おじさん薬剤師の日記

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糖尿病 肥満

ダイエット目的のGLP-1受容体作動薬の使用で消化管有害事象リスク(2023/11/26)

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ダイエット目的のGLP-1受容体作動薬の使用で消化管有害事象リスク(2023/11/26)

ウビーゴ皮下注の発売を前に、ダイエットとGLP-1受容体作動薬の話題がネット上でも頻回に検索されるようになりました。

カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究チームの報告によると、GLP-1受容体作動薬をダイエット目的で処方された被験者を対象として、他のダイエット薬と比較した時に消化管障害(膵炎・腸閉塞・胃不全麻痺)の発現頻度が上昇しているということを報告しました。

GLP-1受容体作動薬「リラグルチド」または「セマグルチド」を使用した被験者と、ナルトレキソン/ブプロピオン(ダイエット治療薬)を使用した被験者を対象として、消化管関連の副作用を比較したデータです。

リラグルチド使用者:4144人

セマグルチド使用者:613人

ナルトレキソン/ブプロピオン使用者:654人

結果

1年間あたりの消化管障害発生率を比較すると

膵炎

リラグルチド群:7.9人

セマグルチド群:4.6人

ナルトレキソン/ブプロピオン群:1人

 

腸閉塞

リラグルチド群:8.1人

セマグルチド群:0人

ナルトレキソン/ブプロピオン群:1.7人

 

胃不全麻痺

リラグルチド群:7.3人

セマグルチド群:9.1人

ナルトレキソン/ブプロピオン群:3.1人

 

という結果となり、GLP-1受容体作動薬を使用することが消化管障害リスクをなりうる結果となりました。

ナルトレキソン/ブプロピオンを使用した消化管リスクを1とすると

GLP-1受容体作動薬を使用した場合のリスクは、膵炎で9.09倍、腸閉塞で4.22倍、胃不全麻痺で3.67倍

と有意差をもってリスクがあることが示されました。

筆者らは、糖尿病でGLP-1受容体作動薬を使用する場合と、ダイエットで使用する場合とでは、リスク/ベネフィット比が異なるため、ダイエットで使用する際は消化管障害のリスクを留意すべきだろうと述べています。

ダイエットで使用するGLP-1受容体作動薬と消化管リスクについて

ウビーゴ皮下注の最適使用推進ガイドラインを厚生労働省が公開(2023/11/23)

先日、肥満症治療薬のウビーゴ皮下注が薬価収載され、2024年2月22日に発売が予定されておりますが、発売を前に厚生労働省が最適使用推進ガイドラインを公開しました。

 

セマグルチド(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(肥満症)の作成について

まず、処方することができる医師についてですが

<医師要件>

医師免許取得後 2 年の初期研修を修了した後に、高血圧、脂質異常症又は 2型糖尿病並びに肥満症の診療に 5 年以上の臨床経験を有していること。
又は医師免許取得後、満 7 年以上の臨床経験を有し、そのうち 5 年以上は高血圧、脂質異常又は 2 型糖尿病並びに肥満症の臨床研修を行っていること。

 

高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病を有する肥満症の診療に関連する以下のいずれかの学会の専門医を有していること。
・ 日本循環器学会
・ 日本糖尿病学会
・ 日本内分泌学会
なお、日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい

 

という要件が課せられました。

また、投与対象となる患者については、以下の全てを満たす肥満患者であることを確認することとされました。

1 最新の診療ガイドラインの診断基準に基づき、高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病のいずれか 1 つ以上の診断がなされ、かつ以下を満たす患者であること。
・ BMI が 27 kg/m2 以上であり、2 つ以上の肥満に関連する健康障害(注 1)を有する。
・ BMI が 35 kg/m2 以上
(注 1)肥満症に関する健康障害(4382 試験の組入れ基準とされた健康障害)
(1)耐糖能障害(2 型糖尿病・耐糖能異常など)(2)脂質異常症(3)高血圧(4)高尿酸血症・痛風(5)冠動脈疾患(6)脳梗塞(7)非アルコール性脂肪性肝疾患(8)月経異常・不妊(9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群(10)運動器疾患(11)肥満関連腎臓病

