Yahooのトップページに「イブプロフェン服用による男性の性機能低下に関する報告」が記されました。これは2018年1月にデンマークのチームがPNASで開示したデータをYahooが載せたものです。国内におけるYahooの影響力はTVや新聞に匹敵するものがありますので、患者様からこの件に関して質問を受ける可能性がゼロではないので、念のためPNASの記事を読んでみました。
イブプロフェンを含む解熱鎮痛薬を妊婦が使用すると、子供の生殖機能の異常が生じるリスクが上昇するという報告はあるものの、成人男性に関する影響はわかっていないということを背景として研究がスタートしています。
イブプロフェンと男性の性機能低下に関する報告
NSAIDSにはたくさんの種類がありますが、一般的な痛み・発熱においてイブプロフェンは使用されており、運動選手によって多用されているという事情があることからイブプロフェンに関する下垂体-精巣に関して研究が行われました。
対象;18~35歳までの健康な白人男性14人
投与量:イブプロフェン600mgを1日2回6週間投与
比較対象:プラセボを1日2回6週間服用した17人の採血データ
結果
イブプロフェン服用群において、血中の黄体形成ホルモン(LH)の濃度が14日時点でプラセボ群に比べて23%高くなっており、44日目では33%とさらに高くなっています。
血中のイブプロフェン濃度と血中のLH濃度には正の相関関係が確認されました。(イブプロフェンの濃度が上がると、LH濃度も上がる)
男性の「遊離テストステロン/LH比」を計算したところ14日後に18%減少、44日後には23%に低下していました。
これらのデータをまとめると、イブプロフェンの服用が性腺機能低下の状態を誘発したことが示唆され、服用から14日後の採血データで低下が示され、試験終了まで44日間その状態が維持されました。
上記の試験は6週間という期間で行われましたが、イブプロフェンは短期間の使用であっても性腺機能の低下を誘発することが示されました。筆者らは長期にわたるイブプロフェンの使用は性腺機能低下の助長や、精力低下・筋力低下といった症状を呈する可能性があるかもしれないとまとめています。
イブプロフェンは市販されている風邪薬・頭痛薬・痛み止めに含まれていますので、このニュースを見て気にする方もでてくるかもしれません。
ただ、私の印象ですが、血中イブプロフェン濃度と血中のLH濃度が正の相関関係にあるという記述からすると、イブプロフェンを飲むと少しだけ性腺機能が低下するものの、イブプロフェンを中止すれば正常に戻るとも解釈できるかと思います。
私が気になる点は、米国や欧州における代表的なNSAIDSといえばイブプロフェンですが、日本国内における代表的なNSAIDSはロキソニン(ロキソプロフェン)であるという点です。イブプロフェンもロキソニンもどちらもプロピン酸系のNSAIDSです。ロキソニンは日本・中国・ブラジル・メキシコ・タイ・インドなどの国では主流な解熱鎮痛剤ですが、欧州・欧米では使用されません。
そのためロキソニンに関してもイブプロフェンと同様にLH濃度との相関があるかどうかが気になるところではあります。ロキソニン錠を販売している第一三共の学術へ、イブプロフェンによる性腺機能低下のような報告がロキソニン錠でも報告されているかどうか確認してみましたが、「そのような検証はしていません。ラットによる動物実験レベルのデータですが、2〜8mg/kgをラットに与えても催奇形性等の副作用は見られなかったというデータしかありません」という回答を得ました。
NSAIDSとLH濃度・性腺機能低下に関する成人男性についてのデータはこれからの調査に注目していく感じになりそうです。