ロコアテープの効果と組織移行性の高さについて
ロコアテープの成分であるエスフルルビプロフェンは、アドフィードパップやヤクバンテープ、ロピオン静注50mgなどの主成分であるフルルビプロフェンの光学異性体です。フルルビプロフェンの光学異性体にはS体とR体があるのですが、COX阻害作用に関してはS体の力価が強いのに対し、R体にほとんど力価がないことからS体だけを集めた製剤としてエスフルルビプロフェンという命名がなされました。
S体とR体のCOX1およびCOX2阻害作用について試験管内データの比較をみてみると
R体(エスフルルビプロフェン):S体=3300:1
あくまで試験管内のデータではありますがR体の力価が非常に強いことが分かります。既存薬のアドフィードパップ40mgが”R体とS体混合されたパップ剤”であり、新発売ささえるロコアテープ40mg”R体の単独成分のテープ剤”です。強さに関するデータは順を追って記載致します。
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ロコアテープの効果について
変形性膝関節症患者さんを対象としてロコアテープを12時間単回貼付した時の組織移行性についてアドフィードパップ(R体とS体の混合:フルルビプロフェン水性貼付剤40mg)と比較したデータを見てみると、膝深部組織中および血漿中への移行性はいずれもロコアテープの方が高く、経皮吸収率はロコアテープ44.46%、アドフィードパップ5.82%と大きな差が見られます。
起立時の膝の痛みについて比較したデータでは、貼付後1週間後から差がみられロコアテープの貼付により痛み症状が軽減することに優越性が確認されています。また、歩行時の痛みについては、貼付後1日目からアドフィードパップよりも鎮痛効果が高いことが治験段階で確認されています。
薬理作用や薬物動態のデータを確認している中で、ロコアテープの鎮痛作用が他の外用薬に比べて強い理由が見えてきました。効き目の強さには2つの要因があると私は思います。まず1つ目は、ロコアテープの主成分であるエスフルルビプロフェンの力価が他のNSAIDSに比べて強いことが上がられます。試験管内のデータですが、一定量のCOX1およびCOX2をどれだけ少量NSAIDSで阻害できるかというデータがインタビューフォームに記載されています。
ロコアテープの成分:8.97
アドフィードの成分:17.5
モーラステープの成分:38.2
ロキソニンの活性代謝物:1470
データは、より少ないほど効き目が良いというデータなのでロコアテープの成分がよく効くことがわかります。同様にPGE2産生阻害作用でも類似データとなっています。
ただし、これはあくまで試験管内のデータです。実際の使用においては、主成分が患部へと到達してはじめて鎮痛効果を示すわけです。そのため貼り薬の効き目を左右する重要なポイントの一つに浸透性(しみこみやすさ)があります。2つ目の要因は組織移行性(しみこみやすさ)が非常に高いといことです。
ロコアテープの組織移行性(しみこみやすさ)について
アドフィードパップ40mgとロコアテープを貼付した際に、両成分が皮下組織へ移行する量を確認してみます。すると皮下組織の滑膜・関節液・血漿への移行濃度はロコアテープの方が15~35倍も高くなっています。
一般的にパップ剤はテープ剤にくらべ膏体量は多いのですが、主成分濃度が3~6倍ほど薄くなるため組織移行性が下がる傾向にあります。しかしロコアテープの組織移行量はテープ剤とパップ剤のそれを差し置いても非常に高い値となっています。この主因を確認してみたところロコアテープのもう一つの成分であるハッカ油が組織移行性の鍵となっていることが推測されました。
ハッカ油と組織移行性
ハッカ油:主成分であるメントールを30~40%含む製品((具体的には35%前後)。
副成分としてメントンやリモネン、セスキテルペンなどを含んでいます。ロコアテープの組織移行性が高い理由について、当初、私はメントールによる皮膚透過性亢進作用を考えました。しかし、もしそうでればハッカ油ではなくメントールと成分欄に記載するはずです。ロコアテープの成分にはハッカ油36.2mgと記載されています。