2 高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病並びに肥満症に関する最新の診療ガイドラインを参考に、適切な食事療法・運動療法に係る治療計画を作成し、本剤を投与する施設において当該計画に基づく治療を 6 ヵ月以上実施しても、十分な効果が得られない患者であること。また、食事療法について、この間に 2 ヵ月に 1 回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けた患者であること。なお、食事療法・運動療法関しては、患者自身による記録を確認する等により必要な対応が実施できていることを確認し、必要な内容を管理記録等に記録すること。

3 本剤を投与する施設において合併している高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病に対して薬物療法を含む適切な治療が行われている患者であること。本剤で治療を始める前に高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病のいずれか 1 つ以上に対して適切に薬物療法が行われている患者であること。

 

 

肥満症治療薬「ウビーゴ皮下注」が薬価収載されました(2023/11/16)

2023年11月16日、中医協総会は肥満症治療薬「ウビーゴ皮下注」の薬価収載を決定しました。

効能効果:肥満症

ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。

・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する

・BMIが35kg/m2以上

薬価:
0.25mg0.5mL1キット 1,876円
0.5mg0.5mL1キット 3,201円
1mg0.5mL1キット 5,912円
1.7mg0.75mL1キット 7,903円
2.4mg0.75mL1キット 10,740円

適応外のダイエット目的でGLP-1製剤を使用することで、オゼンピック皮下注の限定出荷が続いている実情を受けて、最適使用推進ガイドラインでは「治療対象となる肥満症以外での痩身・ダイエットなどを目的に本剤を投与してはならない」と明記しています。

使用に際しては、専門医がいること、管理栄養士による栄養指導など多職種で適切な治療管理が行えていることを施設要件としています。

患者要件としては、最新の診療ガイドラインを参考に、適切な食事療法・運動療法について作成された治療計画に基づく治療を6か月以上実施しても、十分な効果が得られない患者であることなどとした。投与期間は最大68週間とし、3~4か月間投与しても改善傾向が認められない場合は投与を中止することとしています。

同会議では、支払い側の松本委員が「糖尿病のGLP-1受容体作動薬を保険診療として減量目的で使用していることが強く疑われる事例が散見された。こうした事態を踏まえますと、本剤においても薬事承認やガイドラインのルールを逸脱して使用する事例が発生する懸念もある。厚労省には、自由診療も含めて、ウゴービの使用実態について注視をお願いしたい」と適正使用について言及しています。

 

ウビーゴ皮下注発売準備中

米国の肥満とCVDはセマグルチドが解決するという試算(2023/10/25)

米国では肥満が問題となっており、BMIが30以上の有病率が41.9%、過体重(BMIが25~30)の方を含めると73.6%と報告されています。

また2023年までには肥満有病率が50%を超えると試算されています。

全ての米国成人にセマグルチド(ウゴービ皮下注2.4mgSD)を使用すると、肥満有病率が46%低下し、心血管イベントリスクが17.8%抑制されるという推計データが報告されました。

ウゴービ皮下注の臨床試験では、ウゴービ皮下注2.4mgを週に1回投与することによって体重が14.9%減少したことが報告されています。

筆者らは、米国の肥満有病率・心血管イベントを減少させる手段としてセマグルチドを使用することが有益であり、医療費を劇的に抑制することができる可能性を示唆しています。

セマグルチドのダイエットの有益性について

 

経口GLP-1受容体作動薬orforglipronの糖尿病治療およびダイエット治療に関する治験成績(2023/7/9)

糖尿病治療およびダイエット治療としてGLP-1受容体作動薬が注目を集めています。

日本国内では皮下注薬だけでなく内服薬も販売が開始となっています(糖尿病治療として)

