経口GLP-1受容体作動薬orforglipronの糖尿病治療およびダイエット治療に関する治験成績(2023/7/9)
糖尿病治療およびダイエット治療としてGLP-1受容体作動薬が注目を集めています。
日本国内では皮下注薬だけでなく内服薬も販売が開始となっています(糖尿病治療として)
しかし、経口治療薬セマグルチド錠(リベルサス錠)は1日1回のうち最初の食事または飲水の前に、空腹でコップ半分の水(120ml以下)で服用し、服用後はすくなくとも30分間は飲食・他の薬剤の経口摂取を避けることというルールがあります(リベルサス錠の胃からの吸収が低下するため)
第83回の米国糖尿病学術集会にて、中外製薬が創薬し米Eli Lilly社が手掛けた経口GLP-1受容体作動薬「orforglipron」に関して、糖尿病治療およびダイエット治療に関する治験データが公開されました。
治験期間:26週(半年)
被験者(平均):383例、58.9歳、HbA1c8.1%、体重100.3kg、BMI:35.2
治験開始後26週時点におけるHbA1c変化量および体重変化量
orforglipron3mg服用群:-1.19ポイント(-3.7kg)
orforglipron12mg服用群:-1.91ポイント(-6.5kg)
orforglipron24mg服用群:-1.79ポイント(-9.7kg)
orforglipron36mg服用群:-2.03ポイント(-9.5kg)
orforglipron45mg服用群:-2.1ポイント(-10.1kg)
トルリシティ皮下注群:-1.10ポイント(-3.9kg)
プラセボ服用群:-0.43ポイント(-2.2kg)
上記の結果、orforglipron12mg以上の群でトルリシティ皮下注群に対して、有意なHbA1cの低下が示されました。
また、肥満症治療薬として使用された場阿に関しても12mg、24mg、36mg、45mgを26週間服用した結果、9~13.3kgの体重減少が確認され、36週間服用した結果10%以上の体重減少を達成した割合は46~75%と高い確率が報告されました。

GLP-1
2型糖尿病治療薬「マンジャロ皮下注2.5mg/5mgアテオス」が発売開始(2023/4/19)
日本イーライリリーと田辺三菱製薬は2型糖尿病治療薬(持続性GIP/GLP-1受容体作動薬)マンジャロ皮下注2.5mg/5mgアテオス(一般名:チルゼパチド)の2規格を発売しました。
マンジャロ皮下注は世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。
週1回2.5mgの開始量からスタートし、4週間投与した後、週1回5mgの維持量へ増量します。
効果不十分の場合は、4週間以上の間隔をあけて2.5mgずつ増量が可能で、最大で週1回15mgまで使用となっています。
本来であれば6つの用量規格があるのですが、今回は2.5mgと5mgの2規格が先行発売されました。高用量の4規格(7.5mg、10mg、12.5mg、15mg)については、2023年6月12日に発売予定となっています。
注意:GLP-1ダイエットに関しては、適応外使用による美容・ダイエットを目的とした自由診療で処方する医療広告が散見されるとして、日本糖尿病学会が注意喚起を行っています。
GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応使用(ダイエット)に関する糖尿病学会の見解
お笑い芸人の「かまいたち山内さん」がGLP-1ダイエットにより3カ月で8キロ痩せたことについて動画を公開しましたが2023年4月18日夜には動画が非公開となりました。
ウゴービ皮下注(セマグルチド)が「肥満症」の適応症で厚労省で承認される(2023/1/29)
2023年1月27日の厚労省・薬食審にてセマグルチドを主成分とする皮下注製剤「ウゴービ皮下注」が「肥満症」の適応症で医薬品として承認されました。
いわゆるGLP-1受容体作動薬として、はじめて「肥満症」に使用できる製剤となります。
これまでに「GLP-1受容体作動薬をダイエットに使用してはいけませんよ」と言われ続けてきました。
日本医師会の副会長は2022年3月2日の会見にて、自由診療でオンライン診療を活用し、GLP-1受容体作動薬をダイエット目的で不適切に処方状況について問題提起しました。
そんな中、「ウゴービ皮下注」が承認されたわけですから、保険治療として「肥満症」の治療に使用できることとなります。
米国では2021年6月に商品名「Wegovy」として使用が開始されております。
適応症は
・BMI27kg/㎡以上の患者ですくなくとも体重関連疾患(高血圧、2型糖尿病、脂質異常症)の疾患を1つ以上有する
・BMI30kg/㎡以上の患者に対する食事療法・運動療法への補助療法