ハッカ油を添加物欄ではなく、成分欄に含有量も添えて記載することには何か意味があるはずです。これらのことから皮膚透過性亢進の主因がメントールではないことが推測されます。ためしにロコアテープの膏体内に含まれるメントール量を計算してみると、ハッカ油36.2mg中に含まれるメントールの量を概算すると12.67mgとなります。
ロコアテープ1枚中に含まれる膏体量が1.73gですのでメントールの濃度は0.7%となります。一般的な市販薬であるサロンパスやフェルビナクに含まれるメントール濃度が2~3.5%ですのでメントール濃度0.7%というのは少ないことがわかります。そのためメントールを主因として組織移行性が亢進するとは考えにくいわけです。
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つぎに成分として多い成分はメントンです。ハッカ油には具体的な成分濃度は記載されていませんがハッカ油の精製方法を確認したところハッカの地上部を水蒸気蒸留して得られた油を冷却し、固形物を除去した精油と記載されています。そのため含有量の多い順に考えるのであればメントール>メントン>リモネン>ピネンという順番が想定されます。
ハッカ油のインタビューフォームを確認してみると「局所適用でウレタン麻酔カエルの局所血管拡張作用、ウレタン麻酔ウサギ耳発赤作用を示すが、これは主として含有されるメントンによるものと推定される。」と記載されていますのでメントンによる血管拡張作用が確認できます。これに加えてメントンによる皮膚角質層の透過性が確認できれば、ロコアテープにハッカ油を加える意図が明確となります。
メントンを皮膚透過促進剤として利用した例を確認してみると、医薬品の経皮吸収率を上昇させる目的で50%エタノールにメントンまたはdリモネンなどのテルペンを加える事で経皮促進剤としての利用価値を見出したデータを確認することができました。ハッカ油にはメントンを含むテルペンが含まれますので、これらの働きを利用して経皮吸収率を高めたのであろうと私は推測します。(個人的な推測です)
このようにロコアテープは力価が高く、組織移行性が高い製剤であるため体内吸収量(AUC)が上がりすぎてしまうことが懸念されます。そこでロコアテープは1日2枚までしか貼付できないというルールがあります。2枚という理由は24時間貼付することで体内に吸収される医薬品全量(AUC)が、光学異性体成分である内服薬を使用した時のAUCを超えないように用量設計がされているためです。
ロコアテープを1日2枚7日間反復貼付した定常状態時のAUC=47000ng・h/ml
ラセミ体)フルルビプロフェン錠40mg 1日3回服用後の定常状態AUC=48000 ng・h/ml
またAUCが内服薬に匹敵するということは副作用も同様に起こりうることが予想されます。治験段階では貼り薬特有のかぶれ、紅班、湿疹などの皮膚症状の副作用がメインとなっていますが、ロコアテープを発売するにあたり、添付文書の記載内容については厚生労働省の指示のもと、重大な副作用項目に内服薬と同じ内容の副作用を記載しなければならないという責務がメーカーに課せられました。
禁忌についても同様です。通常NSAIDSの貼り薬では併用禁忌の内服薬剤はありません。しかし、ロコアテープに関してはバクシダール、バレオン、スオード、ロメバクトとの併用で痙攣があらわれることがあるため禁忌となっています。併用注意にはニューキロン系抗生剤全般、ワルファリン、リチウム製剤、などの記載がみられ、内服薬のような添付文書となっています。
他の貼り薬でみられるような光線過敏症の副作用は報告されていません。
ロコアテープは、このような製剤特性を有していますので貼り薬でありながら内服薬と同等の効果、副作用が起こりうる薬剤であることが分かります。そのため患者さんへ初回お渡しする際は1日2枚までしか貼付できないことをお伝えすることや、併用薬の確認を徹底することが必要となります。