追記(2019年4月23日)
2019年4月発表の「高血圧治療ガイドライン2019」では、合併症のない75歳未満の成人における降圧目標が130/80mmHg未満と設定され、既存の降圧目標から10mmHgずつ引き下げられました。高尿酸血症合併高血圧症に関しては「高血圧患者で血清尿酸値が8.0mg/dL以上の場合、尿酸降下薬の開始を考慮する。血清尿酸値6.0mg/dL以下を管理目標とする」という記載となっております。
また、高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版(2019年改訂)では高尿酸血症合併高血圧症患者に対して生命予後改善や心血管病発症リスク軽減の目的、および高尿酸血症合併心不全患者に対して生命予後改善の目的では、いずれも「実施しないことを条件付きで推奨する(積極的には推奨できない)」と記載されております。その要因として、効果のエビデンスが非常に弱く、重篤な有害事象に関する情報があるため、安全面のも考慮して、エビデンスの度合いはD(非常に弱い)と記されております。
ただし、高尿酸血症合併高血圧症に関しては、降圧薬使用中の高血圧患者は痛風や腎障害を合併しやすことから、痛風・腎障害を目的として尿酸降下薬を投与することは推奨されています。
(尿酸降下薬には腎保護作用は報告されているものの、心血管リスクを抑制する効果は報告されていないため)
追記(2019年4月9日)
無症候性高尿酸血症患者さんを対象としてフェブリクを服用したデータによると、非服用群と比較して動脈硬化を抑制する“働きはない“という報告が日本循環器学会(2019年)ありました。(国内報告)
被験者:血清尿酸値が7.0mg/dlを超えており、頸動脈エコーでの頸動脈内膜中膜複合体厚の最大値が1.1mm以上の無症候性高尿酸血症患者を、フェブリク服用群(239例)と生活指導のみをおこなった群(244例)に振り分けて、動脈硬化の進展度合いを評価しています。
注:頸動脈の内膜中膜複合体厚とは、首を流れている動脈の血管壁の厚みのことです。血管壁が厚みを増すと、血管が細くなりますので、脳血管障害などのリスクが高くなることが示されています。この血管壁の厚みが1.1mmを超えると動脈硬化が進展(悪化)しているという指標と考えられています。
フェブリク服用群:1日1回10mgから開始して、40mgを維持量とする。可能であれば60mgまで増量する。
調査開始から2年後(24か月後)の結果によると、内膜中膜複合体厚の変化は
フェブリク服用群:1.2%
生活指導群:1.4%
という結果となり動脈硬化抑制作用に関しては、有意差がないという結果となりました。(フェブリク錠を飲んでも動脈硬化を抑える効果はない)
さらに、複合心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死的脳卒中)に関しても両群での有意差がないという結果となっています。
副作用
肝機能障害
フェブリク服用群:3.7%
生活指導群:1.2%
皮疹
フェブリク服用群:2.1%
生活指導群:0.0%
(日本循環器学会2019年3月29-31日より)
以下は、フェブリクを飲んで厳格に尿酸値を低く保つことが、腎機能を保つことに効果があるという報告です。(2019年3月14日)
高尿酸血症を有する高齢者においてフェブリク40mgを飲むと腎機能の低下を抑制する効果があることを川崎医大などの研究チームが大規模臨床試験の結果としてデータを公開しています。(European Heart Journalオンライン)
報告によると、尿酸値を4.5mg/dlまで厳格に管理することで腎機能の低下リスクが減少しています。
解釈はさまざまですので、何とも言えませんが、尿酸値は2.0mg/dl以上であれば、低ければ低いほどいいという解釈をする場合、
健康診断の結果を見て
“尿酸値が7を超えてなかったかビールが飲める”
という発言は、今後消えていくかもしれません。
被験者:65歳以上の脳心臓腎臓血管リスクを有する高尿酸血症(1070名)
期間:3年間
フェブリク服用群:537名
フェブリク10mgから開始して、4週目に20mgへ増量、8週目に40mgまで増量
エンドポイントにおける平均服用量:フェブリク29.1mg±12.3mg
(537名中362名がフェブリク40mgを服用、それ以外は尿酸値をみながら減量)
非フェブリク服用群:533名
血清尿酸値が高い場合はアロプリノール100mgの服用を検討する
(533名中145名がアロプリノール100mgを服用)
フェブリク群・非フェブリク群ともに尿酸値が2.0mg/dlを下回った場合は、薬剤を減量すること
高尿酸血症(尿酸値が7~9mg/dl以上)の65歳以上の高齢者に対して、
“フェブリク40mgを服用する“または”アロプリノール100mgを使用するかどうか検討する“
という比較実験は、フェブリク・アロプリノールの効果を比較するというものではなく、尿酸値をしっかり低下させた場合、“脳・心臓・腎臓リスク”がどの程度減少するかを確認したデータと個人的には捉えております。
(フェブリク40mgとアロプリノール100mgの服用比較ではあまりに、アロプリノールが足りません)
フェブリク服用群の尿酸値:4.50±52 mg/dl
非フェブリク服用群の尿酸値:6.76±1.45 mg/dl
フェブリク40mgを服用したため尿酸値が4.5まで低下しています。非服用群においても尿酸値が7以下まで抑えられています。この場合の解釈は非服用群が一般的な医療としての尿酸値管理、フェブリク40mg服用群は“厳格な尿酸値管理”という解釈かもしれません。
では65歳以上の高齢者で尿酸値を4.5まで厳格に管理するとどのような利点があるかを確認してみました。
死亡人数・脳血管疾患・非致死性冠動脈疾患・心不全・動脈硬化・腎障害・心房細動などの複合的な主要評価項目の発生率
フェブリク服用群:23.3%
非フェブリク服用群:28.7%
腎機能障害リスク
フェブリク服用群:16.2%
非フェブリク服用群:20.5%
尿酸値を4.5mg/dlまで厳格に管理すると主要評価項目・腎機能低下といったリスクを軽減できることが上記の報告より確認されました。
興味深い点として、フェブリク服用群・非服用群における年間平均eGFR(推定糸球体ろ過量)には有意差が示されませんでした。
(厳密なデータとしては、フェブリク服用群でGFRの低下率がー0.37、非服用群でー0.69となっており、フェブリクを服用したほうがGFRの低下率が少ないのですが、このデータについては有意差が示されなかったという意味です。)
今回報告された臨床試験はフェブリクを製造販売している帝人ファーマから資金調達を受けているため筆者らはまとめとして「フェブリクを服用することが尿酸値を低下させ、腎機能障害の進行を抑制させる。日本人の13%慢性腎臓尿(CKD)とも予想されており、無症候性高尿酸血症の予防的治療としても有益なデータ」とまとめています。
2015年ころにSPRINT試験という臨床データが公開されたことを、今回の報告を見て思い出しました。
SPRINT試験とは、血圧を120以下に厳格に管理した群は血圧を140以下に管理した群と比較して心血管リスクを低く管理することができるという報告のことです。今回の高尿酸血症患者さんのデータはこれに近い印象をうけました。
フェブリク40mgによって尿酸値を4.5mg/dlまで厳格に管理した群は、尿酸値6.76mg/dl群と比較して腎障害リスクを優位に低下した。という解釈です。
フェブリク40mgの薬価が1錠で108.7円ですので、費用対効果があるかどうかはわかりませんが、尿酸値の厳格管理を行うと、腎障害リスクが低下する意味合いは非常に有益なデータに感じました。