となっており、肥満症に対してセマグルチドを16~20週かけて徐々に増加していき、最終的に週1回2.4mgまで増量していくとされています。
米国での臨床データとしては、平均体重105kg(平均BMI:38kg/㎡)の被験者を対象としてウゴービ皮下注を68週間(約1年4カ月)使用した場合、平均で13kgの体重減少が報告されています。
BMI:30kg/㎡とは、男性で言いますと身長175cm体重93kg程度の方、女性で言いますと身長160cm体重78kgの方が想定されます。
青年期(12歳以上18歳未満)の肥満症におけるセマグルチド週1回の投与データ(2022/11/6)
青年期(12歳~18歳未満)の肥満または過体重の被験者(201名)を対象として、週1回2.4mgのセマグルチドを68週間(約1年と3カ月程度)投与したデータが公開されました。
被験者201名中180名(90%)が治療を完了しました。
治療完了の68週時点でBMI平均変化率について
セマグルチド投与群:-16.1%
プラセボ投与群:0.6%
セマグルチド投与群では131人中95人(73%)で5%以上の体重減少が報告されたのに対して、プラセボ群では62人中11人(18%)で5%以上の体重減少が報告されました。
胃腸障害の有害事象
セマグルチド投与群:62%
プラセボ群:42%
肥満青年において、週1回のセマグルチド2.4mg投与はBMIを大きく低下させることが示された
マンジャロ皮下注アテオス(GIP/GLP-1受容体作動薬)が医薬品として承認申請(2022/8/26)
GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス(成分名:チルゼパチド)」が2022年9月26日、厚生労働省より「2型糖尿病」の効能効果にて日本国内で製造販売が承認されました。
持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注」が2型糖尿病に対する国内製造販売承認を取得
薬価:2023年3月8日 薬価収載
2.5mg0.5mL1キット 1924円
5mg0.5mL1キット 3848円(1日薬価:550円)
7.5mg0.5mL1キット 5772円
10mg0.5mL1キット 7696円
12.5mg0.5mL1キット 9620円
15mg0.5mL1キット 1万1544円
GIPおよびGL-1はともに血糖管理に関するインクレチンホルモンで、血液中のグルコースに依存してインスリンを分泌を促す効果が期待されます。
マンジャロ皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス:適応症「2型糖尿病」
用法・用量
通常、成人には、チルゼパチドとして週1回5mgを維持用量とし、皮下注射する。ただし、週1回2.5mgから開始し、4週間投与した後、週1回5mgに増量する。なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、週1回5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量できる。ただし、最大用量は週1回15mgまでとする
2022年9月には医薬品として正式に承認される見通しです。
GIP/GLP-1共受容体作動薬tirzepatideをダイエット目的で使用した治験報告
2022年5月13日、米国食品医薬品局(FDA)は2型糖尿病に対してGIP/GLP-1共受容体作動薬tirzepatideの適応を承認しました。(2022/6/12)
GIP/GLP-1共受容体作動薬tirzepatideはGLP-1とGIPの受容体に作用する医薬品で、週に1回皮下投与します。
既存の治療薬と、tirzepatideとの比較データによると、
1週間にtirzepatide 15mgを皮下投与したことによるHbA1c値の変換率を確認してみると、セマグルチド群と比較して平均0.5%低下、インスリンデグルデグ群と比較して平均0.9%低下、インスリングラルギン群と比較して平均1%低下したことが報告されています。
このように、2型糖尿病に対する有効性が報告され、医薬品として承認されたtirzepatide ですが、それだけではおさまらず、肥満症に対するダイエット効果も臨床試験が行われておりますので、今回はtirzepatide のダイエット効果についての報告を調べてみました。
tirzepatide のダイエット効果について
被験者:18歳以上で肥満度指数(BMI)が30以上、またはBMIが27以上で高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患などの合併症を有している患者
2539名(平均体重:104.8kg、平均BMI:38)
