的に痛みの閾値が増加し、その作用は反復投与による耐性を生じることなく持続的に鎮痛作用を示すデータがインタビューフォームに記載されています。イブプロフェンとの鎮痛作用を比較したデータも記載されておりますが、熱性痛覚の閾値をイブプロフェンと同程度以上に増加させているデータとなっています。(IFより)
サインバルタの鎮痛作用について海外の報告を確認してみると、うつ病による疼痛以外の慢性疼痛患者さんを対象としたデータではサインバルタを1日60mgまたは120mgを服用することで、プラセボに比べ有意に鎮痛作用を示した報告があります。また薬理作用の違いからサインバルタとNSAIDSとの併用による腰痛症への効果を検証したデータでも有用な結果が出ており、慢性腰痛症を患っている患者さんへの新たな選択肢として期待がもてるのではないでしょうか。
サインバルタを長期服用すると口渇・下痢などの消化器症状に加えて、体重増加(1kg~)の副作用が上がっています。整形外科領域において体重増加はあらゆる面で治療の妨げとなりますのでサインバルタの服用開始時は食事に関する注意喚起を促す必要があるかと思います。また眠気や倦怠感、脱力感といった精神的な副作用についても患者さんへお伝えする必要があります。