しかし、経口治療薬セマグルチド錠(リベルサス錠)は1日1回のうち最初の食事または飲水の前に、空腹でコップ半分の水(120ml以下)で服用し、服用後はすくなくとも30分間は飲食・他の薬剤の経口摂取を避けることというルールがあります(リベルサス錠の胃からの吸収が低下するため)

第83回の米国糖尿病学術集会にて、中外製薬が創薬し米Eli Lilly社が手掛けた経口GLP-1受容体作動薬「orforglipron」に関して、糖尿病治療およびダイエット治療に関する治験データが公開されました。

orforglipronを糖尿病患者へ投与したデータ

治験期間:26週(半年)

被験者(平均):383例、58.9歳、HbA1c8.1%、体重100.3kg、BMI:35.2

治験開始後26週時点におけるHbA1c変化量および体重変化量

orforglipron3mg服用群:-1.19ポイント(-3.7kg)

orforglipron12mg服用群:-1.91ポイント(-6.5kg)

orforglipron24mg服用群:-1.79ポイント(-9.7kg)

orforglipron36mg服用群:-2.03ポイント(-9.5kg)

orforglipron45mg服用群:-2.1ポイント(-10.1kg)

トルリシティ皮下注群:-1.10ポイント(-3.9kg)

プラセボ服用群:-0.43ポイント(-2.2kg)

上記の結果、orforglipron12mg以上の群でトルリシティ皮下注群に対して、有意なHbA1cの低下が示されました。

また、肥満症治療薬として使用された場阿に関しても12mg、24mg、36mg、45mgを26週間服用した結果、9~13.3kgの体重減少が確認され、36週間服用した結果10%以上の体重減少を達成した割合は46~75%と高い確率が報告されました。

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2型糖尿病治療薬「マンジャロ皮下注2.5mg/5mgアテオス」が発売開始(2023/4/19)

日本イーライリリーと田辺三菱製薬は2型糖尿病治療薬(持続性GIP/GLP-1受容体作動薬)マンジャロ皮下注2.5mg/5mgアテオス(一般名:チルゼパチド)の2規格を発売しました。

マンジャロ皮下注は世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。

週1回2.5mgの開始量からスタートし、4週間投与した後、週1回5mgの維持量へ増量します。

効果不十分の場合は、4週間以上の間隔をあけて2.5mgずつ増量が可能で、最大で週1回15mgまで使用となっています。

本来であれば6つの用量規格があるのですが、今回は2.5mgと5mgの2規格が先行発売されました。高用量の4規格(7.5mg、10mg、12.5mg、15mg)については、2023年6月12日に発売予定となっています。

マンジャロ皮下注2.5mg/5mgが先行発売

 

注意:GLP-1ダイエットに関しては、適応外使用による美容・ダイエットを目的とした自由診療で処方する医療広告が散見されるとして、日本糖尿病学会が注意喚起を行っています。

GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応使用(ダイエット)に関する糖尿病学会の見解

お笑い芸人の「かまいたち山内さん」がGLP-1ダイエットにより3カ月で8キロ痩せたことについて動画を公開しましたが2023年4月18日夜には動画が非公開となりました。

ウゴービ皮下注(セマグルチド)が「肥満症」の適応症で厚労省で承認される(2023/1/29)

2023年1月27日の厚労省・薬食審にてセマグルチドを主成分とする皮下注製剤「ウゴービ皮下注」が「肥満症」の適応症で医薬品として承認されました。

いわゆるGLP-1受容体作動薬として、はじめて「肥満症」に使用できる製剤となります。

ウゴービ皮下注が医薬品として承認される

これまでに「GLP-1受容体作動薬をダイエットに使用してはいけませんよ」と言われ続けてきました。

日本医師会の副会長は2022年3月2日の会見にて、自由診療でオンライン診療を活用し、GLP-1受容体作動薬をダイエット目的で不適切に処方状況について問題提起しました。