注)BMI:38の例(身長150cm体重86kg/身長160cm体重98kg/身長170cm体重110kg身長180cm124kg)
上記被験者をプラセボ群(偽薬)、tirzepatide 5mg投与群、tirzepatide 10mg投与群、tirzepatide 15mg投与群の4群に割り振り、週1回の投与を72週間(約1年4か月)投与した時点における体重の変化率について評価しています。
食事に関しては、栄養士が定期的にカウンセリグンを行い、運動に関しては1週間に少なくとも150分は体を動かすことを順守するルールとなっています。
投与開始から72週目の体重変化について
プラセボ群:-3.1%
tirzepatide 5mg投与群:-15%
tirzepatide 10mg投与群:-19.5%
tirzepatide 15mg投与群:-20.9%
tirzepatide を投与することでプラセボと比較して有意な体重減少が確認されました。
有害事象に関しては、消化器関連(悪心・下痢・便秘)の報告があるものの、そのほとんどが軽度から中等度であり、用量が増えるごとに有害事象も増加しました。
プラセボ群の有害事象が2.6%であったのに対して、tirzepatide 5mgで4.3%、10mgで7.1%、15mgで6.2%の有害事象が報告されました。
膵炎や胆石症の副作用発生率はtirzepatide使用群とプラセボ群で同等程度ですが、胆嚢炎・急性胆嚢炎の発生頻度はtirzepatide投与群で頻繁に報告されております。
注意)米国で承認されているGLP-1ダイエットに関しては、BMIが30を超える方に対して「肥満症の治療」を目的として行われておりますので、安易に「ダイエットがしたいから」という理由でGLP-1を皮下注することは、適正な使用方法ではないことをご留意ください。
日本医師会「GLP-1ダイエット」に問題提起。トルリシティ、ビクトーザ、リベルサス錠
日本医師会、の今村副会長は2022年3月2日の会見にて、自由診療でオンライン診療を活用し、GLP-1受容体作動薬をダイエット目的で不適切に処方状況について問題提起しました。
本来糖尿病治療薬として使用される「GLP-1受容体作動薬」ですが、オゼンピック皮下注SDの供給が停止しているため、必要な患者さんへの供給が難しい状況が続いています。この状況に関して「本来の治療に用いる医薬品が不適切に流通して健康な方が使用してしまうというような状況は、国民の健康を守るという日本医師会の立場としては看過できない」と指摘しています。
GLP-1受容体作動薬に関しては、2021年に米国でBMIが30以上の方に対しての適応が追加承認されています。
米国における適応症を以下に示します。
米国FDAがセマグルチドに肥満症の適応追加承認(2021/6/15)
米国食品医薬品局(FDA)は2021/6/4にGLP-1受容体作動薬(セマグルチド)について肥満症、過体重成人における慢性体重管理の適応症を追加承認しました。
商品名はWegovy(成分名:セマグルチド)です。
セマグルチドに関しは、日本国内で注射薬「オゼンピック皮下注」、内服薬「リベルサス錠」は医療用医薬品として使用されています。
今回、適応が追加となったセマグルチドの具体的な適応を確認してみます。
・BMI27kg/㎡以上の患者ですくなくとも体重関連疾患(高血圧、2型糖尿病、脂質異常症)の疾患を1つ以上有する
・BMI30kg/㎡以上の患者に対する食事療法・運動療法への補助療法
肥満症に対するセマグルチドの使用量は16~20週間かけて徐々に増量していき、最終的には週1回2.4mgまで増量していきます。(2型糖尿病に対する使用量の2.4~4.8倍量)
(糖尿病治療としてセマグルチド(オゼンピック皮下注)を使用する場合、週1回0.25mgから開始して、0.5mgが維持量。効果不十分で週1回1mgまで増量可能)
肥満症に対するセマグルチドを使用した臨床試験データ
平均体重105kg、平均BMI38kg/㎡、平均年齢46歳(糖尿病の既往がない成人)を対象としてセマグルチドを68週間(16週間の増量期間を含む)を使用した結果、プラセボ群と比較して、投与群で平均13kgの体重減少(12.4%)が報告されています。
2型糖尿病成人を対象とした臨床試験では、平均体重100kg、平均BMI36kg/㎡、平均年齢55歳の場合、セマグルチドを68週間(16週間の増量期間を含む)を使用した結果、プラセボ群と比較して、投与群で平均6.2kg(6.2%)の体重減少が報告されています。
セマグルチド使用による主な副作用
吐き気、げり、嘔吐、便秘、胃の痛み、頭痛、腹部膨満感、低血糖など
トルリシティ(GLP-1アナログ)にダイエット効果は期待できない理由(2020/8/23)
2型糖尿病治療薬のGLP-1アナログを使用したダイエットが話題になっているようです。自由診療と称して「トルリシティ」をダイエット目的で処方している美容クリニックもインターネットの検索ワードに出てきます。
