授乳婦にクラビット錠が短期間処方されることがあります。添付文書上は「クラビット錠を投与中は授乳を避けること」と記されていますが、処方医によっては授乳を避けなくてもいい(授乳していても問題ない)と指示する先生もおります。
クラビット錠を販売している第一三共のホームページには、クラビット(レボフロキサシン500mg/日を9日間静注した後に、14日間経口投与を行ったデータでは、授乳婦の血中濃度と母乳中濃度は同等であり、乳汁中への移行生が高いと動物実験で報告されていることも踏まえて、授乳は避けた方がいいと記されています。
上記は出産直後に敗血症を患った患者様のデータであり、クラビットの投与日数(静注と内服の合計日数)としては長いタイプの投与方法と感じます。膀胱炎や細菌感染で外来を受診して、5日間クラビット錠を服用する患者様の例として上記の報告例はあまり参考にならないかもしれません。
母親がクラビット錠を服用した時の乳汁に移行するクラビットの量に関する情報及びリスクについて確認してみると
M/P比(乳汁中薬物濃度と母親の血中薬物濃度の比):0.95(ほとんど同じ濃度)
RID(%)(乳児の摂取量÷母親の投与量):10.5〜17.2
RIDが10%以下の薬ならば、一般的に授乳できると考えられています。
クラビット錠は10〜17%となっていますので、RIDだけを見ると判断しかねるかもしれません。
授乳によるリスク:安全性は中程度。動物実験では母乳への移行が認められている薬剤ですが、リスクを証明する根拠が見当たらない薬剤とされています。
国内では上記のような内容であることがわかりました。
ここまでの内容では薬局が患者様に対して「クラビット錠は授乳しながら飲んでも問題ありませんよ」と言い切るには少し情報不足な気がします。そこで次に海外における授乳とクラビットに関する報告を確認してみました。
クラビット錠のようなフルオロキノロン類の抗菌剤は、以前は乳児の発育において関節への悪影響が懸念されていましたが、最近の研究ではそのようなリスクは非常に低いことが示されており母乳育児に悪影響を及ぼさないと考えられている。と記されています。
新生児期における敗血症の治療としてフルオロキノロン類(シプロフロキサシン)を9人の新生児に42ヶ月(3年間)投与した時のデータを確認して見ると、比較治療として投与されたセフォタキシム群と比べて、成長及び発達に関する統計的な有意差は認められませんでした。シプロフロキサシン投与群において骨や関節の変形といった症状は認められませんでした。
新生児へのシプロフロキサシンの投与量は4〜40mg/kg/日(静脈内投与)であり、血中ピーク濃度は0.98〜5.7mg/Lと報告されています。
上記は新生児に対するシプロフロキサシンの例ですが、同類薬であるフルオロキノロンに関しても悪影響は及ぼさないであろうと推測されます。
(動物実験において関節異常(関節軟骨の水疱・びらん形成)が報告されているため日本国内でクラビット錠は15歳未満に対して禁忌となっています。)
授乳婦10人がタリビット錠400mgを1日2回3日間服用した時のデータを確認してみると、授乳婦がタリビット400mgを服用してから2時間後に血中濃度が最大(2.4ml/L)となり、その後4時間後(1.9mg/L)、6時間後(1.25mg/L)、9時間後(0.64mg/L)、12時間後(0.29mg/L)と減少していきます。
上記の期間、母乳育児の乳児は毎日0.36mg/kg(最大推定値)のタリビットを服用する計算となります。
授乳婦が1日1回500mgのクラビット錠を服用すると、乳児は母乳から1日1.25mgのクラビットを摂取するという報告もあります。
上記で示した乳児のクラビット摂取量は治療域と比較してはるかに少ない量(20分の1以下)であることから授乳婦が短期間、クラビット錠を服用したとしても、乳児への影響としては許容できる量であると考えられます。
米国での臨床報告は具体的な数字も記されており、患者様に伝えやすい内容に感じました。
クラビット錠を処方された授乳婦に対して「先生から授乳中でもクラビットを飲んでいいと言われたんですけど・・」と質問を受けた場合は
「お母さん(授乳婦)が口にしたものは少なからず乳汁中にも含まれます。1日1回クラビット錠500mgをお母さん(授乳婦)が飲むと、授乳中のお子さんは400分の1程度の量のクラビットを飲むとい計算になります。この量は乳児にとって非常に少ない量であるため乳児にとって許容できる量と考えられます」