そんな中、「ウゴービ皮下注」が承認されたわけですから、保険治療として「肥満症」の治療に使用できることとなります。

米国では2021年6月に商品名「Wegovy」として使用が開始されております。

適応症は

・BMI27kg/㎡以上の患者ですくなくとも体重関連疾患(高血圧、2型糖尿病、脂質異常症)の疾患を1つ以上有する

・BMI30kg/㎡以上の患者に対する食事療法・運動療法への補助療法

となっており、肥満症に対してセマグルチドを16~20週かけて徐々に増加していき、最終的に週1回2.4mgまで増量していくとされています。

米国での臨床データとしては、平均体重105kg(平均BMI:38kg/㎡)の被験者を対象としてウゴービ皮下注を68週間(約1年4カ月)使用した場合、平均で13kgの体重減少が報告されています。

BMI:30kg/㎡とは、男性で言いますと身長175cm体重93kg程度の方、女性で言いますと身長160cm体重78kgの方が想定されます。

青年期(12歳以上18歳未満)の肥満症におけるセマグルチド週1回の投与データ(2022/11/6)

青年期(12歳~18歳未満)の肥満または過体重の被験者(201名)を対象として、週1回2.4mgのセマグルチドを68週間(約1年と3カ月程度)投与したデータが公開されました。

被験者201名中180名(90%)が治療を完了しました。

治療完了の68週時点でBMI平均変化率について

セマグルチド投与群:-16.1%

プラセボ投与群:0.6%

 

セマグルチド投与群では131人中95人(73%)で5%以上の体重減少が報告されたのに対して、プラセボ群では62人中11人(18%)で5%以上の体重減少が報告されました。

胃腸障害の有害事象

セマグルチド投与群:62%

プラセボ群:42%

 

肥満青年において、週1回のセマグルチド2.4mg投与はBMIを大きく低下させることが示された

肥満青年に対するセマグルチド週1回投与の有用性

 

マンジャロ皮下注アテオス(GIP/GLP-1受容体作動薬)が医薬品として承認申請(2022/8/26)

GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス(成分名:チルゼパチド)」が2022年9月26日、厚生労働省より「2型糖尿病」の効能効果にて日本国内で製造販売が承認されました。

持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注」が2型糖尿病に対する国内製造販売承認を取得

薬価:2023年3月8日 薬価収載
2.5mg0.5mL1キット 1924円
5mg0.5mL1キット 3848円(1日薬価:550円)
7.5mg0.5mL1キット 5772円
10mg0.5mL1キット 7696円
12.5mg0.5mL1キット 9620円
15mg0.5mL1キット 1万1544円

GIPおよびGL-1はともに血糖管理に関するインクレチンホルモンで、血液中のグルコースに依存してインスリンを分泌を促す効果が期待されます。

マンジャロ皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス:適応症「2型糖尿病」

用法・用量

通常、成人には、チルゼパチドとして週1回5mgを維持用量とし、皮下注射する。ただし、週1回2.5mgから開始し、4週間投与した後、週1回5mgに増量する。なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、週1回5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量できる。ただし、最大用量は週1回15mgまでとする

2022年9月には医薬品として正式に承認される見通しです。

マンジャロ皮下注が医薬品として承認

 

GIP/GLP-1共受容体作動薬tirzepatideをダイエット目的で使用した治験報告

2022年5月13日、米国食品医薬品局(FDA)は2型糖尿病に対してGIP/GLP-1共受容体作動薬tirzepatideの適応を承認しました。(2022/6/12)

GIP/GLP-1共受容体作動薬tirzepatideはGLP-1とGIPの受容体に作用する医薬品で、週に1回皮下投与します。

既存の治療薬と、tirzepatideとの比較データによると、

1週間にtirzepatide 15mgを皮下投与したことによるHbA1c値の変換率を確認してみると、セマグルチド群と比較して平均0.5%低下、インスリンデグルデグ群と比較して平均0.9%低下、インスリングラルギン群と比較して平均1%低下したことが報告されています。