これに対し、日本糖尿病学会は「美容・痩身・ダイエット等を目的とする適応外使用に関して、
2 型糖尿病を有さない日本人における安全性と有効性は確認されていない」として警告を発しています。
GLP-1 受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解
以下に私個人の意見と「GLP-1アナログダイエット」について調べた感想を記します。
GLP-1アナログ製剤にはダイエット効果はあると思いますが、意を決して自由診療として肥満治療を行うのであれば、臨床データを踏まえた上で、BMI30以上の方が適切な投与量での治療を行った方がいいと感じます。
(米国FDAは高用量GLP-1製剤を2014年に肥満治療薬として承認しています。)
アメリカにおけるGLP-1アナログ製剤による肥満治療実績
2型糖尿病治療薬に“ビクトーザ皮下注(一般名:リラグルチド)”というGLP-1アナログ製剤があります。ビクトーザ注射剤は通常1日1回0.9mgという量を皮下注射します。糖尿病の症状によっては1回に1.8mgまで増量できる製剤です。(日本国内でも使用されています)
アメリカのFDA(日本の厚生労働省のようなところ)において、肥満治療として承認された薬のデータを確認したところ、BMIが30以上または、BMIが27以上で基礎疾患を有している被験者を対象としてリラグルチド皮下注(ビクトーザ)を1回に3mgを56週間(392日間)使用した場合に、56%の被験者で体重が5%以上減少したというデータがあります。
(160週間(約3年間)リラグルチド皮下注(ビクトーザ)を1回3mg使用した場合に体重が5%以上減少した被験者の割合は28%です。)
<<BMIが30以上のめやす>>
身長:150cmで体重69kg以上
身長:155cmで体重73kg以上
身長:160cmで体重77kg以上
身長:165cmで体重82kg以上
身長:170cmで体重87kg以上
身長:175cmで体重92kg以上
身長:180cmで体重98kg以上
身長:185cmで体重103kg以上
上記のデータからわかることは、肥満治療としてGLP-1アナログを使用するのであれば、BMI30以上の方が糖尿病治療で使用する量の約2倍の投与量を1年間継続使用する必要があるということです。少なくとも、BMI25未満の方が興味本位なダイエットと称してトルリシティを3カ月程度使用したところで有意差があるデータがでるとは思えません。
仮に日本国内でGLP-1アナログを使用して肥満治療を自由診療で行うのであれば
ビクトーザ18mg:10396円を1カ月で5本使用する計算になりますので薬代だけで1カ月あたり5万2000円程度の費用となります。
繰り返しとなりますが、糖尿病学会の記載通り「美容・痩身・ダイエット等を目的とする適応外使用に関して、2 型糖尿病を有さない日本人における安全性と有効性は確認されていません。」

glp-1-diet
GLP-1アナログの効果とは?
胃の内容物の空腹率を調節する効果があります。反対の働きをする物質は「グレリン」と呼ばれます。胃の中に食べ物があるとき、グレリンが分泌されれば胃腸が良く動き、グレリンが脳に働きかけて食欲は増します。一方、GLP-1が分泌されれば胃腸の動きが停滞し、脳に対して食欲ストップという命令を下します。
私たちの胃腸内部では「グレリン」と「GLP-1」がタイミングよく分泌されて、食欲をコントロールしています。
GLP-1という物質は分泌されても数分以内に分解されてしまうという特徴がありますが、分解されにくいように人工的に作られた薬が「GLP-1アナログ」です。そのためビクトーザ(GLP-1アナログ)を皮下注すると、24時間にわたって「胃腸の働きを抑え、食欲を抑える」という命令が下されることになります。
副作用
GLP-1アナログを皮下注すると、胃腸のはたらきが停滞しますので、吐き気・胃部不快感・便秘といった副作用が起こりえます。また胃腸の中に食べ物が貯留する時間が増えますので胆石症や発症率が高くなります。また場合によっては膵炎・腸閉塞といった消化器系の副作用も懸念されます(頻度不明)。さらに、胃腸の働きが停滞しますので、現在飲んでいる薬の吸収率・効き目がに変化が現れるかもしれません(FDAの添付文書より)
(他の血糖降下薬と併用した場合は低血糖が起こりえます)
現時点ではGLP-1アナログ製剤には注射剤しかないため、「GLP-1ダイエット」については“興味はあるけどやってみたいとは思わない”という方が多いかもしれません。しかし1年以内にはGLP-1アナログの飲み薬「リベルサス(セマグルチド内服薬)」が発売されると思いますので、GLP-1ダイエットの話題はしばらく続くかもしれません。