このように、2型糖尿病に対する有効性が報告され、医薬品として承認されたtirzepatide ですが、それだけではおさまらず、肥満症に対するダイエット効果も臨床試験が行われておりますので、今回はtirzepatide のダイエット効果についての報告を調べてみました。

週1回tirzepatideのダイエット効果について

 

tirzepatide のダイエット効果について

被験者:18歳以上で肥満度指数(BMI)が30以上、またはBMIが27以上で高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患などの合併症を有している患者

2539名(平均体重:104.8kg、平均BMI:38)

注)BMI:38の例(身長150cm体重86kg/身長160cm体重98kg/身長170cm体重110kg身長180cm124kg)

 

上記被験者をプラセボ群(偽薬)、tirzepatide 5mg投与群、tirzepatide 10mg投与群、tirzepatide 15mg投与群の4群に割り振り、週1回の投与を72週間(約1年4か月)投与した時点における体重の変化率について評価しています。

食事に関しては、栄養士が定期的にカウンセリグンを行い、運動に関しては1週間に少なくとも150分は体を動かすことを順守するルールとなっています。

 

投与開始から72週目の体重変化について

プラセボ群:-3.1%

tirzepatide 5mg投与群:-15%

tirzepatide 10mg投与群:-19.5%

tirzepatide 15mg投与群:-20.9%

tirzepatide を投与することでプラセボと比較して有意な体重減少が確認されました。

 

有害事象に関しては、消化器関連(悪心・下痢・便秘)の報告があるものの、そのほとんどが軽度から中等度であり、用量が増えるごとに有害事象も増加しました。

プラセボ群の有害事象が2.6%であったのに対して、tirzepatide 5mgで4.3%、10mgで7.1%、15mgで6.2%の有害事象が報告されました。

膵炎や胆石症の副作用発生率はtirzepatide使用群とプラセボ群で同等程度ですが、胆嚢炎・急性胆嚢炎の発生頻度はtirzepatide投与群で頻繁に報告されております。

 

注意)米国で承認されているGLP-1ダイエットに関しては、BMIが30を超える方に対して「肥満症の治療」を目的として行われておりますので、安易に「ダイエットがしたいから」という理由でGLP-1を皮下注することは、適正な使用方法ではないことをご留意ください。

 

日本医師会「GLP-1ダイエット」に問題提起。トルリシティ、ビクトーザ、リベルサス錠

日本医師会、の今村副会長は2022年3月2日の会見にて、自由診療でオンライン診療を活用し、GLP-1受容体作動薬をダイエット目的で不適切に処方状況について問題提起しました。

本来糖尿病治療薬として使用される「GLP-1受容体作動薬」ですが、オゼンピック皮下注SDの供給が停止しているため、必要な患者さんへの供給が難しい状況が続いています。この状況に関して「本来の治療に用いる医薬品が不適切に流通して健康な方が使用してしまうというような状況は、国民の健康を守るという日本医師会の立場としては看過できない」と指摘しています。

GLP-1受容体作動薬に関しては、2021年に米国でBMIが30以上の方に対しての適応が追加承認されています。

米国における適応症を以下に示します。

米国FDAがセマグルチドに肥満症の適応追加承認(2021/6/15)

米国食品医薬品局(FDA)は2021/6/4にGLP-1受容体作動薬(セマグルチド)について肥満症、過体重成人における慢性体重管理の適応症を追加承認しました。

商品名はWegovy(成分名:セマグルチド)です。

セマグルチドに関しは、日本国内で注射薬「オゼンピック皮下注」、内服薬「リベルサス錠」は医療用医薬品として使用されています。

米国でセマグルチドが肥満症の適応追加

 

今回、適応が追加となったセマグルチドの具体的な適応を確認してみます。

・BMI27kg/㎡以上の患者ですくなくとも体重関連疾患(高血圧、2型糖尿病、脂質異常症)の疾患を1つ以上有する

・BMI30kg/㎡以上の患者に対する食事療法・運動療法への補助療法

肥満症に対するセマグルチドの使用量は16~20週間かけて徐々に増量していき、最終的には週1回2.4mgまで増量していきます。(2型糖尿病に対する使用量の2.4~4.8倍量)

(糖尿病治療としてセマグルチド(オゼンピック皮下注)を使用する場合、週1回0.25mgから開始して、0.5mgが維持量。効果不十分で週1回1mgまで増量可能)

肥満症に対するセマグルチドを使用した臨床試験データ

平均体重105kg、平均BMI38kg/㎡、平均年齢46歳(糖尿病の既往がない成人)を対象としてセマグルチドを68週間(16週間の増量期間を含む)を使用した結果、プラセボ群と比較して、投与群で平均13kgの体重減少(12.4%)が報告されています。

2型糖尿病成人を対象とした臨床試験では、平均体重100kg、平均BMI36kg/㎡、平均年齢55歳の場合、セマグルチドを68週間(16週間の増量期間を含む)を使用した結果、プラセボ群と比較して、投与群で平均6.2kg(6.2%)の体重減少が報告されています。

セマグルチド使用による主な副作用

吐き気、げり、嘔吐、便秘、胃の痛み、頭痛、腹部膨満感、低血糖など

 

トルリシティ(GLP-1アナログ)にダイエット効果は期待できない理由(2020/8/23)

 

2型糖尿病治療薬のGLP-1アナログを使用したダイエットが話題になっているようです。自由診療と称して「トルリシティ」をダイエット目的で処方している美容クリニックもインターネットの検索ワードに出てきます。

 

これに対し、日本糖尿病学会は「美容・痩身・ダイエット等を目的とする適応外使用に関して、

2 型糖尿病を有さない日本人における安全性と有効性は確認されていない」として警告を発しています。

GLP-1 受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解

 

以下に私個人の意見と「GLP-1アナログダイエット」について調べた感想を記します。

 

GLP-1アナログ製剤にはダイエット効果はあると思いますが、意を決して自由診療として肥満治療を行うのであれば、臨床データを踏まえた上で、BMI30以上の方が適切な投与量での治療を行った方がいいと感じます。

(米国FDAは高用量GLP-1製剤を2014年に肥満治療薬として承認しています。)

 

アメリカにおけるGLP-1アナログ製剤による肥満治療実績

 

2型糖尿病治療薬に“ビクトーザ皮下注(一般名:リラグルチド)”というGLP-1アナログ製剤があります。ビクトーザ注射剤は通常1日1回0.9mgという量を皮下注射します。糖尿病の症状によっては1回に1.8mgまで増量できる製剤です。(日本国内でも使用されています)

 

アメリカのFDA(日本の厚生労働省のようなところ)において、肥満治療として承認された薬のデータを確認したところ、BMIが30以上または、BMIが27以上で基礎疾患を有している被験者を対象としてリラグルチド皮下注(ビクトーザ)を1回に3mgを56週間(392日間)使用した場合に、56%の被験者で体重が5%以上減少したというデータがあります。

(160週間(約3年間)リラグルチド皮下注(ビクトーザ)を1回3mg使用した場合に体重が5%以上減少した被験者の割合は28%です。)

 

<<BMIが30以上のめやす>>

身長:150cmで体重69kg以上

身長:155cmで体重73kg以上

身長:160cmで体重77kg以上

身長:165cmで体重82kg以上

身長:170cmで体重87kg以上

身長:175cmで体重92kg以上

身長:180cmで体重98kg以上

身長:185cmで体重103kg以上

 

上記のデータからわかることは、肥満治療としてGLP-1アナログを使用するのであれば、BMI30以上の方が糖尿病治療で使用する量の約2倍の投与量を1年間継続使用する必要があるということです。少なくとも、BMI25未満の方が興味本位なダイエットと称してトルリシティを3カ月程度使用したところで有意差があるデータがでるとは思えません。

 

仮に日本国内でGLP-1アナログを使用して肥満治療を自由診療で行うのであれば

ビクトーザ18mg:10396円を1カ月で5本使用する計算になりますので薬代だけで1カ月あたり5万2000円程度の費用となります。

繰り返しとなりますが、糖尿病学会の記載通り「美容・痩身・ダイエット等を目的とする適応外使用に関して、2 型糖尿病を有さない日本人における安全性と有効性は確認されていません。」

GLP-1アナログの効果とは?

 

胃の内容物の空腹率を調節する効果があります。反対の働きをする物質は「グレリン」と呼ばれます。胃の中に食べ物があるとき、グレリンが分泌されれば胃腸が良く動き、グレリンが脳に働きかけて食欲は増します。一方、GLP-1が分泌されれば胃腸の動きが停滞し、脳に対して食欲ストップという命令を下します。

 

私たちの胃腸内部では「グレリン」と「GLP-1」がタイミングよく分泌されて、食欲をコントロールしています。

 

GLP-1という物質は分泌されても数分以内に分解されてしまうという特徴がありますが、分解されにくいように人工的に作られた薬が「GLP-1アナログ」です。そのためビクトーザ(GLP-1アナログ)を皮下注すると、24時間にわたって「胃腸の働きを抑え、食欲を抑える」という命令が下されることになります。

副作用

GLP-1アナログを皮下注すると、胃腸のはたらきが停滞しますので、吐き気・胃部不快感・便秘といった副作用が起こりえます。また胃腸の中に食べ物が貯留する時間が増えますので胆石症や発症率が高くなります。また場合によっては膵炎・腸閉塞といった消化器系の副作用も懸念されます(頻度不明)。さらに、胃腸の働きが停滞しますので、現在飲んでいる薬の吸収率・効き目がに変化が現れるかもしれません(FDAの添付文書より)

(他の血糖降下薬と併用した場合は低血糖が起こりえます)

 

現時点ではGLP-1アナログ製剤には注射剤しかないため、「GLP-1ダイエット」については“興味はあるけどやってみたいとは思わない”という方が多いかもしれません。しかし1年以内にはGLP-1アナログの飲み薬「リベルサス(セマグルチド内服薬)」が発売されると思いますので、GLP-1ダイエットの話題はしばらく続くかもしれません。

リベルサス錠が発売開始(2021年2月5日)

-糖尿病, 肥満
-GLP-1アナログ, ダイエット, トルリシティ, ビクトーザ

執筆者:ojiyaku


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メトグルコにおける禁忌「腎機能障害」の見直しについて

メトグルコにおける禁忌”腎機能障害”の見直しについて 腎機能障害患者を対象とするメトグルコの使用制限が見直されました。2016年4月にFDA(米国食品医薬品局)が見直しを行い、同年10月に欧州医薬品庁 …

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ランタスと比較してトレシーバの心血管リスク軽減(非劣勢)を添付文書に記載(FDA)

ランタスと比較してトレシーバの心血管リスク軽減(非劣勢)を添付文書に記載(FDA)   FDAは基礎インスリン製剤トレシーバの添付文書に、ランタスと比較してトレシーバの主要心血管リスク軽減デ …

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リベルサス錠が発売開始(2021年2月5日)

リベルサス錠が発売開始(2021年2月5日) 2型糖尿病治療薬であり世界初の経口GLP-1受容体作動薬「リベルサス錠」が2021年2月5日発売開始となりました。 GLP-1受容体作動薬は、これまで注射 …

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2023年12月発売予定のGEリスト(エクセルファイル)

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2023年4月薬価改定 新旧薬価差比較データ(エクセルファイル)

2022年4月薬価改定。新旧薬価差比較データ(エクセルファイル)

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薬剤師の育成について

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日医工・沢井・東和・日本ジェネリック・日本ケミファ・アメルの出荷調整リスト

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